第四十話
冥界の塔十一階層に入るとこれまで狭苦しかった小部屋が広くなった。個々の通路も広くなって歩きやすい。
十階層の階層主を倒して十一階層になったことで魔物も強くなり、骸骨が出るようになった。
骸骨の弱点は頭と分かったのでそんなに苦労しないけど、たまに剣や盾を持っているので小石を投げても防がれる。
盾を持たれるとこんなにも厄介だとは思わなかった。
盾を持ってる骸骨に刀で斬りかかったとき、盾で弾かれると刀が折れないか不安になるし、剣で攻撃されると剣での受け方を考える。下手な受け方をして剣が折れたら、とか。
そう言う意味では剣技をちゃんと学ぶ必要があるんだろう。
今は、仮に剣や刀が折れても銀の黄金虫に頼めば何とかなるので、気にせずに使ってるけど、折れたらもっと強い武器を作ろうと思う。
十二階層に入ったので、小部屋で休憩をした。
冥界の塔に入ってからボロンゴたち以外には会っていない。
他に冒険者が入っているのか不安になるレベルだ。
休憩をしながら銀の黄金虫に武器を作ってもらうことにした。
「ミネラ、短槍を十本ほど作れるかな?」
銀の黄金虫は普段はずっと肩や胸元に留まっている。
邪魔にならないし、もし潰しても硬くて潰れないので心配ない。
銀の黄金虫に短槍を出してもらうと、綺麗な鉄の短槍が土から生まれてくる。
不思議だけど、とても便利。
それを腰鞄にしまっていく。
あぁ、骸骨の持ってる剣や盾も回収していった方がいいな。
投げて使うなら多少の傷は関係ない。
魔物が武器を持つようになったからこっちも防御を上げた方がいいだろう。
収納庫から銀糸のマントを羽織ると長さを確認した。
自動調節機能があるかのようにピッタリだ。
どんな効果があるか分からないけど、使えば分かるだろう。
武器の補充を終えると休憩をやめた。
更に階層を上がると腐死体熊が出た。
デカい、グロい、煩い。
常に威嚇するような声を上げてるので、とにかく煩い。
普段の動きは遅いのに腕を振るのだけは速い。
魔鉄亜人形ほどの硬さがないけど、脅威度でいくと似たようなものだろう。
通路や部屋が大きくなったのは、こんな魔物のサイズに対応してるのかも知れない。
神授工芸品の方も出現頻度が上がった。
何種類かの板を拾ったし、魔晶石交換筒も三種類ぐらい拾った。
買取額が分からないけど、一日の稼ぎとしては充分だろう。
十五階層。
小部屋の連なる通路から出て、大通りを十字交差点に向かって歩いてると骸骨と腐死体熊に挟まれた。
前には骸骨が十体、後ろからは腐死体熊。
前方の骸骨には腰鞄から盾を取り出すとそいつを思いっきりサイドスローで投げる。
盾は回転しながら何体かを巻き込んで潰した。
骸骨の隊列を崩した後は、背後にいる腐死体熊の相手をする。
刀を振り被ると、一気に斬り下ろして頭から真っ二つにした。
これが普通の熊なら素材を取るために首だけ落とすところだけど、腐死体熊の死体に用はない。
大きく二つに斬り裂いた。
腐死体熊を始末した僕は骸骨に向き直るとその隊列の間を潜り抜けて首を落とすか頭を砕いていった。
全ての魔物を倒し終えると、大通りのあちこちに散らばっている死体と剣や盾の中から、使えそうな剣と盾を回収する。
そう言えばギルドの受付嬢リナも魔物が剣や盾を落とすと言ってた。
この腰鞄もここで拾ったアイテムだし、死体以外はバンバン拾っていってギルドか買取屋のヘンリーに任せればいい。
残すアイテムだけ収納庫にしまっておこう。
そんな風に考えてたら、違和感を感じて飛び退った。
その目の前を影が通り過ぎる。
何だ? 速い!
影の飛んで行った方向を警戒してると、何かが戻って来る。
慌てて壁際に寄ると今度は目の前スレスレを何かが通り過ぎた。
影は急上昇して上に舞っていく。
斜めに滑空して、狙いを補正すると一気にこちらに急降下した。
僕は刀を正眼に構え、目を凝らしながらタイミングを測る。
ここだ!
思い切り踏み込んで刀を叩きつけると、ぐしゃっと言う音と共に黒い塊が地面に落ちた。
影隼?
実物を見るのが初めてなので自信がないけど、真っ黒な鳥、それも両翼を広げると二メートルほどある。
それが頭が潰れて翼が折れた状態で地面に叩きつけられている。
確か隼は、水平飛行で時速百キロメートル、急下降時は時速四百キロメートル弱だったはず。
タイミングが合わなければとても倒せないだろう。
こんな大きな隼だと体当たりの衝撃も凄いし、爪や嘴で来られたらひとたまりもない。
骸骨たちとの乱戦中だったら気付けなかった。運良く気付けて良かった。
影隼に出会ったことで、少し身体が熱くなってきた。
この迷宮に入っても今までは無かったことだ。
得体の知れない緊張感がいい。
ピリピリとした空気を感じると一瞬背中と尻尾の毛が逆立つけど、全力を出し切る感覚は忘れられない。
ここも危険な迷宮で、そんな階層に足を踏み入れたのだと実感した。
十九階層。
十八階層で新しい魔導具を拾った。
これまでの板ではなく筒だ。
多分、これまでの板と同じような機能の魔導具だろう。
魔導具がちらほらと落ちていると探索も楽しい。
本来、迷宮探索の目的は神授工芸品の方が比重が大きいらしいし、この迷宮の魔物からは素材が得られないのだから、魔導具を探すのは当然だ。
よっぽどの戦闘狂じゃない限り、リスクは少なくリターンは大きく。
戦闘せずにお宝が得られるなら、お得だ。
ちょっと神授工芸品を探すことばかりに意識が行き過ぎたんだろう。
小部屋から出て来ると通路の両側に骸骨の群れがひしめいていた。
僕は通路の左からやって来た。
そして小部屋の探索をしてる内に、前からも後ろからも骸骨がやって来て通路を封鎖したようだ。
数をザッと見ると剣をギリギリ振り回せる程度の狭い通路に骸骨がそれぞれ二十体はいる。
この数を相手に前後とも殲滅する意味も無いので、前方の魔物を蹴散らして、先に進むことに決めた。
うおぉぉぉ!
腰鞄から骸骨の盾を取り出し、一枚を骸骨に向けて投げ飛ばし、もう一枚をしっかりと握り締めて骸骨に突撃した。
投げた盾で隊列が崩れたところに、構えた盾で特攻し強引に押し倒す。
止めれるものなら止めてみろ!
三、四体の骸骨が集中してオレのぶちかましが受け止められたら、その盾も放り投げて道を拓く。
まずは盾だけで骸骨を五、六体弾き飛ばすと刀を抜いて数を減らしていく。
骸骨の動きではオレは止まらない。
オレはそんなに遅くない。
それでも骸骨は数でオレを潰そうとする。
まだだ。まだ、もっと来い。
刀を振るった分、バラバラになった骨が足元に散らばる。
足元の骨を蹴飛ばしながら前に進み、新しい骸骨を斬りつける。
かなりの骸骨を倒し前方の隊列が薄くなったような気がしたとき、そこに魔力の高まりを感じて顔を向けると空中に大きな火球が三つ浮かび上がるところだった。




