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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百三十話

 

 それにしても黒霧山(モンサルトゥス)は広い。

 レドリオンの北西からニーグルセントの西、更にずっと北まで森が広がっている。

 更にその奥に山がある。


 ここら辺だとそれほど植生が変わった感じはしないけど、ちょっと奥に入れば知らない魔物(モンスター)がいるだろう。


 そんな森に入って少し木々が生い茂る辺りで火を焚いて栗兎(マロンラビット)を焼く。


 栗色の毛並みもそうだけど、独特の甘い匂いがする魔物(モンスター)ので栗兎(マロンラビット)と呼ばれている。


「ユンヴィアの技、便利そうだな」


 ネグロスが栗兎(マロンラビット)を仕留めた私の水粒射(ドロップアロー)ことを思い出した様子で言う。


「あぁ、水粒射(ドロップアロー)って言うんだ。

 練習技だけど、使いやすくていいよ。

 水粒射(ドロップアロー)


 見本を見せるようにして水粒射(ドロップアロー)を木の葉に向けて飛ばすと、バサッと小枝が折れた。


「練習技?」


「あぁ、水の操作を練習してたら使える技になっただけだし……」


「へぇ、どんな練習なんだ?」


「前にユンヴィアが色んな詠唱を試したことがあっただろ。旋風(ワールウィンド)赤風(レッドウィンド)青風(ブルーウィンド)とかって……。

 私の場合、冷水や温水、氷や蒸気、を実現できないか試したり、どう動かせるかを試してて見つけたんだ」


「面白そうだな。

 そんなとき、水だと分かりやすいから試しやすくていいなぁ。

 風は見えないし、大きさも分からないから不便なんだよ。

 盗賊と戦ってたときも、イマイチ威力がコントロールできなくさ……」


「確かに指先ぐらいの水球で試すのと、小さな風をイメージするのじゃ分かりやすさが違うな」


「だろ?

 何かいい方法があるといいんだけど……」


 そんな話をしながらのんびりと休憩してると、木の間から緑の服で迷彩(カモフラージュ)した冒険者が現れた。


「「おおっ!」」


 こちらが驚いた声を出すと、突然現れた冒険者が謝る。


「驚かせたか? すまない。

 それにしてもこんなところに子供二人でいると危ないぞ」


 迷彩姿の冒険者は駆け出し風でそれなりに経験を積んでそうだけど、若い。

 十五、六歳ぐらいに見える。


 碧落の微風(ブルーブリーズ)のデクサントやボロンゴと同じくらいの黒猫の男性だ。


「一人ですか?」


 ネグロスが黒猫の冒険者に声をかけると、冒険者は二本の短剣を器用に扱いながら蔦を刈ってこちらに歩いて来る。


深影(デンスシャドウ)のコトナーだ。

 四人でパーティを組んでる。そっちに行ってもいいか?」


「えぇ、大丈夫です。

 良かったらこの辺りの様子を教えてください」


「チッチッチッ、お前らもう少し注意しないと危ないぞ。

 この辺に変な冒険者はいないと思うけど、いないとは限らないからな。

 襲われたらどうするんだ」


 コトナーが人差し指を立ててこちらに向かって来る。

 私たちの心配をしてくれているようだ。


「分かりました。注意します。

 でも二対一だとコトナーさんの方が危ないですよ」


「バカ言うなよ。

 お前らみたいなガキには負けねえよ」


「ちぇっ。面白くないなぁ」


「面白くない、じゃねえよ。

 干し肉やるから大人しくしてな。

 仲間が来たら森の出口まで案内してやるよ」


 コトナーがネグロスの言葉を平然と流す。

 ネグロスも本当に喧嘩を売るつもりはなくて、様子を伺うために挑発したようだ。

 コトナーの大人な対応に感心している。


「お兄さん、いい人だね。

 良かったら栗兎(マロンラビット)を食べてもいいよ」


 焚き火で焼いてた兎肉を見せると、先に座ってコトナーが来るのを待つ。


「へぇ、自力で栗兎(マロンラビット)を狩ったんだな。

 見くびってすまなかった。

 皆んなが来るまでしばらく休ませてもらうな」


 コトナーは少し離れた位置に座ると、干し肉を投げてきた。


「ソイツは挨拶代わりだ、兎肉と交換してくれ」


「いいですよ。

 これでも食べてください」


 ネグロスが干し肉を受け取ると、焚き火で焼いてた兎肉を切り取って渡す。

 私も軽く礼をして、干し肉を受け取る。


「もらうぞ。

 もう一人の方も食べてくれ」


「頂きます。

 私はユンヴィア。バレットとパーティを組んでます。

 コトナーさんはここによく来るんですか?」


 干し肉を齧りながら話しかけると、コトナーも兎肉にかぶりついた。


「まぁ、たまに縞赤猪(レッドボア)を狩ってる」


 コトナーが少し自慢げに言う。

 Bランクにとって縞赤猪(レッドボア)じゃ物足りないだろうし、Cランクでも言うほどでも無い。

 Dランクの(アイアン)か、Eランク初級(ビギナー)程度の腕前か?

 年齢的には強い方だろう。


 感心してるとネグロスがコトナーに質問する。


「俺たちはこの森、初めてなんですけど、どの辺まで行ったら縞赤猪(レッドボア)がいますか?」


「もう少し奥に行けば密集した木の根本に巣を作ってるけど、縞赤猪(レッドボア)を狙うつもりか?」


 木の根本に巣を作るとは知らなかった。

 多分、ネグロスは難易度を測るために聞いただけだろうけど、コトナーは私たちが縞赤猪(レッドボア)を狩ろうとしてると思ったみたいだ。


「二人で狩るのはちょっと危険だ。

 上手く突進を避けて、横から攻撃しないと怪我するぞ」


 確かに正面からは危険だ。

 私たちのような子供でもコトナーは否定せずにアドバイスしてくれるあたり、誠実な性格な気がする。


「はい。ありがとうございます。

 参考にします」


 ネグロスが頭を下げると、コトナーが出てきた辺りの木々が揺れてガサガサと音がした。


「おっ、来たらしいな。

 パーティメンバーを紹介するぜ。

 お〜い」


 コトナーが手を振ると、コトナーと同じような黒猫が連れ立って現れる。


「一人で先に行くなよ。ハグれるだろ。

 って、子供じゃねえか?」


 剣を携えた黒猫が二人、男性と女性が一人ずつ。

 そして長弓を持った女性の黒猫が一人出て来るとコトナーが彼らに歩み寄ってこちらを振り向いた。


「紹介するぜ。

 剣士のジオールとメリアック。

 それから弓士のプリオンだ。

 俺たちは四人で深影(デンスシャドウ)ってパーティを組んでる」


 全員黒猫でコトナーが迷彩柄、他の三人も濃緑やグレーとか黒っぽい服装をしてる。


「初めまして。黒瑪瑙(オニキス)のバレットです」

「同じくユンヴィアです」


 バレットが縞馬外套(ゼブラマント)を羽織ってるし、私も幻影腕貫(ミラージュアーム)を着けているので少し恥ずかしい。


 ガチで森の中で活動してる冒険者パーティを前にして、にわか迷彩の装備は成金っぽくていたたまれない。


「さっき会ったばかりだけど、黒霧山(モンサルトゥス)で俺たちより小さい冒険者って珍しいから話してたんだ」


 コトナーがジオールたちに向かって説明する。

 コトナーが短剣を使う斥候もしくは偵察役で、ジオールがリーダーで騎士。

 女性のメリアックが剣でサポートし、弓士のプリオンが後方から遠距離サポートを行うんだろう。


 森以外でも活躍できそうな編成だけど、今は森に合わせた迷彩コーディネイトだ。


「すみません。俺たちは二人パーティなんで、この辺の様子を知りたくてコトナーさんに教えてもらってました」


 ネグロスが深影(デンスシャドウ)の面々に笑いかける。

 プリオンが警戒気味だけど、ジオールとメリアックは笑って焚き火の方へやって来る。


「ふ〜ん。

 ライセンス証は持ってる?」


 メリアックが周りを見回して確認しながら聞いてくる。


「えぇ、レドリオンで取りました」


「そうなんだ。レドリオン出身?

 ランクは?」


 ネグロスと一瞬顔を見合わせたけど、どうせ一緒に冒険者ギルドへ行けば分かることだし、隠すのも変だと気付く。


「Cランクです」


 ネグロスが頭を掻きながら答えるとびっくりしてコトナーが大声を上げた。


「えぇ〜!

 本気(マジ)?!」


 大袈裟過ぎるほどの驚き方だ。

 コトナーが変なポーズで固まっている。


「はい。

 レドリオンの双子迷宮に潜ってました」


 ……嘘ではない。何となく経歴詐称してる気がするが、向こうの受け取り方次第だな。


本気(マジ)かよ!

 Cって言ったら俺らより上じゃねぇか!」


「ははっ。そうですか?

 でも、俺たちはここは初めてですし、皆さんの方が先輩ですよ」


「ちょっとコトナー、最初ぐらいは慎重に接してよ。子供だからって気を抜いちゃダメでしょ。

 ……えっと、深影(デンスシャドウ)のメリアックです。リーダーはジオールだけど、たまに抜けてることもあるから私のことも覚えてね」


「プリオンです。

 弓なら任せて」


 メリアックがコトナーを注意すると、プリオンも自己紹介した。

 よく分からないけどプリオンから最初の警戒心が減ったような気がする。




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