第三十話
翌日、応急処置を受けたレゾンド、テンペス、ダグラスの三人が動けるようになったので、今後の方針会議を開いた。
これから迷宮探索をどうするか?
僕としては結構心配していたのだが、父さんが仕切ってアッサリと終わった。
内容は、取得した蒼光銀のアイテムを分配する。
既に貸与していた分を含めて正式に分配する。
レゾンドに杖、テンペスに短槍、ダグラスに長剣、メィリーに短剣を分配する。
メイクーン家から授与する訳では無く、分配とした。
共同で得た成果を分けただけで、貸し借りは無いと言うことだ。
本人たちにとっては怪我をしたお見舞いみたいでプライドを傷つけられたかも知れないけど……。
僕は長剣と銀糸のマントをもらった。
個人的にはもっと大量に持ってるけど、言えないので言わない。
参陣してもらってる各領軍は一度、撤退する。
兵士は皆無事だけど、指揮官が負傷したので一度帰って治療する。
集団暴走の危機が去り当面の対応が完了したし、当然、費用が嵩むという問題があってこその判断だけど、それでいい。
迷宮を囲むように土塁を築いてもらった。
街を守る土塁も築いてもらった。
迷宮で拾ったアイテムいくつかで、これだけのことをしてもらったのだからありがたい。
犠牲がない訳じゃないけど、街が滅びずに済んで良かった。と思うことにしてる。
そうして、各領軍が撤退した。
ダグラスがやたらとサラティ姉さんに熱を上げてること、メィリーが諦めずに僕にアプローチしてくること、この二つも去ってやっと平穏が訪れた。
僕は次の課題に取り組む準備を始めた。
一つ目は、武器の改良。
迷宮をメイクーン領軍で管理しなければならない。
これは仮に冒険者が探索するようになっても同じだ。
冒険者任せだけでは済まない。抑止力が必要だ。
今の鉄剣では歯が立たない、かと言って蒼光銀は数を確保できないので、粘性捕食体や亜人形程度を倒せる武器は必須だ。
二つ目は運営スキル。
管理するだけではお金がかかり過ぎる。
継続的に運営する方法が必要だ。
どうやって利益を出して行くか?
三つ目は人材確保。
魔物を倒せる人材。迷宮を管理できる人材が欲しい。
姉さんたちだけじゃ無理だ。もっと人がいる。
そんなことを考えながら迷宮に入った。
僕の場合、実際に戦って観察しないと分からないのだからしょうがない。
五階層まで進んで、魔石亜人形の動きを確認する。
動き自体はとても遅い。
囲まれなければ問題ない。
でもまぁ、鉄の塊を持って帰ろうってときだと回避して行くのも難しい。
「ミネラ、鉄剣出して」
僕は魔石亜人形の動きを確認しながら銀の黄金虫に土の中から鉄剣を生み出してもらった。
打ちたての新品だ。
その鉄剣で魔石亜人形を斬ると、刃が魔石亜人形に埋まったところで止まってしまった。
斬りきれない。
その状態の鉄剣を何度か突き刺して最後に頭を飛ばして魔石亜人形を倒した。
蒼光銀との違いは何だ?
そもそも鉄の純度ってどのくらいだ?
とりあえずこの鉄剣で試すか。
「ミネラ、鉄剣十本ほど用意して」
確か、鉄の精錬だったか。
高温で炭素量を下げることで鉄の純度を上げる。
その後、焼入れでより硬い鉄にする。焼戻しで硬くなったけど脆くて割れやすくなった鉄を粘り強い鉄にする。
銀の黄金虫が鉄を生み出せるんだから、僕にも何かできるはずだ。
銀の蜥蜴は僕と銀の黄金虫の相性がいいと言った。
きっと僕は金属性と相性がいいはずだ。
銀の黄金虫の作った鉄剣を一本掴み、魔力を流す。
しかしすぐに散ってしまう。
蒼光銀とは違い、魔力を留めておくことが難しい。
……魔力を纏うのと魔法を使うのは違うよな?
魔力を纏わせるのじゃなくて、魔力で鉄を変質させたいんだから。
精錬では熱を上げて酸素入れて、鉄から炭素を抜いて鉄の純度を上げるんだよな。
鉄剣を持って正眼に構える。
ゆっくりと魔力を流し、鉄の温度を上げて炭素を抜く。
鉄剣の柄元から温度を上げていく。
中の鉄から炭素と不純物を取り除く。
鉄剣の表面が少し黒ずんだか?
鉄剣を燃やし尽くして剣先から炭素を抜ききる。
どうも鉄剣の表面が薄汚れた気がするので、掌に魔力を纏わせて刀身を撫でた。
石玉や石の短剣を作ったときの要領だ。
撫でてみると表面の汚れは鉄剣に含まれていた不純物のようだ。
ガリガリと表面に浮き出た不純物を削り取り、その下の銀色に輝く刀身を磨き出す。
不純物が抜けたなら、元の鉄剣よりも鉄の純度が上がっただろう。
そうして十一本の鉄剣を順番に精錬していった。
似たような工程だけど少しずつ変えて、最後の一本は時間もかけてかなり純度が上がったはずだ。
次の実験のためにしばらく魔石亜人形を待つ。
炭素量が多いと硬いけど脆い鉄。
まず炭素量がニパーセント以下を見極め、鋼を作る。
鋼から更に炭素を抜くと軟鉄。焼入れしても硬くならない。純粋な鉄に近づいていく。
限界まで炭素を抜く必要はない。
まずは炭素量一パーセントからニパーセントの鋼のラインを確認する。
そこから更に焼入れ、焼戻しまでが勝負だ。
丁度、魔石亜人形が近づいて来た。
まずはニパーセント以下の鋼を見定める。
次々と魔石亜人形を使って長剣の斬れ味を試して、折れやすさを検証する。
鉄剣が折れることはないけど、その刀身にできた傷を見ると変化が分かる。
ただの鉄剣は表面にザラザラとした傷が残っている。
四本目あたりから傷が減って、最後の一本には傷が増えている。
やはり元の鉄剣は銑鉄レベルの鉄で炭素量が四パーセントはあったのだろう。そこから魔法による精錬で炭素を抜いて純度を上げていって、鋼レベル、炭素量ニパーセント以下になったのが四本目からのようだ。
失敗作の炭素量の多い鉄剣で魔石亜人形にとどめを刺して、鋼の鉄剣に焼入れをする方法を考える。
ここで大事なのは焼入れと焼戻し。
高温の焼きを入れてから急速に冷やすことで鋼がより硬くなる。
その後、再度鋼を少し低い温度で焼いて今度はゆっくりと冷ます。そうすると粘りのある鋼になる。
まずは焼入れ。高温で焼きを入れて一気に水で冷やす。
これを魔法で実現する。
今度は座った状態で剣を構え魔力を流し刀身の温度を上げていく。温度を上げて、中の鉄の分子構造を綺麗に並べる。充分上がったところから一気に冷やす。
これは表面から水を凝固させるつもりで一気に魔法で冷やす。
冷やし過ぎてもいけないのだが。要領が分からないのでここは一気にいく。
ジュワッ。
鉄剣の表面に凝固した水分が一瞬で蒸発した。
更に冷やして刀身から水分が滴るまでしっかりと冷やした。
次々と焼入れを試していく。
順番に終わらせると次は焼戻し。
今度は軽く火を入れて鉄剣を整えるイメージで魔力を通したら自然に冷まして熱を取る。
出来上がった鉄剣は鈍い黒鉄色をしてる。
また掌に魔力を纏わせて刀身を撫でた。
撫でても黒鉄色は変わらないが表面の光沢が増した。
いい出来だ。
周囲を見回すと新手の魔石亜人形がいた。
実験の検証といこう。
焼入れした鉄剣の斬れ味を試していく。
焼入れしたことで、硬さとしなやかさが増した。
魔石亜人形をザクザクと斬っていく。残念ながら斬り倒すとまではいかないが、斬れ味は充分だ。
刃こぼれを確認しても見当たらない。
脆さを改善することができたようだ。これで何とか連戦に耐えられる。
何とか武器の強度アップに目処がつきそうだ。
それはそれとして、自分でも剣を作れないだろうか?
鉄の精錬ができるなら、僕も銀の黄金虫みたいに剣を生み出せるのでは、と思ったのだ。
地面に手を付いて地中に埋まる鉄剣をイメージする。
その鉄剣を地面から引き抜くつもりで魔力を集中する。
来い。
来い。
オレの剣。
鉄よりも硬く、絶対折れない剣。
来い!
掌に手応えを感じたので一気に引き抜いた。
光る一本の刀が目の前にある。
おっ! できた!
猫宮志郎のイメージが強くなったらしく、日本刀だ。
全長一メートルほど。僕の身体と比較すると肩の位置まである。
長剣と比べると長さは同じ、重さは少し軽い。
残念ながら魔力は散ってしまう。使いやすそうだけど、魔力を纏えないと深い階層では戦えない。
蒼光銀が扱えるといいんだけど……。
「ミネラ、蒼光銀の長剣を出せないか?」
僕が銀の黄金虫にお願いすると、地面に光が集まり凝縮する。
光が消えた後に残ったのは小さな指先ほどの銀色の粒だった。
おぉ?
できるとは思わなかった。……けど、この量か。
とてもじゃないが長剣は無理だな。
でも、銀の黄金虫が蒼光銀も扱えるのが分かった。
ひょっとしたらもの凄いものが作れるかも。
読んで頂きありがとうございます。
次回から新章突入です。
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