第二百五十五話
後ろから追いかけて来た瘴毒狼に気を取られてる隙に、周囲を血狼に囲まれてしまった。
僕たちを取り囲む血狼が十頭はいる。
瘴毒狼を始末して月夜の菖蒲のサポートに行きたいが、瘴毒狼は距離を保ったまま動こうとしない。
ヒュン!
ルキーナの弓弦が鳴る。
射線の先で頭を射抜かれた血狼がもんどり打って転げ回る。
流石はBランク冒険者。
いい腕をしてる。
しかし三頭の血狼に飛びかかられたオーランは劣勢だ。
双剣を使って上手くダメージを避けているけど、かわすのに精一杯、と言うかルキーナとムートンの壁になるために身体を張っている。
「真空波」
ムートンは真空波を放っているけど、威力はイマイチのようで、直撃して血狼を吹き飛ばしても致命傷では無さそうだ。
僕にも血狼が三頭飛びかかって来る。
でも僕は、迎え撃つのは余裕だ。
直線的に飛び込んで来る血狼をわずかにかわして、順番に首を落とす。
血狼程度なら、合金剣でも問題ない。
飛びかかって来た三頭をすれ違いざまの一瞬で仕留めて、瘴毒狼の様子を窺うけど距離を取ったまま仕掛けてこない。
ひょっとして、まだ血狼が増えるのか?
疑念を感じた瞬間に月夜の菖蒲の三人の元へ走り出す。
今よりも更に数が増えたらオーランが保たない。
彼女は普通の鉄剣で戦っているので、恐らく魔力を使えない。
魔力で強化しなければこれだけ反応の早い血狼の相手は厳しい。
オーランが倒れればルキーナとモートンも立て続けに集中攻撃を受けてしまう。
走り出した僕の背後から瘴毒狼が飛びかかって来る。
くっ!
これを狙ってたのか?
飛び込み前転をして背後からの瘴毒狼の攻撃をかわすと、転がった先を両サイドから血狼が挟み撃ちしてくる。
ふんっ!
勢いを殺さずに縦回転を横回転に変えて、独楽のように廻り二頭の血狼を剣で殴り倒す。
立ち上がって瘴毒狼の相対するとすぐに瘴毒狼が距離を取る。
クソッ!
ムカつく。
瘴毒狼は距離を取って、隙があるときだけ背後からの攻撃を仕掛けてくる。隙を見せるまでは血狼をけしかけて、余裕の表情だ。
その血狼も統率された攻撃を仕掛けてくるので厄介極まりない。
月夜の菖蒲は持ち堪えられるか?
心配した僕の視界の先ではムートンが杖で血狼を殴り飛ばした。
オーラン一人では全ての攻撃を捌けないようだ。
「突鉄槍。
突鉄槍」
月夜の菖蒲に仕掛ける血狼に向かって魔法を放つけど、突鉄槍では仕留めることができない。
血狼の反応が早いのでかわされるか、体を弾き飛ばすレベルのダメージ量しか与えられない。
そして血狼に魔法を放っていると瘴毒狼が攻撃を仕掛けてくる。
カウンターで剣を前脚に向けて斬りつけると、咄嗟に爪で弾かれた。
……小生意気な真似をする。
瘴毒狼を感心してる場合じゃなかった。
僕たちを周囲する血狼が増えて、連続攻撃が激しくなる。
そして血狼が数を頼りにたたみ掛けてくる。
この量は月夜の菖蒲には無理だ。
「きゃあっ!」
血狼がオーランの左肩に噛みつきオーランが倒れる。
それを見た瞬間に魔法を唱える。
「鋼鉄咬牙っ!」
突鉄槍では血狼の動きを止められないので、地面から大きな鉄の牙を生んで血狼に噛み付かせる。
まるで大きな虎鋏みのような牙が地面から生えて左右から噛みつき、捕える。
思いつきで唱えた魔法にしては上手くいった。
大きな牙は血狼に噛みつき、動きを止め、赤い毛並みを更に血で真っ赤に染める。
「鋼鉄咬牙。
鋼鉄咬牙。
鋼鉄咬牙!」
密度を増した血狼に向けて鋼鉄咬牙を連発すると、次々と血狼が腹や脚を挟まれて動きを止める。
「楕円網籠」
ついでに楕円網籠で月夜の菖蒲の三人を閉じ込めて、血狼の追撃から守る。
倒れ込みながらもオーランが血狼を仕留めるとムートンがすぐに肩の様子を診る。
多分大丈夫だろう。
急に鉄の籠に閉じ込められたルキーナがビックリしてるけど、目が合ったときに手でサインしたから分かってくれるはずだ。
三人を隔離したところで、本丸の瘴毒狼を振り返る。
鋼鉄咬牙が僕の仕業と分かったのだろう。猛然と突っ込んで来る。
先ほどとは違い、正面から思いっきり体重を乗せて毒爪で殴りつけてくる。
ふんっ!
振り下ろされる前脚を合金剣で弾き返す。
重い!
背後から仕掛けてきたときの速いけど軽い攻撃とは違い、重くて響く攻撃だ。
その攻撃を弾き返すと更にタングステン合金剣に魔力を流し込み、一気に赤熱させる。
「だぁっ!」
上に弾き返した右前脚ではなく踏み込んでいる左前脚を横薙ぎにして斬り払うと、瘴毒狼がバランスを崩した。
倒れ込んでくる瘴毒狼。
倒れ込みながら口を開く瘴毒狼の顔を顎下から一気に切り上げる。
ズシャッ!
喉仏から脳天まで一気に切り裂かれた瘴毒狼の顔はバックリと左右に割れた。
「どうだっ!」
瘴毒狼は切り口から血を吹き出し、一面に血の雨を降らす。
そして、ゆっくりと倒れた。
瘴毒狼は倒した。
次は血狼だ。
「鋼鉄咬牙。
鋼鉄咬牙。
鋼鉄咬牙!」
片っ端から鋼鉄咬牙で動きを止めていく。
瘴毒狼を倒したからか、逃げて行く血狼もいるけど、視界に入る血狼は順番に鋼鉄咬牙で捕まえて、動きを止めてから首を落として行く。
そこら中が鋼鉄咬牙で噛みつかれた血狼で埋め尽くされる。
続けて動けない血狼の首を次々と落としていく。
三十頭以上の血狼を完全に殲滅してから月夜の菖蒲の元に向かうと、三人は楕円網籠の中で肩を寄せ合って震えていた……。




