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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百三十二話

 

 黒霧山(モンサルトゥス)で見つけた四頭の槍氈鹿(スピアセロー)


 新人冒険者パーティ、深影(デンスシャドウ)の頼みで二人で四頭の槍氈鹿(スピアセロー)を倒すことになった。


 私たち二人だけが森の木々に隠れて四頭に近づいているけど、離れたところから深影(デンスシャドウ)の四人が私たちの動きを見てる。


「四頭も倒してどうするんだよ?」


「ん? 倒してから考える。

 別に足だけ持って帰ってもいいだろ?」


「まぁそうだな。

 成り行きに任せるしかないか……」


「そうそう。

 様子見なんだし、無理するつもりはないよ」


「分かった。

 本当に無理はするなよ」


 そう言って左右に別れる。

 ネグロスは右、私は左。

 何度も繰り返してきた動きだから、迷いは無い。


 先ほどの会話も槍氈鹿(スピアセロー)との戦いに向けてではなく、槍氈鹿(スピアセロー)を倒した後の話だ。


 槍氈鹿(スピアセロー)との戦いに心配は無い。


 ネグロスと私で左右から挟撃して一体ずつ倒すだけだ。


 ネグロスと別れてポジションに着くと、槍氈鹿(スピアセロー)とネグロスの位置を再確認する。

 向かい側でネグロスが同じように私の位置を確認している。


 ネグロスが軽く手を挙げ、私も手を挙げると作戦開始。


 ネグロスが槍氈鹿(スピアセロー)に向かって走り出すと、一頭の槍氈鹿(スピアセロー)が音に気付いて顔を挙げる。


 その槍氈鹿(スピアセロー)がネグロスに向かって突進し角を突き出したところで、一瞬、ネグロスは横にかわしてから木剣で首を落とす。


 鮮やかな一撃で一頭目を仕留めた。


 私は槍氈鹿(スピアセロー)が私に向かって角を突き出したところを、木剣で横殴りにして角を弾くと、そのまま連撃で首を落とす。


 ネグロスのようにスマートでは無いけど、結果は変わらない。


 ネグロスは三頭目も同じように角を突き出したところを、同じようにかわして首を落とす。


 私は最後の一頭が突き出した角の根本に木剣を突き刺して仕留めた。


 先ほど深影(デンスシャドウ)と別れたばかりだけど、問題なく倒し終えた。


 私たちが戦っている時間よりも深影(デンスシャドウ)の四人がここまでやって来る方が時間がかかるかも知れない。


 倒した槍氈鹿(スピアセロー)は四頭。


 一頭で四百キログラムぐらいありそうだ。

 四頭全てだと千六百キログラム。とても担いで帰る気にはならない。


 森から出るまで半刻。出口からニーグルセントまで二刻、いや荷物を運びながらだと三刻ぐらいかかりそうだ。


「全部はいらないけど、脚ぐらいは持って帰るか?」


魔法鞄(マジックバッグ)を見せるって手もあるぞ。クシシ」


 ネグロスが茶化して笑ってる。

 ネグロスにとっても、どちらでも構わないんだろう。




 しばらく待ってると深影(デンスシャドウ)の四人が木の枝を避けながらやって来た。


 一応、四頭の槍氈鹿(スピアセロー)を血抜きのために逆さにして木に吊るして待ってた私たちを見つけると駆け寄って来る。


「凄かったな。

 あんなに凄いと思ってなかった。すまない」


「ウチも疑うようなこと言って悪かった」


 ジオールとメリアックがすぐに詫びを言ってくる。

 コトナーとプリオンも興奮してるようだけど剣士二人の興奮具合が酷過ぎて口を挟む隙がない。


「なぁ、どんな練習したらあんな風に一撃で倒せるんだ?」

「ねぇ、二人の剣って原生樫(プリミヴァルオーク)?」

「何か剣術を習ったのか?」

「どこで手に入れたの? 幾らぐらいするの?」


 ……若干の方向性の違いを感じるけど、距離感が急に縮まったみたいだ。


「流派は違うけど俺もユンヴィアも剣技を習ってる。

 それをベースにして狩りをして技を磨いてる感じかな」


「私たちの剣はレドリオンの竜の洞窟(ドラゴンケイブ)で手に入れた原生樫(プリミヴァルオーク)の木剣です。

 買った訳ではないので、価格はちょっと分からないです」


 二人の質問に答えてると、プリオンが四頭の死体を確認し始める。


「これ、どうします?」


「あぁ、ユンヴィアと話してたんだけど、四頭も持って帰れないから悩んでたところ」


「私たちだけじゃ無理なんで深影(デンスシャドウ)の皆さんも持って帰りませんか?」


 深影(デンスシャドウ)の四人が慌てて顔を見合わせると、メリアックがこちらの顔を覗き込んで言う。


「えっと、それじゃ余った分だけもらってもいい?」


「どうぞ、どうぞ。

 俺たちはこの一頭の脚だけ持ち帰るから、残りは全部自由にしてください」


「えぇっ? そんな少ししか要らないの?」


「えぇ。二人だから、これで十分です。

 ある程度は動けるようにしとかないと危険だし」


「ふぁ、なんか余裕だねぇ。

 本当にいいの?」


「いいですよ。

 任せますから、好きにしてください」


「じゃ、好きにカットするよ?」


「どうぞ〜」


 そう言うと手分けして槍氈鹿(スピアセロー)を裁断する。と言っても角と後ろ足だけ持ち帰るようだ。


「角も大事なんですね?」


「はい。上手く加工するといい武器になるんです」


 角を切り取っているプリオンに聞くと丁寧に教えてくれる。


「武器? 槍の穂先とか?」


「はい。軽くて硬いから使いやすい槍になるそうです」


「へぇ〜。

 それなら、こっちの角も持ち帰ろうかな」


「そうした方がいいと思いますよ」


 プリオンのアドバイスに従って槍氈鹿(スピアセロー)の角を切り取る。

 ちょうど私が角の根本に剣を差した槍氈鹿(スピアセロー)だったので、角を傷口から強引に折るようにして切り取った。


 もし槍が作れるようなら試してみようと思う。




 獲物を仕分けたみたいなので確認すると、私たちは腿肉を各自が一本ずつ布袋で包んで背負っている。

 角は私が鞄に入れて持つことにしたので、それほど負担は変わらない。


 しかし深影(デンスシャドウ)は結構大変そうだ。

 ジオールとコトナーが脚を二本ずつ背負っているし、メリアックとプリオンも一本ずつ背負っている。

 四人で六本の脚を持ち帰るらしい。

 角も三本、分けて背嚢(バックパック)に入れたようだし、体力は大丈夫だろうか?


「ここからだと結構な距離があるけど大丈夫ですか?」


 見かねたネグロスがコトナーに声をかけてる。


「ちょっとキツいけど、大丈夫だ。

 せっかくだから持って帰りたいんだ」


「それならいいですけど、限界になる前に処分するとか考えてくださいね」


「これが勿体なく無いのか?」


「そうですね。

 勿体ないですけど、無理して怪我したら元も子もないですから」


「くそぅ。お前らの方が先輩みたいだな」


「これでも小さい頃から森で狩りをしてるんです。

 それなりに経験もありますよ」


「うが〜。分かった。

 危険だったり体力が持たなかったら、捨てて行く。

 ジオールも分かったか?」


「分かった。

 無理せずに帰ろう。欲を出し過ぎないようにしないとな」


 口ではそう言いながら、二本の脚をそのまま背負って歩き出した。

 一本で三十キログラムぐらいありそうだから、二本で六十キログラムにもなる。大丈夫か?


 少しだけ心配だけど様子を見てるとちゃんと歩いて運んでる。


 この辺りは黒霧山(モンサルトゥス)の森の中でも手前の方で、斜面も緩やかな下りだから負担も少ないんだろう。


「いつもはどうしてるんですか?」


 ちょっと興味が出てメリアックに尋ねる。


「うん? いつもっていうか、縞赤猪(レッドボア)みたいな大物を倒したときは、その場で解体して後ろ脚二本と後は右と左に分けたバラとロースの半身を背負って帰ってる」


「結構手間をかけるんですね」


「そうだね。

 バラやロースの方が高く売れるからね」


「今回はいいんですか?」


縞赤猪(レッドボア)槍氈鹿(スピアセロー)じゃ肉質が違うから脚の方が高いんだ。

 余裕があればバラやロースも持って帰りたいけど、時間もないし、運ぶのが大変だからいいよ。

 私たちが狩った獲物じゃないし、そこまで欲張らないよ」


 私からすると深影(デンスシャドウ)のメンバーは結構無茶をしてる気がするけど、彼らにとっては今日は控えめらしい。


 まぁ、怪我しなければ問題ない。






 運ぶ量が多いので途中でダウンしないか心配したけど深影(デンスシャドウ)の四人はタフだった。


 結構慎重に歩いて問題無く森を出たし、その後も警戒を怠らずにニーグルセントに向かってる。


 これまで解体した縞赤猪(レッドボア)を運んだ経験が活かされている。


「もう半分ぐらいは歩いたと思います。

 もう少しですから頑張ってください」


「ははっ。ありがとうよ。

 でもな、ここぐらいの場所の方が危ないんだ」


「えっ? どうしてですか?」


「盗賊は森の中では襲ってこない。

 盗賊にとっても危険だからな。

 街からそこそこ離れた人気の無いところが危ないんだよ」


「あぁ〜。確かに」


 そう言えばテラコスたちの馬車が襲われたのもそんな場所だ。

 油断した訳じゃ無いけど、盗賊たちにとって都合のいい場所なんだろう。


「コトナーさんの忠告が当たりましたね。

 お客さんみたいです」


 私たちの歩く道の先に十頭ほどの騎馬が見える。


 騎馬部隊はこちらを確認するようにジッとしてたけど、私たちが向こうに気づくと急に馬を走らせ始めた。


 友好的とは言い難いようだ。




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