第四十三話
ヘンリーがビビりながら査定額の説明を始めた。
「ま、まずは板の査定からです。
加熱板金貨三十枚
冷却板金貨五十枚
照光板金貨百枚
送風板金貨二十枚
静音板金貨二百枚
合計で金貨四百枚です」
おぉ、想像以上に高い。
「続いて魔晶石交換筒です。
大きさが三種類ありますので、小さな方から参ります。
小サイズが金貨三十枚。
中サイズ、金貨五十枚。
大サイズ、金貨百枚。
合わせて金貨百八十枚です。
先ほどの板と合わせて合計五百八十枚になります」
おぉ、こっちも高額だ。
パチパチパチ。思わず手を叩いて拍手してしまった。
「これは頑張り過ぎじゃないの?
予想以上に高いけど?」
僕が心配するとモンタギューが説明してくれた。
「この街ではこれぐらいの相場です。今回は数も多いので少し色をつけさせて頂きましたが……。
一番高い静音板を金貨二百枚としましたがこれは私も値段が分からないです。
お店によってはかなり変動する可能性もありますね」
ヘンリーの緊張具合がこちらにも感染ったようだ。
それほど無理をしていないと聞いて安心した。
「実は、魔晶石交換筒の小サイズがあと二つあるので、それも追加してもらって良いですか?」
「もちろんです!」
ヘンリーにとって大きな取引きが決まって嬉しそうだ。
魔法腰鞄から魔晶石交換筒を二つ取り出すと、横に並べた。
本当は板や魔晶石交換筒もまだあるし、それだけじゃなくて筒もある。
まぁ、最初から全部出す必要もないだろう。
僕は追加分を足した金貨六百四十枚を革袋に入れてもらうと、腰鞄に革袋ごとしまう。
かなりの金額だけど、買取りを生業にして大きな倉庫を持ってるモンテリ商会はこれぐらいのの取引もそれなりにあるのだろう、父のモンタギューは慣れた感じだった。
「ありがとうございました」
「シルバーさん、また来てね〜」
余計に堅くなったヘンリーと、逆に親しげなクリスタに見送られてモンテリ商会を出た。
続いて冒険者ギルドに向かって行く。
ギルドでは何を聞くかな?
冥界の塔に出る魔物と神授工芸品の情報ぐらいかな。
竜の洞窟の情報はまだ必要ないし、ギルドの運営について知りたいけどまだ早いかな。
時間的には昨日と同じ時間。
リナがいると楽なんだけど……。
冒険者ギルドに入ると、昨日と同じ様子だ。
多分、朝のピークを過ぎたタイミング。
疎らに獣人がいて、受付カウンターに並ぶほどではない。
昨日と同じカウンターの一番右にリナがいる。
「「おはようございます」」
カウンターの前に立ち挨拶すると、リナの声と被ってしまった。……恥ずかしい。
「あ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「昨日、冥界の塔に行って来たので少し買取りと魔物について教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「……分かりました。
ここでは話しにくいので、会議室の方にご案内します」
リナが場所を取ってくれるようなので助かった。
ここで腰鞄からアイテムを出すと、目立つし嫌だ。
リナについて行き二階に上がると6人掛けのテーブルの会議室に入った。
ギルドの二階には幾つもこんな会議室があるみたいで、扉が並んでる。
「お待たせしました。
それでは迷宮で取得したアイテムを見せて頂いても宜しいでしょうか?」
「それじゃ、ほいっ」
冷静なリナを驚かせたくなって、腰鞄から骸骨の持ってた剣と盾を二セット取り出す。
テーブルの上だと邪魔なので床の上に転がした。
「なっ?! こ、こ、これはっ?!」
驚いたリナが椅子を倒したけど、驚いただけじゃなくて興奮してるっぽい。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい」
リナは部屋を飛び出して行ってしまった。
……説明無しで取り残された僕はどうするべきだ?
しょうがないので取り出した剣を撫でて磨いてるとリナが戻って来た。
背が高くてスリムな男の獣人を連れている。
連れの男は四十歳ぐらい、チーターのような明るい金毛に黒い斑点があちこちにある。
顔も細くて手足も細いのでそういう種族なんだと思うけど見たことのない種族だ。
「ギルドマスター、こちらへ。
シルバー君はそっちに座って」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。
突然ですまない。私がレドリオンのギルドマスター、ギャレットだ。
シルバー君で合ってるかな?」
「はい、シルバーです。
……初めまして」
突然だけど、ギルドの運営を知るにはいい機会だ。
知己を得ておくことは悪くない。
「それでさっきの話だけど、もう一度見せてくれる?
……その鞄の機能を」
躊躇いがちにリナが腰鞄について話すので、リクエストに応えて腰鞄から剣を取り出した。
「ほう。魔法鞄かい?」
「そうみたいです」
「どこでこれを?」
「冥界の塔で」
「あそこの塔は板と交換筒ばかりだと思うけど、……」
「そうですか?
もう少しまともな情報はありませんか?」
「例えばどんな情報が欲しいのかな?」
「そうですね。十階層の階層主を倒したときにどれぐらいの頻度でどんな神授工芸品が手に入るか? とか」
「なるほど。十階層の階層主は黒妖犬で十階層の大通りに出現する。
神授工芸品は十回に一回程度、年に一回そんな話を聞くぐらいだ。
主な宝は魔水薬、魔法巻物。過去に魔法鞄が出たこともあるようだ。
今なら魔法鞄はオークションで金貨千枚にはなるだろう」
やはり知ってて惚けてたらしい。
ふざけたおっさんだ。
「こんな剣や盾も拾って来たんだけど」
「これは骸骨の持ってる剣と盾のようです」
僕が床に落ちてる剣と盾を拾うと、リナがフォローして説明してくれた。
「骸骨の剣と盾は珍しくないので、銀貨五十枚ぐらいが今の相場だろう」
「ふ〜ん。そうなんだ。
それじゃ、これは?」
僕は腰鞄から一本の筒を取り出した。
二人は訝しげな表情だ。
おや? 見たこと無いのかな?
「これも冥界の塔で拾ったんだけど、知らないかな?」
「私は知りません。見たこともありませんけど、ギルドマスターは?」
「私も知らないな。シルバー君は何階層でこれを?」
おや? 当てが外れたか。
二十階層より上の階層主の情報が欲しかったんだけど。
「そうですか……。
十八階層ぐらいだと思います」
「うん? 君は昨日、ライセンスを取ったばかりで、その足で黒妖犬を倒したと聞いたが……」
流石はギルドマスターギャレット、いい耳を持ってる。
黒妖犬を倒したとき、周囲に誰もいないと思っていたけど見られてたとは……。気付かなかった。
「よくご存じで」
ギャレットが自分の失言に気付いたようだ。苦笑いで誤魔化してる。
先ほどまでのやり取りだけど、僕が黒妖犬を倒すところを見られていたのなら、僕を試すために話させていたってところだろうか?
「黒妖犬を倒した後、もう少し探索したんですよ。そして、これを見つけました」
「そうか、疑ってすまない。
階層主を倒したら一度帰って来るパーティが多いので、まさかそのまま探索を続けたとは思わなかった」
「それより、本当にご存じないのですか?」
「最近は冥界の塔の十五階層より上に行く冒険者は少ない。
十五階層に影が出るから、危険を避けてその下の階層までで探索するんだよ」
影?
十五階層で影と言えば、影隼だろう。
また惚けているのか?
「十五階層の影だったら影隼ですね。天井の高さを活かして急降下してくるので、壁際を歩くか、早めに大通りの魔物を倒せば何とかなりますよ」
「影隼?
お前っ、それ本当か?
いやっ、倒したのか?」
急にギャレットが前のめりになった。
あんなに警戒してたのに、急に態度が変わるとこちらがついていけない。
「はぃ。かなり離れたところから一気に急降下してくるので、弓だと難しいと思います。
剣でも力がないと弾き飛ばされるかも知れません」
……初撃で倒せなかった未熟さが思い出される。
「それならCランクのパーティでも上手く行けば上がって行けるか……」
ギャレットがギルドマスターの顔になる。
冒険者に稼がせながら、迷宮の魔物の数を減らすにはランクを把握して指導するのも必要ってことか。
「十五階層は大通りの影隼に注意すれば何とかなると思いますよ。
問題は十九階層の幽霊です。
骸骨の後ろに隠れて魔法を撃たれると被害が増えます。それに物理攻撃だと倒せません」
「なっ!?
幽霊?」
ギャレットが何度目かの呻き声を上げる。
「お前、本当にどこまで行ったんだ?」
「十九階層まで行ったから、二十階層の階層主の情報が欲しかったんだけど」
「残念だが、教えてやれる情報は無い。
今まで二十階層に辿り着いたパーティはいない。
お前が辿り着けば、お前が一番手だ」
「はぁ。そうですか。
それなら他に何かないかな?
冥界の塔の魔物の傾向とか、お宝の傾向とか?」
「そう言われてもな。
元々冥界の塔は人気が無いから冒険者が入らないんだ」
「それなら竜の洞窟の方でもいいや。
それにしても冥界の塔の方が弱いって聞いたのに、何で攻略が進んでないんですか?」




