第四十一話
火球?
魔法か?
狭い通路で骸骨の群れを相手にしてる最中に目の前に生まれた火球。
咄嗟に右の骸骨に飛びかかって通路の中心から離れた。
直後にオレがいた場所で上がる火柱。
危なかった。
オレの顔にも火柱の熱気を感じる。
巻き込まれた骸骨は姿が消えた。
黒焦げになる、とかじゃなくて火柱に触れた部分がなくなっている。
なんていう威力。
シルヴィア姉さんの火炎槍よりもサイズは小さいけど、恐ろしい威力がある。
誰がやった?
周囲に目をやると骸骨の後ろに透ける体が見えた。
幽霊だ。
骸骨に隠れるようにして幽霊が三体いる。
どうする?
腰鞄から剣を出すと幽霊に向かってなげる。
オレの投げた剣は骸骨の頭上を超えて幽霊をすり抜けて、迷宮の内壁に当たった。
……剣はダメだ。すり抜ける。
仕方がない。骸骨から倒す。
幽霊は後回しだ。
幽霊がいるので、一ヶ所で足を止めて戦うことができない。
骸骨の群れを突き抜けて先に進むつもりだったけど、それも無しだ。
ここで骸骨も幽霊も倒す。
倒すと決めたら、とにかく刀を振り続けた。
骸骨は頭を砕けば、一発で倒せる。
ただ、囲まれると身動きが取れなくなるのでたまに剣や盾を奪っては骸骨の群れに放り投げて、ヤツらの進行スピードを調節する。
そうすると、いい感じで叩き続けることができる。
幽霊のせいであちこち飛び回ることになったがそうやって骸骨を片付けた。
残ったのは三体の幽霊。
動きは遅い。
半分靄のような体をしていて曖昧だ。
さっきは剣を投げたらすり抜けた。
三体の幽霊がバラバラのタイミングで火球を放って来る。
その火球をかわして、収納庫から蒼光銀の長剣を取り出した。
これならいけるはず。
蒼光銀の長剣に魔力を纏い、斬った。
幽霊の体の靄が揺らめいて消えていく。
殺った。
オレの力じゃないのが悔しいが、蒼光銀なら倒せる。
蒼光銀の長剣を振るえば、残りの二匹はもはや敵じゃなかった。
通路を見渡すと骸骨は途中で増えてたようだ。落ちてる剣や盾がかなりある。
それぐらいはもらって行くことにしよう。
数えてみると剣が三十二本、斧が三挺、槍が二本。盾が二十五枚。
結構な量だ。
斧や槍なんて戦ってるときには気づかなかったし。手ぶらの骸骨もいたから、全部で何体いたんだよって感じだ。
ボロンゴたちは十階層の階層主は黒妖犬って知ってたけど、二十階層も聞いとけば良かった……。
……いや、商人のヘンリーに聞いたときも、塔の方は十階層までしか階層主が分かっていないって言ってた気がする。
影隼と幽霊が難易度高いから、そこで攻略が止まってる可能性もある。
もしくは、隠れて攻略してるとか……。
二十階層の階層主か。
そう言えば十階層は闘技場じゃなかった。
密室型と開放型があるって言ってたのはテンペスだったかな?
十階層は開放型で他の階層と同じような普通の階層に階層主の黒妖犬がいた。
戦う前に見ることもできた。
……結局、向こうから駆けて来たので準備する暇は無かったけど、それでも見て判断できたし、逃げようと思えば逃げられた。
今度はどうだろうか?
密室型か、開放型か?
開放型だったら階層主がいるのは大通りだろうけど、密室型だったらどんなレイアウトだ?
そこからどうやって上に行く?
迷宮の構造を考えると二十階層は結構重要な階層な気がする。
難易度でも構造でも切り替わるとすれば、二十階層だろう。
ここまで来たら、二十階層の階層主は知っておきたい。
開放型でも密室型でも、戦える準備をしておこう。
まぁ、蒼光銀の長剣に頼ることになるんだけど……。
そんな風に思って二十階層に入ったんだけど、ここもこれまでの階層と同じようだ。
とりあえず、大通りの十字交差点を探す。
大体、縦横で通路ができてるので、おおよその位置が分かってれば迷子にならないし、大通りに出るのも簡単だ。
……大通りに出ても、雰囲気は変わらない。
えっと、ここって二十階層だよな?
あまりにも変わらないので、数え間違えたか不安になってくる。
ドキドキしながら十字交差点の方を見ると黒妖犬よりも大きな犬がいる。
双頭。頭が二つある。
体が真っ黒な犬で尻尾が蛇のように動いてる。
双頭番犬だ。
他には魔物はいない。
大通りに顔を出して確認しただけなのに、すぐに双頭番犬に気づかれてしまった。
双頭番犬が猛然と駆け出して来る。
まだ距離があるので腰鞄から槍を取り出すと、双頭番犬に向けて投擲した。
双頭番犬は一切スピードを落とさずに左右へのステップだけで槍をかわしてこっちに飛んで来る。
大きさだけじゃなく、スピードでも黒妖犬の上をいく。
三メートルを超える大きさなのに、グングンとこちらに迫ってくる姿は恐怖だ。
覚悟を決めて、大通りの中央まで進み出ると蒼光銀の長剣を上段に構えた。
双頭番犬のスピードに対抗するためには、最初から上段に振り被っておく必要がある。
当然、長剣には斬れ味を上げるために魔力を纏う。
せいっ!
双頭番犬が真正面から首を伸ばして噛みついてくるところを、半歩右に踏み込んで牙をかわしながら前足を斬りつけた。
斬っ!
浅いっ!
クソッ、双頭番犬の勢いに腰が引けた。
剣先が微かに双頭番犬の左前脚に傷をつけただけだ。
たかだか三メートル程度の黒い犬の体当たりに腰が引けた自分に腹が立つ。
振り返ると、Uターンして来る双頭番犬が目に入る。
今度は待たない。こっちから行く。
すぐにこちらに向かって駆け出す双頭番犬に向かってオレも走り出した。
でえぇぇぇいっ!
右手に持って走り、自分の間合いが見えたところで左足を大きく踏み込んだ。
少々格好悪いが蒼光銀の長剣を野球のバットのように前に向かって振る。
斬っ!
入った!
前脚を一本斬り落とされ、バランスを崩して転がって行く双頭番犬。
すぐにその後を追うと地べたに這いつくばる双頭番犬の首を叩き落とした。
勝ったけど、悔いの残る戦いだった。
最初から自分の力でいけなかったのが悔しい。
蒼光銀の武器を持っていて余裕があると慢心してたようだ。
自分に対してムカついてると双頭番犬の体が消え、光と共に宝箱が現れた。
階層主って必ず神授工芸品を出す訳じゃ無かったよな。
十階層の腰鞄は他にも倒した冒険者がいるだろうし、たまたまの当たりだ。
この宝箱はどうだろう?
同じようにたまたまの当たりか?
それとも初回討伐の限定特典になるか?
おまけに初回討伐の初回特典が発生するか?
宝箱を開けると、綺麗な長弓が出てきた。
ニメートルを超える弓。
木製だと思うけど表面は艶々な黒色になっているので、良く分からない。
そして弦が無い。
弓、でいいと思うけど自信は無い。
何故、冥界の塔で弓が出るのか分からないけど、何か理由があるのだろう。
そう言えば腰鞄の由来も分からない。
階層主を倒して得た神授工芸品なので、板や筒とは違う由来なんだろうと感覚的に理解した。
二十階層の階層主を倒せたので、まだ先に行ける。
一度帰って食料を買い込んだら次は三十階層に行こうと決めて、冥界の塔を下りることにした。




