第二百五十話
藍旋風鼬たちの作った多重圧縮結界を力で破った。
今までと違う力の込め方をしたので違和感があるけど竜鱗両手剣は紅く透き通って、恐ろしい斬れ味を発揮した。
既に剣身が徐々に濁り始めているのは、魔力の集中を解いたからだろう。
……流石にあの状態を維持するのはシンドイ。
魔力をゴッソリと使い切ったので身体が重い。
「さぁ、二回戦と行こうか?」
二匹の藍旋風鼬を見下ろして言うと、二匹は左右に別れて距離を取る。
こんなときも、前と同じように僕の左右に位置取って、前後左右から挟撃できるように動くとは良い判断だ。
左右に別れた藍旋風鼬の内、楕円網籠のフェンスの近くにいる右側の藍旋風鼬に狙いを定める。
スピードは向こうの方が速いから、障害物を使って追い込まないとすぐに逃げられてしまう。
「鎌鼬。
鎌鼬」
藍旋風鼬との距離を確認していると、すぐに魔法を撃ってきた。
キンッ、キンッ!
冷静に鎌鼬を弾きながら次の展開を考える。
奴らがまたあの多重圧縮結界を使ってきても、次はもう少し早く脱出できるだろう。
体力的にはシンドイが少し休んで集中すれば、多重圧縮結界を突き破れる。
もっと強力な魔法を隠し持っている可能性があるので、それだけは注意して回避しなければならない。
それ以外は連携させないためにも、先手を取って押し続けたい。
そう判断して目の前の藍旋風鼬目掛けて駆け出す。
「せいっ!
円盤刃。
突鉄槍」
藍旋風鼬の至近距離で剣を振り回し、後ろにかわしたところへ円盤刃で追撃。
横に飛んだところへ突鉄槍と連続で追い込む。
「鎌鼬。
鎌鼬」
時間稼ぎの鎌鼬は竜鱗両手剣を軽く当てて逸らし、小さな動きで距離を詰める。
「せい、せいっ!」
距離を詰めると横殴りの剣捌きから、遠心力を利用して回転しながら立て続けに剣を振っていく。
パキンッ!
あっ!
甲高い音で分かる。
僕が藍旋風鼬を追い込んでいる内に背後で楕円網籠を壊された。
もう一匹の藍旋風鼬が援護をしてこないと思ってたら、僕が一匹に攻撃をしてる間を利用して楕円網籠を食い破る努力を続けていたらしい。
チラッと後方を見ると、一匹の藍旋風鼬がこちらに向かって魔法を打とうとしてる。
「真空破弾」
「真空破弾」
目の前の藍旋風鼬も状況が分かったらしい。
二匹して真空破弾を唱えて僕から距離を取ろうとする。
真空破弾は直撃したところでダメージは無いけど吹き飛ばされてしまう。弾き難いので回避すると一手遅れてしまう。
時間稼ぎにもってこいの魔法だ。
二発の真空破弾を回避して藍旋風鼬を追撃しようとしても、二匹は楕円網籠に空いた穴に向かっている。
「突鉄槍!」
逃げ道に向かって突鉄槍を突き立てても、アッサリとかわされて楕円網籠の穴から飛び出して行く。
「くっ!」
二匹の藍旋風鼬は楕円網籠から逃げ出してしまった。
「はっ。
今度会ったら滅多切りにしてやるからな」
「追いつけるもんなら追ってこいよ。
相手してやるよ」
藍旋風鼬は自分たちが逃げてるとは思えない言葉を残して森に走って行った。
向こうから仕掛けてきたのに切り替えの速さはかなりのものだ。
「あーぁ。
何だったんだ、あの二匹」
虹真珠亀との会話を邪魔してきて、分が悪いと思ったらサッサと逃げやがった。
それなりに格の高い精霊だと思うけど、魔物かも知れないし、正体が分からない。
ここが帰らずの谷だと言うことは分かったけど、この谷だけを指すのか、この辺り一帯や山の麓全体を指すのかは分からない。
虹真珠亀と藍旋風鼬がいることは分かったけど、他にも格の高い精霊や魔物がいるかどうかは分からない。
何とも危険な状況だ。
せめてもの救いは、この辺りには妖精人が居なさそうなことと、少し新しい魔力の使い方を知ることができたことだ。
「こんな危険なところで野営することは無いな」
陽が傾いている。
もう一度虹真珠亀に会いたいけど、必ず会える訳でも、聞きたいことを知っている訳でも無い。
藍旋風鼬ぐらいなら何とかなるが、夜中に襲われるのは面倒だし、もっと強い魔物が現れたら太刀打ちできない可能性もある。
更に奥に進めば新しい情報を得られる可能性もあるけど、妖精人については期待薄だ。
火竜のときとは違い、今ここで危険を取る必要は無い。
素早く情報を整理すると、撤退することに決めた。




