第三十八話
ボロンゴたちと別れてからも同じ階層をウロチョロするのが恥ずかしかったので、少しでも大きそうな穴に入ってとにかく進むことにした。
この冥界の塔は大通り以外は、小部屋や広間が沢山規則的に並んでる。
多分、階段もあちこちにあると思うのでどこから入っても変わらない気もするんだけど、ハズレを引くと嫌なので少しでも大きめの部屋に入っていく。
薄く赤い光で照らされている小部屋を次々と見て行くと、たまに棘蛆虫や吸血蜻蛉がいて、無視したりちょっと部屋の中が気になったりしたら倒して調べてを繰り返していく。
ときには空っぽの部屋の中にポツンと腐死体がいるので、一瞬焦る。
何だろう?
人の部屋に勝手に入ってしまった。みたいな罪悪感を感じてしまう。
それで、さっさと逃げて先に進む。を繰り返してると迷宮に潜ってる気がしなくなるのが不思議だ。
右往左往してると、少し大きな広間に出た。
これは階段があるかも、と思ったら広間に二匹の屍肉喰鳥がいる。
屍肉喰鳥は半人半鳥の魔物。屍肉を漁り恐ろしい速さで森を飛ぶと言われてる。
冥界の塔のような高さがあって入り組んでいるところか相応しい魔物だ。
つまり、こちらとしては戦い難い相手。
小石じゃ難しそうなので、石の短剣を投げつけて一気に駆け出した。
一羽目の屍肉喰鳥に目掛けて投げた短剣が翼を刺さり、刺さった短剣に引き摺られるようにして屍肉喰鳥が壁に激突した。
二羽目の屍肉喰鳥は日本刀で斬りつけところを上に飛んでかわされた。
屍肉喰鳥は僕の刀をかわしながら両翼から真空波を放ってくる。
翼の動きで真空波の方向を予測してそれを回避すると、屍肉喰鳥が距離を取りながら僕の周りを回るようにして真空波を連発してきた。
距離が遠い。
頭のいい魔物だ。
距離を取ったまま、遠距離攻撃でジワジワと攻めてくる。
どうやって距離を詰めるかな?
僕は小石を拾うと手の中で握り締め、小石をバラバラに砕いた。その破片を一塊にして屍肉喰鳥に投げつけると砕けた石の欠片が散弾のように散って屍肉喰鳥を襲った。
散弾の直撃を受けた屍肉喰鳥があちこちから血を流しながら吹き飛んだのを追いかけて、半死半生の屍肉喰鳥にとどめを刺した。
奥に階段があるのが見えたので、最初に壁にぶつかって動きの鈍ったもう一匹の屍肉喰鳥を倒してからこの広間を確認する。
奥の方に上に上がる階段。
壁際の端に片腕ほどの透明な筒。
これが魔晶石交換筒だろう。
透明で軽い。これに魔力が入ってるのかようには思えない。まるきり魔力を感じない。
交換筒に魔力を貯める方法を聞いておけば良かった。
……実物があれば街で聴くこともできるからいいか。
気持ちを入れ替えて階段を上がった。
当たりのようだ。
また上に続く階段と横に伸びる通路、その通路の左右に穴が並んでいる。
通路も穴も無視して上への階段を上がる。
次も上がり、次も上がる。
階段が途切れて通路だけになったので仕方なく通路へ歩き出す。
途中、音波蝙蝠の巣があったらしくひっきりなしに音波蝙蝠が襲って来たけど、片っ端から斬り落として行動不能にした。
二十匹の音波蝙蝠。
言葉で表すのは簡単だけど、暗闇の中でも機動力があり、音波攻撃を喰らうと外傷がなくてもアッパーカットを喰らったようにクラクラする。
一人しかいないのに足を止められたら、一瞬で袋叩きに合ってしまうので気が抜けない。
通路の先に階段を見つけて上に上がると通路が一回り大きくなった。
歩きやすくなった通路を不思議に思いながら進むと、すぐに大通りに出た。
そういえば、これで十階層のはずだ。
前回は五階層でボロンゴたちと出会った。
そこから穴に入って上がって来て、十階層。一階層から数えて三回目の大通り。
ここから左に行くと十字交差点がある。
まずは十字交差点を確認しようとしたら、ワラワラと腐死体犬が集まって来た。
明らかに僕を狙っているので足元の石を次から次へと投げて、腐死体犬を成仏させていく。
囲まれるのが嫌なので、この際破壊する部位には拘らない。頭ではなく胴体を狙って確実に行動不能にしながら大通りの中央を歩いて行く。
……腐死体犬が建物際から包囲して来るので、必然的に大通りの中央を歩くことになってしまった。
同じ囲まれるのでも、さっきの二十匹の音波蝙蝠と目の前にいる三十匹の腐死体犬ではこちらの方がしんどい。
軽く斬り飛ばせる音波蝙蝠と多少ダメージを与えてもジリジリと包囲して来る腐死体犬。犬の方が時間がかかるし体力を使う。
迷宮はこうやって難易度が上がるんだなぁ、としみじみ考えていたら、交差点に一際大きな犬が見えた。
おぉ。
あれが黒妖犬だ。
ボロンゴから聞いた名前を思い出す。
他の犬の二倍はある大きな体格。真っ黒な体で背中にある鬣がユラユラと燃えている。
口が大きくて長い。あれに噛まれたら即死コースだ。
その犬がこちらに向かって走り出した。
おいおい、待った無しか。
持ってた小石を投げつけるけど、軽くサイドステップされてかわされた。
刀を構えて間合いを測る。
セイッ!
一瞬沈み込んだ体勢から黒妖犬の首元から背中の鬣にかけて一気に斬り上げた。
黒妖犬の体が真っ二つになって、動かなくなった。
……呆気ない。
まぁ、今なら魔鉄亜人形もこんな感じかも。
叩き斬った黒妖犬のところに光が集まり、消えるとそこに宝箱が現れた。
躊躇わずに開けると中には小さな鞄があった。
腰鞄と言っていいぐらいの大きさで腰に留めるベルトがついている。
これも魔導具なんだろうな。
蓋を開けてみると中には不思議な紋様が一面に描かれている。円と五角形を組み合わせて読めない記号で埋め尽くされている。
表面を撫でると滑らかな感触が気持ちいい。
さて、この腰鞄にどんな機能があるのか?
とりあえず、何か入れて見るか。
小石を入れると、中に入って消えた。
消えた?
慌てて手を突っ込むと小石の感触があって取り出せた。
何だこれ?
再度、小石を腰鞄の裏地にそっと近づけると、触った瞬間に小石が消えた。
指が裏地に触ると小石が戻ってくる。
収納庫みたいな感じか……。
収納庫と何が違うのか分からないけど、それは色々試すしかないな。
手頃な小石を拾っては腰鞄に入れて歩くと塔の入口があった方角に階段を見つけた。
まだ、余裕があるしもう少し上の階層も見ておこう。




