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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第一章 スタンピード
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第四話

 


 偶然見つけた洞窟は迷宮だった。

 歩いて中に入ると周囲の土壁が淡く光っている。

 ……警戒のため松明を消してから知ったけど。


 迷宮……。

 魔物(モンスター)の巣窟。魔晶石(エーテル)の宝庫。

 場合によっては神授工芸品(アーティファクト)が見つかることもある。

 命の危険と隣り合わせだけど一獲千金の夢が叶う場所。

 多くの場合、地脈の力の強い場所にできるらしい。


 入口の辺りは何も感じなかったけど、奥に進むに従って空気が張り詰める、というか何かがヒリヒリと皮膚を刺激する。


 知らず知らずの内にニヤけていた。


 思わず微笑んでしまうような緊張感がある。


 得体の知れない力に引かれてこの迷宮に辿り着いた。偶然見つけたのではなく、必然だったと分かる。


 抑えきれない興奮で叫びそうになるけど、口をつぐみ息を潜め足音を忍ばせて無音で進む。

 元々音を立てずに行動するのが得意なメイクーンの一族だ。少しでも闇に紛れるようにして、淡く照らされる通路の端を歩いて行くと水色のブヨブヨとした丸い液体のような物体があった。

 高さは八十センチメートル、横幅はニメートルを少し超えるぐらい。


 何だ?


 奇妙な物体を見つけ好奇心が躍る。

 そしてゾクリと警戒心も上がった。


 しばらく様子を見ているとブヨブヨした物体がズルりと動いた。


 粘性捕食体(スライム)


 今まで見たことが無かったけど、有名な魔物(モンスター)だ。

 柔らかい体をしているため衝撃を吸収しダメージが通りにくいので物理攻撃に強く、魔法に弱い。


 くっ! 厄介だ。


 小手調べと長剣で切りかかったけど、刃が弾かれ剣が流れる。

 半透明なので中に見える核を捉えれば倒せるはずなのだが……。


 2、3回長剣を叩きつけてみたけど、ダメだ。剣を振り回すような戦い方では倒せない。


 バックステップして距離を取ると、一拍、長剣を正面に構え直して一直線に突きを放った。


 ズブリ。


 長剣の切っ先が粘性捕食体(スライム)の核に届くと一気に粘性捕食体(スライム)の体が崩れた。


 はぁ。


 何とか倒せた。

 崩れた粘性捕食体(スライム)は溶けるようにして地面に消える。

 剣先を見ると少しザラついている。

 少し粘性捕食体(スライム)の体液で剣が腐食したようだ。


 何とも面倒な敵だ。


 あまり会敵しないことを願いつつ先に進む。


 一人で歩きながら、粘性捕食体(スライム)の動きは遅いので無理に倒す必要はないか、と思いついたので様子を見つつドンドン先に進んだ。




 何度か粘性捕食体(スライム)をやり過ごし、分岐を適当に進んだ先で小さな広間を見つけた。


 慎重にその空間に入ると、端の方にキラリと光る物がある。


 何だ?


 近付いてみると、綺麗な短剣が落ちていた。

 何故、こんなところに短剣が?

 不審に思いながらも拾い上げて、鞘から抜くと薄い蒼色の刀身をしてる。

 出来の良い短剣だ。よく斬れそうな美しい刃を確認して鞘に仕舞うと腰に括り付ける。


 キリがいいので、この辺にして一度帰ろう。

 他にも何かないか調べたいけど、遅くなると皆が心配する。

 気持ちを切り替えて迷宮を後にすることを決めた。


 帰り道にも粘性捕食体(スライム)がいるけど回避して来た道を戻る。


 サラティ姉さんにしごかれた経験が活きてる。

 粘性捕食体(スライム)ほどの遅さなら問題なく回避できる。

 ちょっとだけ姉さんに感謝しながら道を急いだ。




 迷宮を出ると一瞬夜の暗さに戸惑った

 迷宮内の方が明るかった。

 松明を消していても魔物(モンスター)を識別できる程度の明るさがあった。


 しかし迷宮を出ると雲のかかった月明かりのみだ。

 遠くには平原の篝火が見えるけど、足元は暗い。


 足元に注意しながら街へと急ぐ。




 既に平原にはほとんど人がいない。

 供養が一段落したのだろう。そこかしこに遺体を並べた穴を見て、虚無感が襲ってくる。

 その虚無感、二人の兄さんの声のフラッシュバックに足取りを重くした。


 それでも、僕を心配してるだろう父さん、母さん、姉さんたちを想い、懸命に足を動かした。




 静まり返った街に入り、屋敷へと進む。


 屋敷の入口でシルヴィア姉さんとスファルル姉さんが膝を抱えて蹲ってる。


「ただいま。遅くなってごめん」


 二人は顔を上げると泣き出して抱きついて来た。


「心配したんだよ」

「ハクにまで何かあったら……」


「ごめん。遺体を探してる内に森の奥まで入ったみたいで……」


 しゃがんで僕を抱き締めている二人に僕も手を回した。

 僕の身体は冷え切っていた。三人で抱き合っていると、二人の温かさが身に染みた。


「父さんは休んでおられるかな?」


「どうしたの?」

「多分まだおやすみになられてないけど……」


「伝えなきゃいけないことがあるんだ」


「そう」

「多分お母様も姉さんもお父様の寝室よ」


「うん。シルヴィア姉さんもスファルル姉さんも一緒に来て欲しい。少しでも早い方がいい」


 そう言って二人を立たせると屋敷に入った。




 屋敷の中も静まり返ってる。

 集団暴走(スタンピード)で皆疲れ果ててる。

 静かな屋敷の中を三人で急いだ。


「夜分すみません。父さん、起きてますか?」


「ハクか? 儂は起きている。

 気にせずに入って来い」


 寝室の前に立ち声をかけるとすぐに返事があった。


 寝室の中には母さんとサラティ姉さんがいた。

 疲れた顔をしている。

 父さんの眼光は鋭いままだけど、母さんが参っているようだ。サラティ姉さんは飲み物を用意している。


「ハク、何処へ行っていたの?」


 母さんが弱々しい声で聞いてきた。


「ご心配をおかけしてすみません。

 遺体を弔っている内に森の奥まで入ってしまって……」


「ハクにまで何かあったら……」


「すみませんでした」


 母さんに泣かれるとどうしようもないな。

 確かに、今朝までの僕ならこんな時間に森を歩き回ったら危なくて仕方ないし。


「ミーシャよ、無事に戻ったのだお小言はまた今度だ。

 それよりも慌てているようだが、どうした?

 何かあったか?」


「すみません。いくつか報告があります。

 まずは今回の集団暴走(スタンピード)の発生源と思われる迷宮を見つけました」


「何!?」


 父さんが驚いて声をあげてる横で、母さんとサラティ姉さんも息を飲み身を強張らせる。


「森のかなり奥です。

 木々が倒れ森が壊れていたので、集団暴走(スタンピード)の進路上にあったのは間違いありません」


「しかし……」


 父さんが困惑した顔でまだ結論には早いと言葉を繋ごうとする。そこで僕は腰から短剣を外した。


「この短剣をその迷宮で拾いました」


「これは!」


 父さんは僕から短剣を受け取り、鞘から抜くと目を見開いた。

 その刀身の美しさを認めると、目の前でゆっくりと反りや歪み、傷がないか調べた。

 大きな息を吐くと、短剣を返してくれた。


「見事な短剣だ。恐らく蒼光銀(ミスリル)であろう」


 父さんが蒼光銀(ミスリル)と言って僕は驚いたけどさっきから短剣に釘づけのサラティ姉さんはやっぱり、という顔をした。


「迷宮は洞窟と違い中が薄明るかったです。

 土壁自体が少し明るいようでした。

 内部には粘性捕食体(スライム)が何匹もいて、襲いかかってくるほどではありませんが探索の邪魔になります。

 一匹、倒しましたが長剣が少し腐食しました」


 短剣に続いて父さんに長剣を渡す。父さんは長剣を抜くと同じ要領で調べ始め顔を顰めた。

 後ろではスファルル姉さんが、粘性捕食体(スライム)の名前に反応して身を動かした。

 スファルル姉さんは粘性捕食体(スライム)に興味があるみたいで、長剣の腐食具合に目を凝らしている。


「今まで我が領内で粘性捕食体(スライム)が見つかったのは数えるほどしかない。

 それが何匹もいたのか?」


「はい。私が見て回ったのは一階層の極一部ですが、それでも十匹程度は遭遇しました。残念ながら一匹目で苦労したのでそれ以降は回避して見て周り、小さな広間で落ちていた短剣を拾いました」


「箱や仕掛けはなかったか?」


「はい。特にありませんでした。

 そのまま無造作に落ちていたので拾い、持ち帰りました」


「そうか、迷宮が……。

 我が領内に……」


 父さんは長剣を僕に返しながら呟いた。

 サラティ姉さんが蒼光銀(ミスリル)の短剣を見たがり、スファルル姉さんは腐食した長剣を見たくて父さんの言葉を待っている。


「このことは秘密にするように、明日の朝改めて皆に今後のことを話す。

 それまでは時間が短いが皆、しっかりと休むように。

 また、短剣は明日までお預けだ。

 今宵はハクを休ませてやれ。短剣は明日見せてもらえ。

 今晩は解散だ」


 姉さんたちが残念な顔をしたけど、その場は解散し父さんの寝室を後にした。




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