第四十九話
二十五階層で枯木巨人を中心とする魔物の一団を殲滅すると、その十字交差点に神授工芸品が山ほど湧き出て来た。
魔水薬が何本か転がってるし、魔晶石交換筒じゃなくて水晶玉の魔晶石も落ちてる。
木でできた杖と弓まである。
これは限定特典だ。
……普通はこんなに出ないだろう。
有り難く頂いておく。
二十六階層。
二十五階層で限定特典を感じたので、今までよりも入念に神授工芸品を探して進む。
貰えるものを、見つけれずに素通りしたら悔しい。
そうやって進んでいると、心なしか一つ一つの部屋が少し大きくなったように感じる。
……これは恐らく部屋の中にいる魔物の数が増えるか、大きくなるかのパターンだろう。
リターンが大きくなるときには当然リスクも大きくなる。迷宮らしいところだ。
警戒しながら踏み入った部屋には、酸放鳳仙花が生い茂り、蘇生屍体が五体、麻痺蛾が三匹いた。
中にいたのは得体の知れない蛾だが、さっき鱗粉を吸ったときの舌の痺れ具合と魔水薬の効能を考えると、麻痺蛾あたりが妥当だと判断した。
既に顔の下半分は銀糸のマントで覆うようにして巻いているので、鱗粉が舞ったところで問題無い。
これぐらいの魔物なら余裕だ。
むしろ、神授工芸品が期待できるので速攻で飛び込んだ。
麻痺蛾をはたき落とし、蘇生屍体に銀の黄金虫の作った短槍を投げつける。
二十五階層で枯木巨人に投げつけた短槍だ。
枯木巨人を倒したあと、横に転がっていたのを持ってきた。二刀流で戦ってもいいし、遠距離攻撃用に持ち歩いてみてもいいかと思ったからだ。
投げた短槍が直撃した蘇生屍体はそのまま胴体に穴が開いた。
続けて部屋の奥まで一気に走り、弓を持っている蘇生屍体の首を落とす。
部屋の中だと逃げられにくいので、弓使いもすぐに倒せる。
後は弾ける酸に気をつけて、順番に蘇生屍体を片付けた。
それから部屋の中を調べると小さな羅針盤を見つけた。
羅針盤ぐらい神授工芸品じゃなくてもあると思うけど、特別な機能があるかも知れないのでもらっておく。
羅針盤を見るとこの部屋の出入口の方向を指し示すだけで、何の変哲も無さそうだ。
腰鞄に放り込んで、調査は後回しにした。
部屋の中に長く良すぎたのか、気がつくと出入口に黄色い幽霊が二匹いた。
出入口を押さえられて、部屋の中となると火球をかわすのも大変だ。
魔法を放たれる前に倒そうとしたら、目の前の床に大きな魔法陣が浮かんだ。
何だ? ヤバい!
反射的に部屋から飛び出し、幽霊に体当たりした。……つもりがすり抜けた。
直後に轟音がして部屋の中が爆発する。
部屋から水平に吹き出した火炎が通路の壁に当たるとT字に広がる。
部屋から飛び出したオレは実体の無い幽霊の体を擦り抜け、爆風に煽られて通路を転がる。
くっ、何だ?
転がりながら今まで見たことのない威力の魔法について考える。
単独攻撃じゃなくて、範囲攻撃。
火球ではなく、火炎陣か。
あんな強力な魔法が打てるなんて、……。
幽霊じゃなくて上位の怨霊か?
確かに見映えはほとんど同じだが、黄色く発光している。幽霊には発光現象は無かったと思う。
……しっかりと確認したことが無いので曖昧だが、上位個体として戦った方がいい。
甘く見てはダメだ。
そのとき、今度はオレのいる通路に魔法陣が浮かんだ。
って、逃げる場所が無ぇ!
また怨霊に体当たりをして前にかわす。
……擦り抜けてしまい、直後に爆風に煽られるのも同じだ。
ゴロゴロと転がり、怨霊を倒す方法を考える。
二度も擦り抜けた。
魔法じゃないとダメなのか?
いや、まだ何もしちゃいねぇ。
蒼光銀の長剣を構え、魔法を撃たれる前に打ち込んだ。
長剣が空を斬る。
魔力を纏ってもダメージが入らない。
魔力が足りないなら、もっと増やしてやる。
絶えず動いて狙われないようにしながら斬り続ける。
くそっ、斬れねぇ。
渾身の突きを放つと、怨霊の体を通り抜けてしまう。
待て、コラ!
咄嗟に左手を開き、怨霊の顔をありったけの魔力で掴んだ。
掴んだ瞬間、その頭を鉄の精錬のように熱く赤熱させ握り潰した。
ジュワッ!
その瞬間、怨霊が煙になった。
よく分からんが、行ける。
鉄の純度を上げるために精錬を試してて良かった。
魔法とは言えない気がするが、破壊力は抜群だ。
すかさずもう一匹に飛びかかり、左手のアイアンクローから魔力を流して燃やし潰した。
ジュッ!
一瞬で塵になる怨霊。
本当に魔法なのか何なのか原理が分からないが、魔力で直接握り潰せば燃やし尽くせるようだ。
怨霊を倒した通路には、紫色の捻れた木でできた杖が一本落ちている。
気づかなかったが、怨霊がこの杖を使っていたのだろう。
骸骨が持ってる剣や盾と同じだ。
安物だろうが、貰えるものは貰っておく。
二十七階層に上がると催眠茸や棘蔦が迷宮の至るところに蔓延るようになった。
その分酸放鳳仙花が減って助かるが、雰囲気がジャングルに似ていて葉っぱや蔦で視界が遮られる。アイテムを探すのが困難になってきた。
ただし、あちこちにアイテムが落ちているので探すのが大変だが、数は多い。
こうなってくると限定特典でアイテムが沢山発生しているのか? それとも元々多いのか? とてもじゃないが判断できない。
中にはおもちゃみたいな神授工芸品もあり、筒を細くした筆も出てきた。
小さいので魔晶石交換筒は無いけれど、直接魔力を流すと先端が光った。
……照光筆だ。




