第二百三十一話
「それにしてもまさか二人がCランクだとは……」
コトナーがずっと呟いている。
最初はジオールも一緒に分からなかった、見極められなかったと慰め合ってたけど、今はコトナーだけだ。
コトナーはパーティの偵察役なのに判断できなかったと言って凹んでる。
「ずっと二人で行動してるの?」
一番しっかりしてそうなメリアックが場の中心になって会話が進む。
「今回は二人ですね。
黒瑪瑙は三人パーティなんですけど、ちょっと別行動してるんです」
「何かあったの?」
「別に何も無いですよ。
ちょっと面倒な護衛の仕事だったので俺らは遠慮したんですけど、もう一人は抜けられなかっただけです」
「ひょっとして貴族の護衛か何か?
ウチらまだ護衛したコト無いんだよね」
ネグロスが誤魔化して説明したけどメリアックは興味があるみたいだ。
ちょうど良いので、少しニーグルセントの様子を聞いてみよう。
「私たちも護衛の経験無いんです。
ただ、今回レドリオンからニーグルセントに来るときにバーシェン商会の方と知り合いになったので、今度仕事がないか聞いてみようかどうしようか悩んでます」
「バーシェン商会ならいいんじゃない。
悪い噂は聞かないし、……腕が良くないと話にならないけど二人は銅でしょ。
上手くいけば報酬も良いと思うよ」
メリアックがあっさりとバーシェン商会の評判を教えてくれた。
全然悩む素振りを見せなかったので、こちらが拍子抜けしてしまう。
「バーシェン商会の仕事なんて、よっぽどじゃなきゃ冒険者ギルドには出てこないし、よく知り合えたわね」
「割と決まった獣人にだけ依頼してる感じがするから、長期で契約するのかも」
メリアックが感心してるとプリオンが補足してくれる。
「長期契約ってどうなんだ?」
ネグロスがプリオンを見ながら首を傾げた。
「契約によるかな。
簡単で長期のものは割引される場合もあるし、継続して拘束される分高い依頼もあるらしいし……」
「ふ〜ん。
三ヶ月間でニーグルセントとレドリオンの往復八回みたいな契約なのかな」
「私が聞いたのはニーグルセントとレドリオンの移動の護衛で今後一年間、依頼するときは一日あたり銀貨何十枚って話だった。
高いと依頼が減るし、安いと何回も依頼が来るから交渉が大変って聞いたよ」
何となく深影では戦闘面は男性二人が主体になって、情報収集や交渉ごとは女性二人が強いようだ。
レドリオンの碧落の微風の場合は、男性相手だとリーダーのデクサントで、女性相手だとミユがよく話してた印象がある。
深影は森の中での活動を主体にしてるようなイメージだったけど、ちゃんと情報収集して活動してるらしい。
「ふ〜ん。
護衛依頼ってどうも苦手なんだけど、他にはどんな依頼があるか知ってる?」
「冒険者ギルドに行けば、採取や調査依頼は結構あるよ。木の実や草の根とか調合の材料ね。
そうじゃなくても、腕に自信があってレドリオンの双子迷宮に行く獣人もいるし」
「へぇ、それなら俺たちにもできそうだな」
「銅よりは上は護衛してるイメージがあったけど、他のところじゃ違うの?」
「レドリオンだとBランクの咱夫藍や昇竜が迷宮攻略してた。
護衛をメインにしてるパーティを知らないからなんとも言えないけど、迷宮だけで上に上がって行けると思う」
「ふ〜ん」
「そうなんだ。
……、それで二人はどれくらい強いの?」
プリオンが頷く傍らでメリアックがぶっ込んできた。
「「「ぶっ!」」」
思わず吹き出したけど、コトナーとジオールも同時に吹き出したようだ。
「あちゃ〜。
やっぱり、そうなります?」
「そりゃそうでしょう。
初めて会った冒険者がどれくらいの強さか?
普通は直接聞いたりしないけど、子供が自分は強いぞって言ってたら確認するでしょ」
「まぁそうですよね。
別に俺は粋がって嘘ついてた、でもいいんですけど……」
「えっ?
それは困る。
本当はどっちなん? てなるやん」
「いや、それを見極めるのが冒険者でしょ?」
「えっ? いや、そうやけど。
君ら何者ってなるやん?」
「あんまり知らない方がいい場合もありますよ?」
「ほんでも知りたいやん。
プリオンからも言ってよ」
ネグロスとメリアックがふざけ合ってる中に突然巻き込まれたプリオンが困っている。
「えっ?
あの、Cランクってどれくらい強いんですか?」
困ったプリオンがネグロスをジッと見ると、ネグロスもふざけるのをやめた。
「槍氈鹿や縞赤猪なら一人で倒せますよ。
二人で縮毛羆を倒したこともあります」
「えっ?」
「嘘?」
「嘘だろ?」
「本気か?」
ネグロスが答えると四人が固まった。
魔物の難易度を上手くイメージできてなかったけど四人の反応で情報を整理すると、縞赤猪でE、槍氈鹿がD、牙鼠山猫だとC、縮毛羆になるとBといった感じだろうか。
当然こちらがソロかパーティを組んでいるか?
また魔物が単独か複数かによっても変わるけど、大体合っているだろう。
ネグロスが魔物の名前を具体的に出しただけなのに四人が固まるってことは、普段の私たちが普通の子供に見えるってことだな。
ちゃんと冒険者をしてるのを知って、ギャップに戸惑っているようだ。
「本当に一人で縞赤猪を倒せるのか?」
再起動したジオールが改めて聞いてくる。
「えぇ」
「そうかぁ。
どうしたら一人で倒せるようになるんだぁ?」
先ほどのショックを引きずって、今度は途方に暮れている。
「そっと近づいて、首を狙って倒すとしか言いようが無いですけど」
「なぁ、武器なのか?
それとも俺たちに力が足りないのか?」
今度がコトナーが私に聞いてくる。
……伸び悩み、というか壁に突き当たっているようだ。
「Bランクの冒険者は武器や防具もいいもの使ってますけど、Cランクだとそうでも無いですよ」
Cランクにも色々あるからな。
私たちはライセンスを取ったばかりの新人Cランクだし、レスターさんみたいに年季の入ったCランクもいる。
「なぁ見本じゃないけど、一頭だけ倒してみてくれないか?」
「えぇ? 珍しいこと言いますね」
「Cランクの冒険者がどうやって魔物を倒すか見たことないからさ。
な、頼むよ」
コトナーがネグロスに頼み込んでくる。
他の三人も期待の目で眺めてるし、想定外だけどやらなきゃダメな流れだ。
黒霧山は広いし、ベテランの冒険者は護衛依頼を受けるから、余り他のパーティの狩りを見ることがないんだろう。
もし狩りの現場に鉢合わせてもトラブル防止のためにその場所から立ち去るのがマナーのような気がする。
迷宮と森では環境が違う。
迷宮だと道が決まってるし、狩場ではすれ違うことも珍しくない。
「えぇ〜、特別ですよ。
一頭だけだったら俺が倒します。
何頭かいたらユンヴィアにも手伝ってもらいますけど、いいですか?」
「勿論だ。
すまないな」
「それじゃ、どうしようかな〜」
ネグロスが周りを見渡して考え始めたので、私は焚き火を消し始める。
またここへ戻ってくるか分からないし、山火事にでもなったら大変だ。
「それじゃ、今から縞赤猪を探しに行きます。
今回は特別ですからね」
ネグロスは森の奥に入ることに決めたようだ。
皆んなを引き連れて木々の中へと歩き始めた。
そんなに簡単に見つかるか不安だったけど、半刻もせずに槍氈鹿を見つけた。
「右手の奥の方、槍氈鹿が四頭います。
俺とユンヴィアで狩りに行くので皆さんはここで待っててください」
ネグロスが木陰から指差す方に、四頭の姿が見える。
「あれか。……まだ遠いけど、大丈夫か?」
コトナーが心配して聞いてくる。
「まぁ、見ててください。
ユンヴィア、行こう」
ネグロスに急かされて槍氈鹿を目指して走る。
四頭いるけど魔法鞄を使わないと死体を運べないぞ。
どうするんだよ?




