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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第二章 双子迷宮
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第五十二話

 

 パトリックとキャロラインは継続して上の階層に進んだ。


 十五階層で影隼(シャドウファルコン)を倒した後、Bランクパーティの咱夫藍(サフラン)と出会い情報交換をした。

 お互いに特に問題は無く、キャロラインが影隼(シャドウファルコン)を倒したことで話が盛り上がった。


 咱夫藍(サフラン)の方も上に進むという話だったが、別れて別々に上がることにした。


 二十階層の階層主(フロアマスター)は何がいるか分からないので、二十階層には上がらない。

 上がってもギリギリ十九階層までだ。


 十九階層に上がれれば幽霊(レイス)に会うチャンスではある。

 ただし、魔法を使うらしいので、見たいけど戦うつもりは無い。

 それは事前にキャロラインと決めてある。


 影隼(シャドウファルコン)を倒すことが目標だったので、これ以上高望みをしてリスクを取ると身を滅ぼすと感じている。

 迷宮では無理してはいけない。絶対に。


 今日はキャロラインが腰に括り付けた麻袋に入っている影隼(シャドウファルコン)の首を持ち帰ることが大事だ。

 戦闘が終わり高揚しているパトリックは自分に言い聞かせた。


 抑えつける気持ちとは裏腹に迷宮探索は順調に進む。

 十六階層、十七階層と魔物(モンスター)の編成が変わらないので、目立った苦労を感じずに階層を上がって行った。


 神授工芸品(アーティファクト)の方も好調だ。

 昨日見たばかりの(パイプ)を拾った。

 水か炎か分からないけど、金貨二十枚にはなるだろう。


 途中で拾った魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)なども大きさは小さいが充分な稼ぎになる。

 つい欲が出るのを抑えながら巡視をしている。


 そんなとき、目の前に上の階層への階段が現れた。


「どうする?」


 悩みながらも、今日の流れは階段を上がれ、と言っていた。


「危なそうになったら、すぐに逃げる。

 帰りの道を確認しながら進みましょう」


 キャロラインも同じ考えのようだ。


 二人は慎重に十九階層への階段を上がった。




 初めて入った十九階層はそれまでの階層と何ら違いは無かった。

 少し通路が広いような印象を受ける程度だ。


 十九階層最初の戦闘は小部屋の中に骸骨(スケルトン)が五体いた。

 いつもの連携でスムーズに骸骨(スケルトン)を倒すと、部屋の隅で緑の魔水薬(ポーション)を見つけた。

 幸先のいいスタートだ。


 ……そこで引き返せば良かった。




 調子に乗ってついつい奥に進んだのが良くなかった。

 骸骨(スケルトン)が二匹だけの小部屋だと思って魔物(モンスター)を倒してる間に囲まれてしまった。


 小部屋を出ようとしたときには、右の通路も左の通路も骸骨(スケルトン)がいる。

 ……左に行けば戻れる。


「キャロライン、戻るぞ」


 左の通路から下の階層に戻るために、骸骨(スケルトン)を倒し始める。

 通路の横幅は二人並ぶともう一杯一杯だ。

 そこで右の通路から来る骸骨(スケルトン)に追いつかれないよう必死で戦う。

 二人で四体の骸骨(スケルトン)を倒し、道が開けたとき、背後が急に明るくなった。


 背後の光を疑問に思うけれど、原因を突き止めることよりも本能で前に駆け出す方が早かった。


 ゴウッ!


 背後で轟音が響いたときには二人とも前に向かって跳んでいた。




 炎の直撃はかわした。

 二人とも服の一部が焦げた程度で済んだ。


「はぁはぁ、今回は危なかった」

「本当だよ。調子に乗りすぎた」


 二人とも荒い息で早歩きをしながら、下の階層へと急ぐ。息が辛いけど、足を止める訳にはいかない。

 進めるときに少しでも進むことが生き延びることに繋がる。

 これは二人の経験だった。




 やっとのことで下に向かう階段を降りて十八階層に戻った。


「ここまで来れば一安心だ。ちょっと休もう」

「ええ、少し休まないと動けない」


 二人して、はぁはぁと息をしながら背負っている荷物から水筒を取り出した。


「いやぁ、よく帰って来た」

「危なく行方不明になるところだったよ」


 二人で軽口を叩いてると少しずつ余裕が出てきて、逃げることができたと実感する。


「今日はもうやめにしよう。さっさと帰って何か美味しいものを食べよう」

「そうだね。肉にしよう。肉」


 二人は今日の悪い流れを断ち切るために、早く帰ろうと通路を進みだした。




 十七階層に降りる頃には息も戻り、稼ぎを考えるようになっている。


「最後は酷い目に遭ったけど、久しぶりにいいアイテムを拾ったな」


「うん。

 話だけは聞いたけど、どうやって使うんだい?」


魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)があれば、セットしてボタンを押すだけだ。

 そう言えば、今日は魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)も拾わなかったか?」


「拾ったやつがあるし、試してみようか?」


「そうだな。せっかくだから試してみるか?」


 二人は足を止めて(パイプ)魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)をセットする。


「見てろよ。

 ボタンを押すと、」


 ボウッ! (パイプ)から火柱が出た。


「これは火炎筒(ファイアパイプ)だな」


「結構な火が出るね」


「あぁ。これなら売れるな」


 パトリックの表情は自然とニヤける。

 キャロラインが腰に麻袋をつけてるので、火炎筒(ファイアパイプ)はパトリックが預かり腰のベルトに差し込んだ。


 そして下の階層に向かって歩き始める。




 十六階層。

 徐々に降りて来て、心に余裕ができたきた。

 降りて来る途中でもう一つ魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)を拾ったので笑いながら歩いてると、通路の先に人影が見えた。


「おや、誰かいるのか?」


「十六階層だから、たまにはパーティがいると思うよ」


「それなら、様子ぐらい聞いとくか?」


 ゆっくりと人影に近づいて行くと、向こうもパトリックたちに気づいたようだ。

 お互いに警戒しながら距離を詰めて行く。


「よぉ、今日はどうだい?」


 パトリックが砕けた雰囲気で語りかけると、相手も少し肩の力を抜いた。

 通路の先には人影が三つ見える。

 三人組だろうか? この階層に三人組は珍しい。普通は四、五人のパーティじゃないと少し厳しいので、他にメンバーがいるのか気になった。


「そっちは何人パーティだい?」


 相手は緊張してるのか、パトリックたちの人数を気にしている。

 その質問に違和感を感じながらパトリックは緊張をほぐそうと笑顔で答える。


「こっちは二人だ。

 そっちは?」


「そうかい。

 こっちは三人だから、人数の多いパーティは怖かったんだ」


 足を止めて距離を保ったままだった相手はパトリックたちの人数を聞くとゆっくりと少しだけ近づいて来た。


 逆にパトリックたちは違和感を感じて、少し下がる。


「見たことが無いパーティだけど、名前を聞いてもいいかな?」


「パーティ名はまだ無いんだ。

 そっちは?」


「こっちは銅越え(ブロンズホッパー)だ。

 この階層の情報を教えてくれないか?」


 パトリックが偽のパーティ名を告げたので、キャロラインが身を固くした。

 二人は幾つかのパーティ名を使い分けている。

 ギルドの依頼、迷宮での探索、逃走用、裏仕事用。

 今、口に出したのは逃走用。

 時間を稼いで、目の前の敵から逃げるときのサインだ。

 パトリックは何か怪しいと感じて、とにかく逃げることを決めた。


 名無しパーティの三人は足を止めずに近づいて来る。


 ボウッ!

「走れっ」


 パトリックが三人の目の前に火炎筒(ファイアパイプ)を突き出した。

 火柱を上げて撹乱し、キャロラインと一緒に今まで歩いて来た道を走って戻る。


「クソッ! 逃すか」

火炎槍(ファイアランス)


 走り出したパトリックとキャロラインの背後が急激に明るくなる。

 ついさっき逃げて来た十九階層のときと同じだ。


「跳べっ」


 二人して飛び込み前転をした。






 二人とも火炎槍(ファイアランス)をかわすことに成功した。

 その後、立て続けに二発の火炎槍(ファイアランス)が飛んできたけど走り続けて逃げた。


 しばらく走り続けて三人組から逃げると、下の階層へと降りて行く。

 今回は幽霊(レイス)と違い、階層(フロア)を降りたら追って来ない訳ではない。

 下に降りたからと言って安全になる訳ではないので、とにかく警戒しながら出口を目指す。


「助けてくれっ。他の冒険者に襲われた」


 迷宮の出口に着くと、すぐに衛士に報告して詰所で保護してもらった。

 そうしてやっと足を止めることができた。




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