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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第七章 帰らずの谷
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第二百五十六話

 

「「ヒィッ!」」


 僕が月夜の菖蒲(ムーンアイリス)の三人の元に歩き出すと、二人が悲鳴を上げた。

 ……思わず声が出でしまった、という感じだ。


「オーランさんの傷は大丈夫ですか?」


 楕円網籠オーバルメッシュケージを魔法で分解し、崩しながら声をかける。


 ムートンが抱き抱えるオーランを見ると、マントが破れ肩の辺りの肌が見えている。


 大きな怪我だけど、血は止まっているようだ。

 双剣も横に寝かせてある。


「治療したので、傷口は塞がりました。

 しばらく休めば気を取り戻すと思います」


 オーランの顔にかかった髪を払うように撫でて弓士のムートンが答えた。

 確かにオーランは落ち着いた顔で眠っているようだ。


魔水薬(ポーション)もありますので、良かったら使ってください」


 魔法鞄(マジックバック)から魔水薬(ポーション)を取り出して長女のルキーナに渡す。


 傷を治す赤の魔水薬(ポーション)と体力を回復する緑の魔水薬(ポーション)

 受け取ったルキーナが一瞬怪訝な顔をして僕の顔を覗き込む。


迷宮(ダンジョン)産の魔水薬(ポーション)なので、効きが良いと思います」


「いや、オーランの怪我はムートンが治したから大丈夫……」


 ムートンが応急処置を済ませたようでルキーナが受け取った魔水薬(ポーション)を返そうとする。

 迷宮(ダンジョン)産と聞いて少し困ってる。


「僕が直接拾ったものなので、金額は気にしないでください。

 それより、応急処置はどのようにして?」


 血狼(ブラッドウルフ)に噛みつかれたときの様子だと、かなり深い怪我だったと思う。

 それがさっき目に入った感じだと傷口が塞がっていた。


 手持ちの魔水薬(ポーション)を使ったとして、念のためもう一本魔水薬(ポーション)を使えばしっかりと治るだろう。


「……ムートンは治癒(ヒーリング)が使えるから」


 治癒(ヒーリング)


 ムートンが治癒(ヒーリング)を使えるとは驚きだ。


「それは凄い。

 失礼ですが、今も治療中ですか?

 魔法を見ることはできますか?」


「今は難しいですが、しばらく休めばお見せできると思います」


 ルキーナが後ろのオーランとムートンの様子を確認してから答える。


 怪我の治療をしたオーランは眠っているし、ムートンも魔法をかなり使ってグッタリしてる。

 ムートンは血狼(ブラッドウルフ)に向かって真空波(エアカッター)を連発してたし、その後で治癒(ヒーリング)も使ったのなら魔力切れになっていてもおかしくない。


 僕と話してるルキーナもかなり疲れたようだ。青い顔をしてる。


「それではしばらく一緒に休憩しましょう。

 ルキーナさんとムートンさんもこの魔水薬(ポーション)を飲んでください」


 そう言って追加で体力回復と魔力回復の魔水薬(ポーション)をルキーナに渡す。


 二人には魔水薬(ポーション)を飲んでしばらくオーランと一緒に休んでてもらう。


 僕は血の臭いの元になっている狼の死体を片付ける。


 あまり持ち帰りたくないけれど、このままにして魔物(モンスター)が集まってきても嫌なので魔法鞄(マジックバック)に仕舞っていく。

 まだ綺麗な瘴毒狼(ポイゾンウルフ)は珍しいし持ってれば使い道があるかも知れないけど、鋼鉄咬牙(アイアンバイト)で潰されて首を落とされた血狼(ブラッドウルフ)はグロいだけだし、数が多いから嫌がらせのようだ。


 死体を仕舞い、ついでに地面のあちこちに突き出ている突鉄槍(アイアンスピア)鋼鉄咬牙(アイアンバイト)を崩して更地に戻す。

 残念ながら血飛沫は消しようが無いのでそのままだ。


「少しは落ち着きましたか?」


 後片付けを終えてから、再びルキーナに声をかける。

 ちゃんと魔水薬(ポーション)を飲んだようで、ルキーナもムートンも顔色が戻った。


「えぇ、ありがとうございます。

 ……シルバーさんは凄いですね。

 一人で瘴毒狼(ポイゾンウルフ)を倒して血狼(ブラッドウルフ)を殲滅して」


 ポツリポツリとルキーナが話す。


「前はパーティを組まずに一人(ソロ)迷宮(ダンジョン)に潜ってましたから」


 僕が謙遜して視線を外すと、ルキーナは見えないところで大きく息を吐いた。


「……Bランクの冒険者ってこんなにも凄いんですね」


「?」


「私たちのパーティは素材採取専門で、それとムートンの治癒(ヒーリング)が評価されてBランクになったので、こんなにも違うなんて知らなかった。

 たまにBランクのパーティと一緒に行動したけど、これほど違うと思ってませんでした」


 蒼白な顔でルキーナが遠くを見ながら言った。


「冒険者にも色々いますよ。

 対魔物(モンスター)戦が強い人もいれば、護衛が得意な人、索敵が得意な人。

 素材採取も大事なことだと思います。

 色んな評価があるからいいんだと思います」


 僕も遠くを見て、改めて考える。

 結局、一人で全部はできないから、色んな人がいて色んなことができるのが大事なんじゃないか。


「そうね。

 私たちは弱いけど素材採取ができるし、ムートンは治癒(ヒーリング)が使えるし、まだ生きてるわ」


 ルキーナはそう言って僕に笑いかけると、ムートンに合図した。


魔水薬(ポーション)飲んで休んだから大丈夫。

 これから治癒(ヒーリング)を使うから、見てもいいよ」


 ムートンが治癒(ヒーリング)を見せてくれるらしい。


 ムートンはオーランの頭を膝に乗せて膝枕をしてる。

 破れたマントと肩当てを外し、破れたシャツとその下肩を露わにすると、竹筒から水をかけて表面の血を洗い流す。


 噛みつかれた場所はまだ火傷痕のように皮膚が爛れている。


治癒(ヒーリング)


 ムートンが唱えると傷口の辺りが薄っすらと明るく輝いて、皮膚が瑞々しく艶と張りを取り戻す。


 奇妙な光景だけど怪我が魔法で治っていく。


 風属性?

 光属性?


 ムートンは血狼(ブラッドウルフ)に向かって真空波(エアカッター)を撃っていた。

 風属性で治癒(ヒーリング)ができるのか?


「珍しいでしょ」


 食い入るように見てるとルキーナが話しかけてくる。


「えぇ、初めて見ました」


聖光(アレス)教の治癒魔法とは違うようです。

 これでもかなり評価されているのよ」


「はい。それは理解できます。

 治癒の手段は多いほど助かりますから。

 ありがとうございました。

 とてもいい勉強になりました」


「いいえ、こちらこそ助けてもらってありがとう」


「助かりました。ありがとうございます」


 ルキーナに続いて治癒(ヒーリング)を終えたムートンも僕に頭を下げる。


「三十頭もの血狼(ブラッドウルフ)を引き連れた瘴毒狼(ポイゾンウルフ)を倒した。って言ったら皆んなびっくりするわ」


 ムートンが軽く笑いながら言うと、ルキーナも笑った。

 そして、ピンク色の耳を掻きながら小さく呟く。


「三人目の黒瑪瑙(オニキス)も大きなニュースになるわね」




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