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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第二章 双子迷宮
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第三十七話

 

 塔の迷宮。

 五階層の大通りでどこに向かうか考えていると、右の方から声が聞こえた。

 小さな声だけど、怒鳴っているようだ。


 誰かいるのか?


 様子を見るために警戒して右へと進んだ。




「奥から新手。吸血蜻蛉(ブラッドフライ)が三匹」


 大通りの中央に立って剣を振り回している犬人(ワードッグ)が注意を促している。

 白地に黒い斑ら模様が点々と広がっている。ダルメシアン種の子供?

 僕よりは大きいけど、ジェシーよりは明らかに小さい。


 メンバーを探すと右の壁際に三人。

 倒れている女性の猫人(ワーキャット)とそれを介抱するもう一人の女性猫人(ワーキャット)

 その前に立って壁役になっている男の虎模様の猫人(ワーキャット)

 全員、十三、四歳だろう。

 男二人、女二人でパーティを組んでるようだ。

 男は二人とも戦士タイプ、女の子は分からない。


 大きな蝙蝠(バット)の死体や棘蛆虫(ソーンマゴット)が転がっているので、何体かの魔物(モンスター)と連戦になったようだ。


 吸血蜻蛉(ブラッドフライ)が大通りにいる戦士に向かって襲いかかると、その戦士がバランスを崩して転んだ。


「そこの戦士下がって。加勢する」


 声を上げると小石を吸血蜻蛉(ブラッドフライ)に投げた。


 小石が当たった一匹の吸血蜻蛉(ブラッドフライ)の翅が付け根から千切れ、残りの二匹が左右に避けた。

 すぐに片方の吸血蜻蛉(ブラッドフライ)にも小石を投げて体を潰すと、犬人(ワードッグ)の戦士と残った一匹の吸血蜻蛉(ブラッドフライ)の間に立った。


「誰だ!?」


 犬人(ワードッグ)の戦士が怒鳴ってきたけど、気にせずに目の前を飛ぶ吸血蜻蛉(ブラッドフライ)を日本刀で横薙ぎして両断した。

 斬られた吸血蜻蛉(ブラッドフライ)がその場に落ちるのを見ながら、先ほど翅を失い地面でもがいている吸血蜻蛉(ブラッドフライ)にもとどめを刺した。


 一瞬で訪れる静寂。


「すまない。勝手だが割り込ませてもらった」


「な、な、な……」


 膝をついた体勢の犬人(ワードッグ)のダルメシアンが何か言おうとしてるが言葉になってない。


「あ、ありがとうございます」


 介抱してた女性の猫人(ワーキャット)が戦士の言葉を遮るように感謝を述べた。


「あ、……。

 すまない。助かった。

 オレからも礼を言う」


 犬人(ワードッグ)の戦士は猫人(ワーキャット)の声で少し冷静になったようだ。


「助かったよ。棘蛆虫(ソーンマゴット)と戦ってるときに音波蝙蝠(ソニックバット)に不意を突かれてしまって。

 デクサント、大丈夫か?」


 虎模様の猫人(ワーキャット)の戦士が話しながら、もう一人の戦士に駆け寄って行く。

 デクサントがダルメシアンの犬人(ワードッグ)の名前みたいだ。


「あぁ、大丈夫だ。オレよりもマユはどうだ?」


「怪我は無いから、音波でよろけたんだと思う」


「そうか、それなら良かった」


「改めて、助かったよ。ありがとう。

 俺はボロンゴ。四人でパーティを組んでる。

 君は?」


 虎模様の猫人(ワーキャット)がボロンゴ。倒れているのがマユらしい。

 倒れているマユと介抱している猫人(ワーキャット)は二人とも青がかったグレイの短毛種だ。ロシアンブルー種に見える。


「僕はシルバー。勝手に割り込んだけど無事みたいで良かったよ」


「本当に助かった。気が動転してたみたいだ。

 それにしても何で攻撃したんだ。全然見えなかった」


 ボロンゴが馴れ馴れしく話し出した。

 僕はどんな距離感で話していいか分からないので、軽く合わせながら様子を見る。


「あぁ、ただの小石だよ。

 僕の身体じゃ間合いが届かないから」


「小石であんな威力なのか?

 すげぇな。

 見たことない顔だけど、いつも迷宮に潜ってるのか?」


「いや、僕は今日が初めてだよ。

 ちょっと様子見だけ」


「おいおい、初めてであんな攻撃できんのかよ。

 俺たちもウカウカしてらんねぇな」


「本当に、今日が初めてなのか?」


 立ち上がって埃を払ったデクサントも会話に入ってきた。


「まぁ、練習してたから」


「……」


 デクサントが驚いたような表情をした。

 そして自分の手と握り締めた剣を見る。剣先がプルプルと震えていたが、それは見なかったことにする。


 話すことがないんだけど、ちょっとした気まぐれで質問をした。


「この迷宮は何が出るんですか?」


「それは魔物(モンスター)? それとも神授工芸品(アーティファクト)?」


「どちらも、ですかね?

 知り合いがいないので、全然知らないんです」


「それなら、助けてもらった恩を少しは返せるかな」


 ボロンゴが笑うと、デクサントも力を抜いて息を吐いた。後ろではマユをゆったりと寝かせて介抱している。

 しばらく起こさずに様子を見るようだ。


「どこから知ってるのか分からないから、ちょっとしつこくなるかもだけど、許してくれよ。

 レドリオンの双子迷宮は冥界の塔(ハデスタワー)竜の洞窟(ドラゴンケイブ)の二つでできてる。

 こっちの塔は冥界の塔(ハデスタワー)だ。

 昔の都市が集団暴走(スタンピード)に飲まれて、冥界への扉が開いたとか言ってたな。

 それで滅亡したから冥界に続く塔ってことらしい。

 それとは別に単純に腐死体(ゾンビ)とか屍肉喰鳥(ハーピー)とか、冥界に住む魔物(モンスター)が多いからってのも理由らしい。

 俺たちはまだ見たことが無いけど、十階層の階層主(フロアマスター)黒妖犬(ヘルハウンド)だって聞いた。

 それで冥界の塔(ハデスタワー)にはどんなお宝があるかと言うと、古代都市で使われた魔導具が出てくる。

 加熱板(ヒートボード)とか冷却板(クールボード)とかだな。

 昔の都市が背の高い建物で、だからこの迷宮も上に伸びてるんだけど、そこで使われてたんだってよ」


「へぇ、魔導具か」


「あぁ、ここら辺でもたまに湧いてる。

 魔導具だったり、魔導具を使うための魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)とか」


魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)?」


魔晶石(エーテル)を加工した筒だよ。

 魔力が貯められるんだ。

 加熱板(ヒートボード)魔晶石交換筒(エーテルカートリッジ)が無いと使えないからな」


「この迷宮だと大体どれくらいの冒険者が潜ってるのかな?」


「デクサント、どれくらいか分かる?」


「いや、分からないな。

 百人ぐらいはいると思うけど……」


「それぐらい、……かな」


「マユ! 気がついた?」


 突然、女性の猫人(ワーキャット)が大きな声を出したので、そちらを見ると意識を失っていたマユが目を覚ましたようだ。


「ええ、大丈夫。

 ちょっと立ち眩みがしたたげだから……」


「良かったな、ミユ」


 デクサントが介抱してた女性の猫人(ワーキャット)の肩を叩きながらマユに寄って行く。

 倒れてた方がマユで、介抱してたのがミユか。

 姉妹かな?


「ありがとうございました。

 マユも意識が戻ったし、助かりました」


「良かったです」


「私はミユ。レドリオンの美味しいお店とかも知ってるから、困ったら声かけてね」


 介抱してた猫人(ワーキャット)だけど、さっきまであんなに大人しかったのに、マユの意識が戻ると急に元気になった。

 ボロンゴとデクサントがマユの方に行ったのもあって、ミユが僕と話してくれてるようだ。


 それにしても、マユのことをあんなに心配して、これまで危険な魔物(モンスター)に会って来なかったのだろうか?


「皆さんのような四人パーティだと、どの辺まで行けるんですか?」


「私たちはまだまだだよ。

 九階層まで。十階層の階層主(フロアマスター)はまだ無理だって言われたから、この辺りでアイテム探してるの」


「もう片方の洞窟の方は行かないんですか?」


「あっちは獣人が多いから。

 それに(スネーク)とか蜥蜴(リザード)はまだ難しいし」


「へぇ、そうなんですね」


「シルバー君はこれからどうするの?」


「もう少しあちこち探索してみます。

 ひょっとしたら魔導具があるかも知れませんし」


「そう。

 それじゃ、何かあったらギルドのリナさんに言伝(ことづて)してね。私たちリナさんに担当してもらってるから」


「あれ? ギルドって担当とかありました?」


「あ、私たちは、その、経験が少なくてよく分からないこともあるから、いつもリナさんにお願いしてるの」


「僕も今日対応してもらいました」


「あら、偶然。それならリナさんは分かるわよね。

 街に戻ったら連絡してね。

 今日のお礼もしたいから」


「いいえ、今日のは偶然ですし、お礼なんていらないですよ。


「そういう訳にはいかないの。

 私がお礼したいんだから、付き合ってよ」


「……はい」


 何だろう? どことなくサラティ姉さんに近いオーラを感じる。

 連絡する必要は無いんだけど、連絡しなかったらメチャクチャ絡まれそうな……。


 とりあえず、話しはそこまででボロンゴたちと別れて上を目指して歩き始めた。




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