第二百四十七話
虹真珠亀に妖精人のことを聞いてるところで邪魔に入った藍旋風鼬。
風魔法を使うかなり格の高そうな魔物だけど、こっちの話を聞かずに一方的に魔法を撃ってくるので結構煩わしい。
両手に持っている竜鱗両手剣を左右に広げるようにして構えてタイミングを測る。
少し風魔法を使う程度なら接近戦に持ち込めば少し大人しくなるだろう。
どうせ、この格の奴は信じられないぐらいタフだから思いっきりぶっ飛ばして丁度良いダメージ具合になるはずだ。
藍旋風鼬に正対し無造作に竜鱗両手剣に魔力を流すと、竜鱗両手剣が紅く輝きザワザワと震え出した。
「!」
藍旋風鼬が何かを感じたようで、咄嗟に距離を取る。
「逃すかっ」
二本の剣を引き摺るようにして走り出して藍旋風鼬との距離を縮めると、藍旋風鼬は尻尾を振り上げて魔法を唱えた。
「真空鏡壁!」
僕の目の前に縦横三メートル程の歪んだ空気の膜が広がる。
恐らく空気を固めて作った防御壁。
「ていっ!」
躊躇うことなく竜鱗両手剣を叩きつけると、バキンッと大きな音がして歪んだ空気の壁が崩れる。
「瞬突波!」
藍旋風鼬は真空鏡壁が破られるとすぐに新しい魔法を唱えた。
直後に全身を激しい衝撃が襲い、僕は吹き飛ばされる。
「!!」
吹き飛ばされた僕はゴロゴロと地面を転がり衝撃が収まるとすぐに体勢を直す。
衝撃で吹き飛ばされたけどダメージは殆ど無い。
突風に押し流されたようなものだ。
藍旋風鼬を確認すると奴は四本の脚で踏ん張り、こちらを睨んでいる。
「お前は何者だ。
たかが猫人が一人で何しに来た」
吠えるだけで追撃に来ないとは詰めの甘い奴だ。
魔法を見せて余計警戒されるのも嫌なので、このまま力押しで行く。
再び藍旋風鼬に向かって駆け出すと、藍旋風鼬が魔法を打ってくる。
「鎌鼬。
鎌鼬」
キキンッ。
二本の風刃を剣で弾いて詰め寄ると、またも背中に衝撃が走った。
「ぐふっ!」
例の謎の衝撃だ。
鎌鼬を竜鱗両手剣で弾いたのに、背後から殴られたような衝撃。
その衝撃に堪えてそのまま突き走る。
「真空破弾!」
目の前の藍旋風鼬が二足で立ち上がり両手を突き出して魔法を唱えると、両手から直径一メートルほどの蒼い空気の塊がこちらへ飛んでくる。
やばいっ!
「鉄壁っ!」
剣を十字にクロスさせて防御の構えを取りながら、目の前に真空破弾を防ぐための鉄壁を作り出す。
ドゴンッ!
銀色の鉄壁の中央に真空破弾が当たり、壁が大きく凹んだ。
ちくしょうっ。
小さな演技でこちらを誘い、謎の技で隙を作らせ大技を仕掛けるとは良い度胸じゃないか。
「魔法も使えるとは思わなかったよ。
でも、いい加減諦めたらどうだい?
今なら楽に殺してあげるよ」
鉄壁に登った藍旋風鼬が僕を見下ろして言った。
「これくらいで勘違いするなよ。
三連針」
これまで魔法を使ってこなかった僕は不意に鉄針を三本連続で飛ばした。
「ふんっ。これぐらい。
鎌鼬。
鎌鼬。
鎌鼬」
魔法で攻撃してくるとは思ってなかった藍旋風鼬が慌てて、鎌鼬で迎撃する。
「それなら、これはどうだ。
円盤刃」
三連針を打ち落とした藍旋風鼬に向かって円盤刃を飛ばす。
円盤刃を見た藍旋風鼬は横に飛んで鉄壁から降りて回避しようとする。
「この大きさは迎撃できないか?
楕円網籠」
地面を走って逃げる藍旋風鼬に対して直径十メートルを越す楕円網籠を一瞬で発動させると、奴は鉄籠に囚われて逃げ出せなくなった。
「くっ、これは何だ?」
「見れば分かるだろう。鉄籠だよ。」
「……こんな魔法聞いたことも無い」
「知ってることが全てだとは思わないことだな」
僕が言うと藍旋風鼬は口を曲げてこちらを睨む。
「貴様、何が目的だ?」
「何故、僕を襲った?」
奴の問いに、問いで返す。
離れた距離から籠の中の藍旋風鼬に尋ねると、奴は楕円網籠撫でたり触りながら返事をする。
「ここは俺たちの縄張りだ。
勝手に入るものがいれば許さない」
「……」
……ただの獣と同じようだ。
さて、どうするか?
楕円網籠から解放すればまた襲ってくるだろう。
このままずっと籠に閉じ込めておくか?
「大人しくすれば、籠から出してやるけど……」
「要らん。
すぐにここから出てやる」
「おいおい、それ結構頑丈だよ」
「これぐらい問題ない」
「本気かよ……」
鉄籠の中の藍旋風鼬は楕円網籠に噛みつき始めた。
「……それぐらいでは壊せないと思うけど、諦めが悪いなぁ」
諦めの悪い藍旋風鼬を見ながら肩を落とし腰を下ろすと、背後から声が聞こえた。
「鎌鼬。
鎌鼬。
鎌鼬」
「あっ?!」
背後を振り返ると風の刃が三本飛んで来る。
慌てて寝転がって三本の鎌鼬を回避する。
「何で?!」
そこには楕円網籠に閉じ込めたはずの藍旋風鼬がいた。
「鎌鼬。
鎌鼬」
どうやって抜け出たか分からないが、藍旋風鼬が魔法を連発してくる。
キンッ、キンッ。
すぐに竜鱗両手剣に魔力を流して鎌鼬を弾く。
まぁいいさ。
何度でも捕まえばいいことだ。
次はもっと頑丈な檻に閉じ込めてやる。




