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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百二十八話

 

「う〜ん。

 何かいい方法がないか?」


 ネグロスが悩んでる。


 昨日ニーグルセントに入り、テラコスを助けた縁でバーシェン商会の当主カサマ・バーシェンの屋敷に隣接するゲストハウスに宿泊した。


 昼にバーシェン商会で父カサマと兄のクルースとコーラスに会い、夜は屋敷の方で母エミリ、クルースの妻リリアン、姉のハイレスも同席して会食だった。


 打算があっての逗留だが、お互いにメリットがあればそれでいい。


 テラコスは私たちを護衛として使い、盗賊を捕まえた名声を利用すれば良い。

 私たちはグルーガの情報が手に入れば良い。


 北進公路で魔物(モンスター)を倒してテラコスに買い取ってもらったので、滞在費ぐらいはある。

 しばらくすれば領軍に引き渡した盗賊の懸賞金ももらえるはずだ。


 必要になれば冒険者ギルドに行って稼げばいいだろう。


 むしろ当面の課題は金銭面では無く、何をするか? だ。


 グルーガのことを調べようにも、殺した後の死体は領軍に引き渡した。

 仲間の万華変剣(カレイドブレード)を使うサバンナ種の男は取り逃した。


 結果、どこから手をつけたら良いか分からない。

 ただ待ってるだけで情報が得られるとも思えないし、かと言って出歩けば情報が手に入る訳でも無い。


「どうするかな?」


 二人して答えを見つけられず悩んでいる。


 どうしたら良いか分からないからと言って、意味も無くテラコスについて回るのも何となく悔しい。

 お互いにメリットを感じているけれど、依存しない関係でいたい。


「とりあえずギルドでも行ってみるか?」


 ネグロスの提案で冒険者ギルドに行くことにする。


 近隣で出現する魔物(モンスター)を聞いておくだけでもひょっとしたら助かるかも知れない。


 内隔区を出て中隔区に移動すると、それだけで雰囲気が変わる。


「それにしてもテラコスんちって凄い商家だったな」


「あぁ、あそこまでいくと貴族みたいなもんだ」


「確かにそうだな。

 うちなんかよりよっぽど金持ちだ」


「長く続く家って、それだけ努力をしてきたんだろう」


「だな。

 何かちょっと考えさせられるな」


「あぁ」


 アザリアやレスターだけじゃなく、カサマの護衛についているギリシャムとザナントの二人もタイガー種の凄腕って感じだった。


 貴族で無くてもニーグルセントに尽くしてきた実績があっての今の地位であり、今の屋敷だ。


「あの建物じゃないか?」


 ゲストハウスで教えてもらって通りに歩いて来たので間違えようが無いけれど、バーシェン商会を見た後なので少しみすぼらしく見える。


 ……客層の違いだな。


 確か中隔区にあるのが事務所で、南の外隔区に買取り用の倉庫や訓練場があると聞いた。


 中隔区の事務所が手狭になったのと、外隔区ができると中隔区まで獲物を運ぶのが面倒になったためだろう。


「あの建物みたいだ……。

 服装変えるか?」


 静かな内隔区で剣を提げマントを羽織るのは場違いな気がして、今は普通の服装をしている。

 冒険者には見えないだろうし、どちらかというと育ちのいい子供だ。


「まぁ、このままでも問題ないけど、剣ぐらいは提げとくか」


「そうだな。

 魔法で対応できそうだけど魔法を見せるのもイヤだし、剣ぐらいは必要か」


「だな」


 二人して素早く魔法鞄(マジックバッグ)から原生樫(プリミヴァルオーク)の剣を取り出して、腰に提げるとちょっとだけ雰囲気が変わる。


 剣以外の身嗜みを軽く整えて、建物の扉を押した。




 冒険者ギルドの中も昨日のバーシェン商会をボロくした感じだった。


 正面に受付カウンターがあって、五人の受付嬢が対応してる。

 どの受付嬢の前も二、三人の冒険者が順番を待っている。


 受付カウンターの両側にはロビーが広がりオープンカフェのように丸テーブルが並んで、何人かの冒険者が休憩している。


「どこにする?」


「う〜ん。

 一番右にしようか」


「分かった」


 ネグロスの勘に従って一番右の列に並ぶと、ちょうど前に並んでた大男が終わったようで受付を離れる。


 一瞬、私たちを見て驚いたようだがフッと笑って奥の方にある待ち合わせテーブルへと向かって行った。

 パーティメンバーが待っているのだろう。


「お待たせしました。

 この度はどのようなご用件でしょうか?」


 受付カウンターからマンチカン種の受付嬢が乗り出してきた。


 近くで見ると年齢が幼いのではなく、マンチカン種の特有の小さな体なのだと分かる。

 目鼻が顔の中央に寄っていて愛嬌のある顔立ちだ。


「ニーグルセントに来たばかりなんだけど、近くで狩れる魔物(モンスター)と焼肉の美味しいお店を教えてもらえますか?」


 ネグロスが言うと、受付嬢が笑顔のまま一瞬止まった。

 ……再起動するともう一段身を乗り出してくる。


「申し訳ありませんがライセンス証を確認させて頂きます。

 ……それとここでニーグルセントが初めて何て言っちゃダメよ」


 こっそりと小さな声で後半の言葉を伝えるとキョロキョロしてる。


「これが俺のライセンスで、こっちがユンヴィアのライセンス」


 私がライセンス証を取り出すと、ネグロスが二人分をまとめて受付嬢に見せた。


「えっ?

 ライセンスあるんですか?

 ……C?」


 またも受付嬢が固まった。

 それでも愛嬌があって嫌な感じはしない。

 私たちのことを心配してくれている感じがする。

 しばらくして再起動する。


「えっと……、詳しくお話を伺いたいので打ち合わせ室に来て頂いてもいいですか?」


 受付嬢はそう言って他の受付嬢に一言告げると、カウンターから出てきて私たちを案内する。


 ロビーの冒険者たちが私たちを睨みつける中、小さな受付嬢に続いてカウンター横の廊下を通って奥に進むと、小部屋が並んでる。


「こちらへどうぞ」


 言われるままに部屋に入ると、受付嬢が慌てて扉を閉める。


「とにかく、そちらにお座りください。

 一体、どういうことですか?!」


 何故か分からないけど詰問調だ。


「何がですか?」


「お二人は一体いくつですか?

 その年齢でCランクって、聞いたことありません」


 ネグロスが楽しげに確認すると、受付が早口でまくし立てる。


「とりあえず、落ち着いてください。

 俺がバレットで、コイツがユンヴィアです。

 レドリオンでライセンスを取ったので確認してもらえば本物だと分かるはずです」


 ネグロスがゆっくりと話すと受付嬢も落ち着いてきたのだろう。深呼吸して改めて自己紹介をする。


「冒険者ギルドのパリティシアです。

 お二人が本当にライセンス通りの実力をお持ちなら、いくつかの依頼をご紹介させて頂きます。

 ……が、それまでは紹介できません。

 まずは、レドリオンでライセンスを取られた際のことを確認させて頂きます」


 ちょっとは落ち着いたかと思ったけど、(かたくな)な態度だ。


「説明はするけど、俺たちに実力が無かったらどう困るんだ?」


 ネグロスの方は面白がって楽しんでるし……。


「ニーグルセントの西側には黒霧山(モンサルトゥス)があるので、森の入口でも凶暴な魔物(モンスター)が出現する場合があります。

 東には古戦都市エフェメラがありますし、南にはレドリオンがあるので獣人や物の移動が活発です。また、それを狙った盗賊や商会の護衛との衝突も頻繁にあります。

 ですから、経験が少ない内はパーティを組まれるか、大きな商会の大人数の護衛依頼を合同で受けた方が危険(リスク)が少ないです」


 真剣な顔をしてパリティシアが一気に話すと、ネグロスがこちらを見る。


「どう思う?」


「ちゃんとした判断だと思うよ」


「ちょっと、人の話聞いてる?」


「パリティシアさん。

 ニーグルセントではBランクやAランクの冒険者はどれくらいいますか?」


 ネグロスがパリティシアの言葉を聞き流して新しい質問をすると、戸惑いながらも彼女はちゃんと答えてくれる。


「大体二十パーティぐらいかしら。

 ギルドを通さずに護衛をしてる獣人もいるから、正確には分からないわ」


「そうですか。

 ありがとうございます。

 レドリオンの冒険者ギルドにいるジェシーって分かりますか?」


「えぇ、噂を聞いたことがあります」


「そのジェシーがCランクにしたんだから、文句はジェシーに言ってね。

 黒霧山(モンサルトゥス)だと、どんな魔物(モンスター)を買い取ってくれますか?」


槍氈鹿(スピアセロー)縞赤猪(レッドボア)なら確実に買い取りますけど、危険ですよ」


「分かりました。

 無理しないようにします」


 ネグロスはそう言って部屋を出る。


「ちょっと待ってください。

 まだ確認したいことが……」


 パリティシアがまだ何か言ってるけど、放置してロビーに戻ると下卑た笑い声が聞こえる。


「ガキはサッサと帰りな。

 ここはガキの来るとこじゃねぇ」


「護衛依頼なら受けてやるぜ。

 家まで銀貨十枚でどうだ? ガハハッ」




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