第五十一話
Cランク冒険者のパトリックはパートナーのキャロラインと一緒に冥界の塔に入った。
キャロラインはアビシニアン種で体格は小柄、茶色の縞模様で筋肉質の猫人だ。
パトリックがシンガプーラ種で筋肉質で小柄なのと似た外見をしてる。
パトリックがグレーの短毛、キャロラインが焦げ茶の短毛で二人ともゴールドの大きなアーモンド型の眼をしてる。
二人とも好奇心が強いので、淡々と生活するよりも冒険者として変化のある生活を求めて冒険者になった。
元はそれぞれ別にパーティを組んでいたけど、ここ五年ぐらいは二人で行動していて、三年前に銅になってからはそこそこ優雅な生活を送っている。
今日は昨日と同じように十組のパーティがこの迷宮に入ってる。
Bランクパーティ、咱夫藍のフランシスなどもいるので心配はしていない。
いきなり答えが出るとは思ってないので、十日ぐらいは巡回しながら様子を見るつもりだ。
それで被害が減るようなら、しばらく続けて燻り出せばいい。
被害が減らないようなら、誰かが何かを見つけるはずだ。
焦りも気負いもせずに迷宮に入った。
「冥界の塔の中はいつもと変わらないな。
今日は十五階層の影隼を確認したいけど、いいか?」
「もちろん。
本当に影が影隼か気になるし」
パトリックはキャロラインと連れ立って歩き始めた。
二人のランクは銅だけど実力もあるので、危なげなく階層をあがっていった。
「十階層で休憩するか?」
「そうだね。
誰かが腐死体犬を倒してくれてるといいのに……」
「まぁそのときはそのときだ。
拓けてる場所の方がいいし、大通りで休憩だな」
話しながら階段を上り、大通りに向かう。
二人はレドリオンで育った冒険者で、経験は十二、三年になる。
冥界の塔にも何百回と潜ってる。
休憩しやすい場所はしっかり覚えてるし、腐死体や腐死体犬は数えきれないほど倒してきてる。
休憩する場所の確保ぐらいは簡単なことだ。
「あそこにいるのは碧落の微風の四人か?」
「そうみたいだね」
二人は大通りで休憩してる碧落の微風の四人を見つけるとその方向へ歩き出した。
ボロンゴとデクサントが剣の手入れをして、マユとミユが水分を補給してる。
「パトリックさん、今日も調査ですか?」
ボロンゴがパトリックを見つけるとすぐに話しかけていく。
「あぁ、ちょっとドロップが増えてるって噂があったからな」
「えっ? そんな噂あるんすか?」
「まぁ、気持ち程度だけど多いかもって聞いたぞ」
「あ〜、そう言えばそうかも知れないっす」
「なんだ、ボロンゴもそう思うのか?」
「そうですね。
みんなちょっと教えて欲しいんだけど、最近アイテムが前よりも沢山落ちてる気がするけど、どうかな?」
「うん。そうね。ちょっと多いかも知れない。
ただ、これまで見たこともない板を拾ったからそう感じるのかも知れないけど……」
ボロンゴの問いに緊張してるみんなが一緒に考えると、マユが代表して答えた。
「へぇ、珍しい板だといい稼ぎになるんじゃないか?」
「そうだといいんすけど、今買取屋に預けてるんでまだ分かんないっす」
「それにしてもお前らも十階層に来るようになったんだな」
「実は初めてです。
昨日、十階層の階層主がいないって聞いて、様子見で来たんです」
「お、腐死体犬は大丈夫だったのか?」
「えっと、俺らは見てないです。
多分、先に上がったパーティが倒して行った直後じゃないかと思います」
「何だ、それ? まぁ無理すんなよ」
パトリックたちは碧落の微風と一緒に休憩すると、上を目指して別れた。
「何だか危なっかしいな……。
シルバーに助けられたってのも、そんなところかな」
「案外、シルバーって子もマメな子なんじゃない?
さっきの子たちよりシルバーの方が小さいんでしょ?」
「そうだな。
ま、シルバーは見た目だけは小さな子供だからな」
まずは十五階層に行けば、シルバーの実力が分かるだろう。パトリックはその言葉を飲み込んで階段を上がった。
予定通り十五階層に上がって来た。
パトリックとキャロラインは最近、この階層に来ていないので、少し緊張気味だ。
今はどうやって大通りに出るかを確認している。
下手をすると骸骨と腐死体熊に囲まれて、そこに影隼の奇襲を受けることになる。
四、五人のパーティなら警戒しつつ戦えるけど、二人だと少し危険だ。
今回の目的は影隼なので、骸骨と腐死体熊を少しでも減らして戦いたい。
計画を練った二人が大通りに飛び出す。
パトリックが骸骨と腐死体熊を相手取り、キャロラインは少し離れた後方で影隼を警戒する。
パトリックの負担が大きいけど、骸骨と腐死体熊だけなら問題無い。
上空を警戒しながら戦闘を開始した。
パトリックが順調に骸骨を倒していく。
パトリックは小柄だが、力があり骸骨に囲まれても押し返して自分の間合いを確保している。
キャロラインはその後ろで、上空に眼を凝らしていた。
「来た! 左の壁へ」
影隼を見つけたキャロラインが鋭く言葉を発した。
パトリックが壁際に移動して、壁を背中にして守りを固める。
一方でキャロラインが長剣を構えて、滑空する影隼を待ち構える。
ギィン!
キャロラインが影隼に吹き飛ばされたけど、大きなダメージはない。
速すぎるスピードのためキャロラインは攻撃できずにただ吹き飛ばされた。
たまたま影隼の爪と長剣がぶつかっただけだ。
パトリックが駆け寄ろうとしたが、キャロラインはそれを制し一人で立ち上がった。
それを見てパトリックは目の前の骸骨を倒すことに専念する。
キャロラインは再度長剣を構えて、大通りの中央で影隼を待ち構える。
再び影隼がキャロラインに襲いかかる。
集中しているキャロラインには翼を畳み、一直線に迫ってくる影が見えている。
その姿はすぐにキャロラインに迫り、折り畳まれた翼から鋭い爪が出てきてキャロラインを掴もうと大きく開かれた。
キャロラインは慌てて回避することしかできず、横に転がり爪をかわした。
パトリックが骸骨を倒しながらサポートに来る。
三度目。
影隼が大きく旋回すると再びキャロライン目掛けて滑空してくる。
キャロラインは前後に大きく足を開き、腰を落として長剣を前に突き出した。
そして待ち構える。
影隼が急降下してきて、目の前に爪を突き出してきたとき、キャロラインが長剣を影隼の喉に向かって突き出した。
ドン!
キャロラインの長剣が影隼に刺さると同時にキャロラインは勢いに負け後ろに弾き飛ばされた。
キャロラインは腰から短剣を取り出すと、長剣が喉に刺さり地面で暴れてる影隼に馬乗りになり、首を落とした。
「キャロラインっ、無事かっ?」
腐死体熊を倒したパトリックが駆け寄ってくる。
「大丈夫。怪我は無いよ」
大きく肩で息を吐きながらキャロラインが答えて、目の前に影隼の頭を突き出した。
「倒したわよ」
キャロラインは影隼の頭を持ち帰るようだ。




