第二百五十二話
「これはまた、凄い新人が現れたね」
美人三姉妹の魔術師がそう言った。
「えっと、どう言うことですか?」
意味が分からずに聞くと三姉妹が顔を見合わせて何かを相談した。
そして、三姉妹の真ん中にいる桃耳の弓士が話し出す。
「私は月夜の菖蒲のルキーナ。
赤い耳をしてるのが妹のオーラン。
オレンジの耳は末っ子のムートン。
ニーグルセントの冒険者よ」
順番に頭を下げるので、僕も頭を下げて挨拶した。
二十歳ぐらいでみんな一緒に見えるし。生まれ順を言ってるけど、三つ子だと思う。
「あのね、最近ニーグルセントじゃ新人で二人組の子供の冒険者が有名になっててさ。
だからつい凄い新人って言っちゃった。
ゴメンね」
「へぇ、二人組の新人ですか……」
思わず棒読みな反応をしてしまう。
きっと、アレだ。
ネグロスとクロムウェルが何かやらかしたんだろう。
「その二人がつい先日Bランクに昇格したんだけど、こんなところに同じような冒険者がいたから驚いちゃった。
この辺りを探索しようとしたらBランク程度の腕が必要だからね」
「えっ?」
ネグロスとクロムウェルがBランクに昇格?
いつの間に?
と言うか、Bランクに昇格するようなことをしたのか?
「そもそも黒霧山の奥地に、私たちの知らない冒険者がいるだけでビックリなんだよ」
僕の反応を勘違いしたルキーナが更に説明してくれる。
「黒霧山は知らない冒険者が入ったら迷子になる可能性もあるし、運が悪いとAランク魔物だって現れるから、Bランクでもこの辺には来ないんだよ」
ルキーナが興奮したように身振りを交えて話す。
「あの、皆さんの冒険者ランクはどれぐらいなんですか?」
おずおずと質問すると、今度は双剣使いのオーランが答えてくれる。
「私たちはBランク。
でも戦闘よりは素材採取がメイン。戦闘せずに採集しにこの辺りまで来るけど、他の人たちはこんなところまで来ないよ」
「あ、そうなんですね。
実はレドリオン側から北上して来たので、道順とか分かって無いんです。
もし良かったらニーグルセントの方向を教えてもらえませんか?」
何かやらかしたっぽいので、ちょっと言い訳してみる。
「「「えっ?!」」」
三人が固まった。
あれ?
僕がこんなところにいるのがおかしいって流れだったと思ったんだけど……。
「ニーグルセントの場所も知らずにここまで来たの?
て言うか、レドリオンからここまで一人で来たの?」
そう言ってルキーナが詰問調で聞いてくる隣でムートンが呟く。
「バレットとユンヴィアじゃないんだから、変な冗談やめてよ」
あ、やっぱりネグロスとクロムウェルだった。
「はい。
二人とは別口で黒霧山に来ました」
「ん?
何? バレットとユンヴィアを知ってるみたいな口振りね」
「えぇ。今は別行動してますけど、同じパーティですから」
「「「はぁ?!」」」
三人が再び声を揃えると、ルキーナが聞いてきた。
「何?
アンタ、あの二人とパーティ組んでるの?」
「えぇ、黒瑪瑙って言います。
僕は黒瑪瑙のシルバーです」
「「「あぁ〜」」」
三人がため息を吐く。美人三姉妹が台無しだ。
「それなら納得だよ。
なんか驚き疲れた」
「えっと、それはすみません」
「黒瑪瑙のメンバーだったら、アンタもBランクなのかい?」
「はい。一応、Bランクです」
「なるほどね。
その歳でBランクで、一人でレドリオンから黒霧山を通ってニーグルセントに来るような腕なんだ」
ルキーナの質問に答えてたら次女のオーランが改めて確認してくる。
「まぁ、そうですね。
まだまだ知らないことも多いですし未熟ですけど、騒動に巻き込まれていたら、結果的に冒険者ランクが上がりました」
冒険者の中には腕自慢、戦闘狂みたいな人がいるから、はぐらかすように答える。
「姉さん、どうする?」
「どうする? って何を?」
「いや、まだ時間が早いけどすぐにコイツをニーグルセントまで案内する?
それともしばらく一緒に採取してから帰る?」
オーランがルキーナに確認してる。
確かに僕はニーグルセントへ案内して欲しいんだけど、オーランは僕の腕前を確認したいってことか?
それともいつも通り素材採取したいのか?
「あぁ、どっちでも良いよ。
でも折角なら少しは素材を持って帰りたいかな」
ルキーナの言い方は余裕のある言い方だ。
特にお金に困って無いのだろう。
三人姉妹で戦闘色が少ないのにBランクだし、かなり腕の立つ冒険者っぽい。
「もし良かったら、素材採取に同行させてもらえませんか?」
「あら? 何か欲しい素材でもあるの?」
「いえ、あまり素材採取の経験が無いので、どんな物が買取り対象になるのか、どうやって採取すると痛まないのかを知りたくて。
もしマズければ僕一人でこのままニーグルセントに向かいますので、道案内の方は気にしないでください」
いいチャンスなので素材採取への同行を聞いてみる。
月夜の菖蒲の三人にとっては余計な新人を連れ歩くことになるので、断られたら諦めるしか無い。
「そうね。
それなら今日は一緒に行動しましょ。
色々と相性が合わなければ、サッサと帰れば良いだけだし。
オーランもそれで良い?」
「うん。
シルバーがどんな風に戦うのか確認できればそれで良い」
「どんな風に戦うのか? ってエライ直接的ですね」
何を期待されているのかちょっと不安になってジャブを入れる。
「いや、私たちのパーティはあまり魔物と戦わないんだけど、その歳でBランクってどんな感じなのかと思って」
オーランが素直に答えてくれた。
「僕の実力を知りたい、ってことで良いですか?」
「うーん。そうね。
話題の二人と同じパーティって聞くと気になるし、戦闘系って言っていいのかな、他のパーティの人ってどんな風に黒霧山を歩くのかな、って」
オーラン自身が答えに困っている。
ひょっとしたらBランクまで駆け上がって伸び悩んでるのかな、と思った。
それか、何かしら切羽詰まった事情があるのかも知らない。




