第二百四十九話
「多重圧縮結界!!」
二匹の藍旋風鼬が同時に叫ぶ。
楕円網籠の中で藍旋風鼬を追い詰め、竜鱗両手剣を振り下ろしたとき、奴らが新しい魔法を唱えた。
それは蒼い光で僕を包み込んだ。。
ガキィィィィーーーン!
竜鱗両手剣が蒼い光に弾かれる。
藍旋風鼬は目を見開いて固まっている。
……何が起きた?
「はっ、はははっ。
馬鹿め。この多重圧縮結界は空気の壁を何重にも重ねた結界だ。
お前ごときが破れるようなヤワな魔法じゃない」
僕を囲っている蒼い光は球形の結界らしい。
直径五メートルぐらいか。
全力で振り下ろした竜鱗両手剣を弾くぐらいの力がある。
竜鱗両手剣の剣先でその蒼い膜のような結界を触ると硬質で、押してみても剣先が刺さる気配は無い。
目の前の藍旋風鼬は後退ろうとした姿勢のまま高笑いをしている。
もう一匹の藍旋風鼬が駆け寄って来る。
「大丈夫か?」
「問題無い。
ヤツの間抜けな顔を見ろ。
さっきまで調子に乗っていたが、これで形勢逆転だ」
……形勢逆転って、やっぱりアレが精一杯だったんだな。
「しかし、ヤツを閉じ込めても、我らも籠の中。
この籠を破らないことには我らもここから出られんぞ」
「問題無い。
我は一度この籠を破っておる。
力を集中すれば、時間はかかるがやがて綻びが出る」
……ほぅ、そうやって破ったのか。
実際にどうやって破ったのか観察させてもらおう。
二匹の藍旋風鼬は僕のことを放っておいて、楕円網籠の破り方を話し始める。
楕円網籠に近づきその鉄の網を確認して噛みつく。
楕円網籠は直径二、三センチメートルの鉄の太い鉄線でできた金網なので、噛みついたところで歯の方がボロボロになるぞ、と見ていた。
「確かにこの籠は硬いが、力を歯に集中すればやがて噛み切ることができる。
それを繰り返せば少し時間はかかるが、問題無い」
……結局、地道に頑張ったんだな。
二匹が一ヶ所で楕円網籠を噛み噛みし始めたので、僕もこの多重圧縮結界とやらを破るために竜鱗両手剣を握り締める。
二刀流は力が分散するので一本は魔法鞄に仕舞って、一本だけに集中する。
「ふんっ!」
ガンッ!
多重圧縮結界はビクともしない。
空気の壁って言ってだけど、何でできてるんだ?
剣を下ろして掌で触るとひんやりとした鉄のような肌触り。
ツルツルに磨き込んだ鉄の表面のようだ。
それでいて向こう側が透けて見える。
ガラスのようでもあるけど、先ほど剣を叩きつけたときの感触は石のようだった。
空気の膜がどういう物か分からないけど、圧縮して何層も重ねるとこんな感じかも知れない。
漠然とだけどイメージできる。
空気の層が破壊されないように積み重なっている。
……防弾ガラスのようなものか。
銃弾のようにガンガン攻め立てても、複層の膜が衝撃を吸収するかのように抑え込む。
となると、それを超える衝撃か、斬れ味か。
すぅ。
大きく息を吸って竜鱗両手剣に魔力を流す。
竜鱗両手剣の鱗がザワザワと震えて紅く発光し始めた。
更に力を込めて強引に魔力を押し込む。
ブワッと竜鱗が波打ち、白熱すると、剣身から鱗粉のような紅い光の粒が舞う。
「これでどうだっ!」
両手で振りかぶり、竜鱗両手剣を多重圧縮結界で袈裟斬りにする。
ガンッ!
くっ!
これでもダメか。
弾かれた竜鱗両手剣をゆっくりと持ち上げ、切先を多重圧縮結界に突き立てる。
切先は一点だけが多重圧縮結界に接した状態で、その先に刺さることは無い。
まだ足りない。
もっとだ。
両手を拳を絞り込み、脇を締める。
中段、正眼に構え、短く吸って長く吐く。
呼吸を整え、じっくりと魔力を練り込む。
切先を多重圧縮結界に押しつけながら竜鱗両手剣を白熱させる。
ザワッ。
竜鱗両手剣が震えながら暴れる。
震えさえも抑え込むように固く剣を握り締める。
白熱した竜鱗両手剣の震えが徐々に小さくなった。
紅く発光していた剣身が白く輝いている。
「これで、どうだ!」
グッと力を入れて竜鱗両手剣を多重圧縮結界に押し込む。
……しかし、竜鱗両手剣は一ミリも動かない。
まだ足りない。
もっとだ。
力をもっと集めろ。
剣身を眩く輝かせてる魔力を更に集中させる。
ただ一点。
切先にその力を集める。
僕は竜鱗両手剣を自分の手の先のようにイメージして、全身の力をただ切先に集めていくと、徐々に剣身の輝きが切先に移動していく。
少し刃渡り部分の明るさが落ちたようになり、その分切先の輝きが増す。
竜鱗がビシッと切先に向けて向きを揃える。
ザワザワとしてたときは魔力を吹き出して、それを攻撃力に変えている感じだったが、今はスムーズに魔力を流し鱗の一枚一枚に力を溜めている。
眩しく輝いていた切先もゆっくりと光が収まり、紅く透き通った剣身が現れてきた。
紅玉?
いや、紅玉のような透明感と輝きを持っているためにそう見えるだけだ。
ぐっと腰を入れて竜鱗両手剣を多重圧縮結界に突き刺すと、スッと刺さった。
パァンッ!!
竜鱗両手剣が刺さると多重圧縮結界が割れて衝撃波が走った。
中にいた僕は関係無かったけど、多重圧縮結界の外にいた二匹の藍旋風鼬は巻き起こった突風に吹き飛ばされて転げ回る。
「僕の方が早かったようだ」
何が起こったか分かっていない藍旋風鼬たちに向かって悠然と告げた。




