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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第七章 帰らずの谷
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第二百四十一話

 

 火竜(ファイアドラゴン)について危機感を煽るのも嫌だったので、あまり語ることがなかった。


 場がシラけることを心配したけど、更に新しい料理が届くとヘンリーが話題を変えてくれた。


「ワンシーさんは薬師とお聞きしましたけど、どちらで修行されたのですか?」


 焼いた川魚が各人の前に並べられると、その頭にかぶりつきながらワンシーを見る。


「そうですね。

 私は元々、大公都の工房で修行してました。

 まだまだ未熟ですけど、素材が手に入りやすい場所ということでレドリオンに来たんです」


「へぇ、まだお若いですよね?

 行動力のある方でビックリです」


 ヘンリーが感想を述べると、チェルミンが合いの手を入れる。


「ワンシーは結構無茶するよね。

 素材を探しに黒霧山(モンサルトゥス)に行くって言って、早々に冒険者に助けられたり」


「あった、あった。

 脚には自信があるとか言って、猪に追いかけられてるところを助けてもらったんだっけ?」


 エルメラも加わってはしゃぐと、ワンシーが身を乗り出して止めてくる。


「止めてよ〜!

 それは昔の話でしょ」


「結構お転婆さんですね。

 レディは無理されない方がいいですよ」


 ヘンリーも笑いながら揶揄ってワンシーが赤面してる。


「あのときは抽出に失敗して、急遽素材が必要になっただけよ」


 拗ねてるワンシーにヘンリーが助け舟を出す。


「もし素材が必要になったら私にも教えてください。

 用意できるものがあるかも知れません」


「ヘンリーさんは魔水薬(ポーション)用の素材なんかも取り扱ってるの?」


 チェルミンが不思議そうに聞く。


魔水薬(ポーション)用と決めてないですけど、白胡桃の実とかを扱ったこともありますよ。

 魔水薬(ポーション)の素材を教えて頂けると商売の幅が広がるので助かります」


「ワンシー良かったね。

 仕入れ先は多い方がいいでしょ」


 チェルミンがワンシーにウィンクして話を振るとワンシーが照れたように話す。


魔水薬(ポーション)の素材は高騰してるし、なかなか手に入らないから取り扱ってもらえると助かるけど……」


「そうなんですか?」


 ヘンリーが尋ねる言葉に僕が答える。


「僕も聞いた。

 大公都やその周辺では素材が高騰してるらしいよ」


「えぇっ?

 大公都でも?」


 大公都でも高騰してるとは知らなかったようだ。ワンシーが口を押さえて驚いている。


 確か碧玉の村(ジャスパーヴィレ)の薬師、ディキシュー姉妹がそんなことを言っていた。


 碧玉の森(ジャスパーウッズ)集団暴走(スタンピード)の後、残党狩りのような討伐はしたけど落ち着いただろうか?


 森に入れなければ素材どころじゃないはずだ。


「シルバー君はまた黒霧山(モンサルトゥス)に行かないの?」


 碧玉の村(ジャスパーヴィレ)のことを考えていたらワンシーが聞いてきた。

 欲しい素材でもあるのだろうか?


「多分、また黒霧山(モンサルトゥス)に行きますよ。

 何か欲しい素材でもあるんですか?」


「あら、バレちゃった?」


 ワンシーがニヤリとして喜んでいる。


「話の流れで分かりますよ。

 何か特別な素材ですか?」


「ちょっと高価な素材だけど、シルバー君なら取って来れるんじゃないかと思って」


「余裕があれば探すぐらいはいいですよ」


硝子石榴(グラスガーネット)の果実と網笹(ネットバンブー)の葉なんだけど……」


 ワンシーが心持ち控えめに素材の名前を言った。


硝子石榴(グラスガーネット)網笹(ネットバンブー)ですか?」


 よく分からない僕が復唱するとワンシーが詳しく説明してくれる。


硝子石榴(グラスガーネット)の果実は両手で握れるぐらいの楕円形の木の実で外側の皮は真っ黒なんだけど、中に透明な赤い粒々の実が詰まってるの。

 網笹(ネットバンブー)は直径一メートルにもなる太い竹ね。茶色い大竹で竹にも笹の葉にも白い網目模様があるから、すぐに分かると思う」


 ワンシーが力強く言って何となく素材はイメージできたけど、この前は見なかったような気がする。


「ふぅん。何となく見分けられそうな素材ですね。

 ただ、前回黒霧山(モンサルトゥス)に行ったときに見た覚えがないので、お約束はできないです。

 黒霧山(モンサルトゥス)ってずっと似たような森が続いててどこにどんな素材があるか分からないんですよ」


「あったら、でいいから!

 だから、もしも見つけたら譲って欲しいの」


「えぇ、分かりました」


 ワンシーの勢いに押されるようにして承諾するとワンシーがかなり喜んでいる。


「まだ手に入るかどうか分からないのに凄く嬉しそうですね。

 何か特別な魔水薬(ポーション)の素材なんですか?」


 不思議に思ってワンシーに確認すると、ヘンリーも同じように興味深げにワンシーを見た。


「そうね。

 かなり珍しい素材だからよっぽどの縁が無いと手に入らないと思う。

 魔水薬(ポーション)としては中級治癒薬の素材だから、結構大きな傷も治せるし、かなりお高い商品になるよ」


「それは凄いですね」


 ヘンリーが相槌を打って、僕が更に質問する。


「その魔水薬(ポーション)が必要になったんですか?」


「今は必要無いけど、必要になるかも知れないってことで問い合わせがね」


 ワンシーがそこまで言って言葉を濁した。

 貴族か領軍かは分からないけど火竜(ファイアドラゴン)の噂に備えて魔水薬(ポーション)の需要も増えているのだろう。


 流石に火竜(ファイアドラゴン)を倒しました。とは言えないんだけど、正式に火竜(ファイアドラゴン)討伐が案内されるまではまだまだ影響が大きそうで少し心配になる。


「どうせなら他にも貴重(レア)な素材があれば教えてもらえますか?

 せっかく黒霧山(モンサルトゥス)に行くのなら、ついでにそれらしい素材を取って来ますし……」


「本当?

 それなら茸類なんか助かるな」


「シルバーさん、私のところにも回してくださいよ。

 うちは魔水薬(ポーション)の素材に限らずに買い取りますよ」


「あ、そうだった。

 この前は昇竜(ライジングドラゴン)の皆さんがいたからギルドで買い取ってもらったけど、僕が採ってくるだけならヘンリーのところにお願いできるのか」


「そうですよ。

 目の前にいるのに忘れないでください」


 ヘンリーが泣き崩れる真似をして笑いを誘う。


 そうだよな。

 わざわざ黒霧山(モンサルトゥス)に行くんだから、ついでに珍しい素材を探してみるのもいいな。


 成り行きでヘンリーやワンシーと食事をしたけど、いいアイデアをもらえた。

 明日からの黒霧山(モンサルトゥス)探索が楽しみになってきた。




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