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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第七章 帰らずの谷
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第二百五十四話

 

「ウォォォーン」


 また狼の遠吠えが聞こえた。

 さっきよりも近い。


「マズいかも。

 離れるわよ」


「うん」


 ルキーナの判断にオーランが返事をして、ムートンが頷いた。

 僕も一緒に頷く。


 三人は紫平梨(パープルペア)背嚢(バックパック)に幾つか詰めて、来た道を戻る。

 三人で周囲を警戒しているので、僕はこっそりとオーランからもらった新しい実を三つ魔法鞄(マジックバック)に仕舞うのが精一杯だ。


 余裕があれば小枝を折ってまとめて収穫したけど、残念ながら魔法鞄(マジックバック)を隠して収穫するには余裕が無かった。


 四人でやや密集した状態で後ろを気にしながらニーグルセントに向かうので、先ほどよりも歩みが遅い。

 月夜の菖蒲(ムーンアイリス)の三人もいつもと違い僕が混ざっているので、僕に気を使っている。


「僕が殿(しんがり)を務めますので、皆さんは揃って前に進んでください」


 明らかに後衛の弓士のルキーナ、魔術師のムートンの二人は背後から襲われたとき対応できない。二人を殿(しんがり)にしたら襲われたときにカバーできない。

 かと言って、ルキーナとムートンだけで先行もできない。

 三人で先行してもらい、僕が後方を警戒するのがベストだろう。


「しかし殿(しんがり)が一番危険だ」


 僕の意見が合理的だけど、ルキーナが反対する。


 Bランクパーティの先輩として、まだ実力の分からない僕に無理をさせられないのだろう。


「僕もBランクなので大丈夫です。

 索敵はオーランさんの方が早いですし、僕が一番殿(しんがり)に向いています」


 そう言って強引に位置取りを変える。


「では、頼むが、決して無理はしないでくれ」


「分かりました。

 最悪、僕だけなら隠れて逃げますから、置いて逃げてください。冒険者だからそれくらいの覚悟はあります」


 意気込みを伝えてルキーナたちに発破をかける。


「う、分かった。

 それなら先行させてもらう」


「はい」


 僕が頷くとオーランとムートンも頷いた。


 そうして全員で合意できると一斉に走り出す。


 狼の遠吠えから離れるように移動しているけど、背後からプレッシャーが近づいている。


 五頭ぐらいの狼なら一気に倒し切った方がいいんだけど、かなり脚が速いので普通の狼じゃない可能性もある。

 不意打ちを喰らわないように注意しながら三人を追いかける。


 前方を走る三人を見ると、先ほどよりもスピードが上がって徐々に距離が開いている。

 やはり、僕を心配してスピードを落としてくれてたようだ。


 もう少し距離が開けば足止めを兼ねて魔物(モンスター)を確認してもいいだろう。


 と思って後ろを振り返ると、カラフルなシルエットが木々をすり抜けて追いかけてくる。


 げっ?!


 普通の狼じゃなかった。

 槍氈鹿(スピアセロー)よりも大きいかも知れない。

 大きくて骨太な狼だ。


 黄色い地毛に赤い斑ら模様。

 黒い耳の下に大きな顔があり、鋭い犬歯が見える。


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)


 手脚の爪に強い血液毒があって、引っかかれると出血が止まらなくなる。


 あまり近距離で戦いたくない相手だ。


「後ろから瘴毒狼(ポイゾンウルフ)が来てます。

 足止めするので、少しでも先へ!」


瘴毒狼(ポイゾンウルフ)!」

「危険だわ!」


「大丈夫です。少し牽制するだけです。

 足止めしてすぐに追いかけます!」


 三人に向かって大声を張り上げると、足を止めて瘴毒狼(ポイゾンウルフ)に向き直る。


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の動きを止めて距離を稼がないと逃げきれない。


突鉄槍(アイアンスピア)

 突鉄槍(アイアンスピア)


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の進路上に突鉄槍(アイアンスピア)を突き立てたけど、警戒なステップで左右にかわして走るスピードが落ちない。


 くっ。ダメだ。


 突鉄槍(アイアンスピア)ぐらいじゃ足止めできない。


 後ろ跳びして瘴毒狼(ポイゾンウルフ)から距離を取ると、先行する月夜の菖蒲(ムーンアイリス)を追いかける。


 ダメだ。


 月夜の菖蒲(ムーンアイリス)を巻き込むのはマズい。

 僕が瘴毒狼(ポイゾンウルフ)を引きつけて距離を作らなければ。


 ヒュンッ!


 そう思った瞬間に一筋の矢が瘴毒狼(ポイゾンウルフ)に向かって行った。

 矢は素晴らしい勢いで飛んで行き、しかしその毛並みに弾かれる。


「早くこっちへ」


 木の向こうでオーランが僕を呼ぶ。


「ダメです!

 皆さんこそ早く逃げて!」


 先ほどの矢は弓士のルキーナが放ったものだろう。

 月夜の菖蒲(ムーンアイリス)の三人が周囲を警戒しながら、僕を待っている。


 しかし、剣を持ってる僕とオーランはまだしも、弓と杖では瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の爪は危険過ぎる。


 僕は両手に剣を構えて瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の前に立ちはだかった。


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)月夜の菖蒲(ムーンアイリス)の方へは向かわせない。


 すかさず右手のタングステン合金の剣に魔力を流し赤熱させる。

 左手のコバルト合金の剣も同様に赤熱させて瘴毒狼(ポイゾンウルフ)を迎え撃つ。


 しかし瘴毒狼(ポイゾンウルフ)は目の前まで来たのにそこで足を止めた。


 どうした?


 僕の魔法を警戒してる?

 あるいはルキーナの弓か?


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)が足を止めて僕を睨み、月夜の菖蒲(ムーンアイリス)の三人は離れたところの木々の裏に隠れてる。


「来ないのなら、こっちから行くぞ。

 突鉄槍(アイアンスピア)


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の真下から突鉄槍(アイアンスピア)を突き出すと、素早い反応で瘴毒狼(ポイゾンウルフ)が横に跳ぶ。


 そこに向かって駆け出し、右から袈裟斬りして、そのまま身体を捻って左手の剣を裏拳のように横一閃。


 しかし、どちらも空振り。


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)が警戒して僕から距離を取っている。


 ……何か別の狙いがある?


突鉄槍(アイアンスピア)

 からの円盤刃(ディスクカッター)


 間を取らせずに再度こちらから仕掛ける。


 今度は突鉄槍(アイアンスピア)の直後に円盤刃(ディスクカッター)を織り交ぜて余裕を与えない。


 瘴毒狼(ポイゾンウルフ)の体勢を崩したところに斬り込んでたたみ掛ける。


「せいっ!」


 しかし空振り。


 距離を取られたまま睨み合う。

 膠着状態が続く。


 このまま膠着状態でいても仕方がない。

 どうやって突き崩す?


 悩んで月夜の菖蒲(ムーンアイリス)を見ると、瘴毒狼(ポイゾンウルフ)ではなく周囲を警戒してる。


 周り?


 しかも臨戦態勢だ!


 !!


 囲まれてる!


 追いかけて来た瘴毒狼(ポイゾンウルフ)に集中してて警戒が疎かだった。

 血狼(ブラッドウルフ)の赤い毛並みがあちこちに見える。


 囲まれた。




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