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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百二十六話

 

「ガキが」

「ふざけてると殺すぞ」

「邪魔するな」


 さっきの演技は何だったのか。

 獣人たちはすぐに本性を現して剣を構え直す。

 水球(ウォーターボール)を喰らった獣人も立ち上がって、こちらを睨んでいる。


 総勢八名。


 万華変剣(カレイドブレード)の男がアザリアを倉庫に誘い込み、護りが手薄になったところでコイツらがテラコスを襲う手筈だったのだろう。


 レスターたちは今も前の方で戦っている。

 ネグロスは弓士を倒すために前方の建物に行った。

 火魔法を使うサバンナ種は倒したけど、余裕は無い。


 テラコスの馬車に張り付いていたアザリアが謎の男を追って倉庫に入って行った。

 ここに残っているのは私と二人の護衛。


 相手は八人。


「囲め!」

「八つ裂きにしてやる」

「今さら泣きついても遅いぞ」


落下熱池(ホットピットポンド)!」


 雑魚の言葉に付き合っているヒマは無い。

 一発で八人全員を熱湯池に落とすと盗賊たちが一斉に悲鳴を上げる。


北風の雹嵐(ボレアースカラザス)!!」


 熱湯池から出ようとして暴れる盗賊たちを範囲攻撃で片っ端から雹を撃ち込む。


 ドンッ!

 ズドドッ!

 バキッ!


 鈍い音がして、盗賊たちの顔、腕、肩や胸。熱湯から出てる体に雹が次々と降り注ぐ。


 しばらくすると、あんなにも熱湯から出ようと暴れてた盗賊たちが呻き声を上げるだけで動かなくなった。


「引き続き警戒を!」


 側にいる二人の護衛に声をかけて、アザリアが追って行った倉庫に近づく。


 テラコスを護衛するか、アザリアを援護するか?


 判断できないまま、テラコスの馬車と倉庫の入口の間で足を止める。


 キン、ギィン。


 倉庫の中から斬り結ぶ音が聞こえる。

 アザリアの援護に行きたい。

 しかしまだ隠れている盗賊がいないとは限らない。


 昨夜もいくつかのグループに分けて何度も陽動を仕掛けて来た相手だから気が抜けない。


 キィーン!

 ダンッ!


 一際高い音が響くと、続けて何かが倒れるような音がした。


「アザリアさん!」


 いてもたってもいられなくなり倉庫に飛び込むと、中は薪や藁が積んである。


 薪が崩れているのは、男が暴れて崩したのだろう。


 中は小さな窓が少しあるだけで薄暗い。

 注意して進むと呻き声が聞こえた。


「アザリアさん?」


 様子を伺うけど、返事は無い。


 アザリアが無事なら返事をするはずだ。

 返事が無いと言うことは彼女が返事をできない状況にある。


 走り出したいけど、男が待ち伏せてる危険性を考えてゆっくりと静かに奥に進む。


「ううぅ」


 アザリアが倉庫の中央に倒れてる。


「アザリアさん!」


 すぐに駆け寄ると抱き抱える。

 背中に回した手がヌルッと滑り、血塗れになっているのが分かった。


「うっ」


「すみません。

 背中を見せてもらいます」


 アザリアをうつ伏せで寝かせると、背中の様子を確認する。


 背中は右肩から左腰にかけてザックリと斬られていた。


 今も血が溢れ出るように流れている。


活性水アクティベイトウォーター


 背中一面に活性水アクティベイトウォーターで血を洗い流すかのように振りかける。


「ぐっ!」


 一瞬のけ反るようにしてアザリアが気を失った。

 急にぐったりとして、死んでいないか心配になったので、背中に耳を当てて心音を聴くと、トクントクンと脈がある。


 大丈夫だ。

 生きている。


 血を洗い流した背中を見ると、薄っすらと斬り痕が残っているので、もう一度治癒を試みる。


活性水アクティベイトウォーター


 ゆっくりと掌の先に活性水アクティベイトウォーターを作り、それを塗り込むようにして背中を撫でる。


 それから改めて他に傷が無いか確認をする。

 背中には無かったけど、仰向けにして確認すると、二の腕や太腿にも何ヶ所かの切り傷があったので、そこにも活性水アクティベイトウォーターを塗り込んだ。


 倉庫の中をキョロキョロと眺めると私たちが入って来たのとは反対側にも扉があり、開きっぱなしになっているのを見つけた。


 偽装(フェイク)かも知れないが、男は裏から逃げたようだ。


 アザリアを倒して、私を誘い込んだ上でテラコスを襲ってたら、もう手遅れだ。

 薄ら寒い不安を感じるが、今はアザリアの介護だ。


 一通り倉庫の中を眺めると、男がまだ潜んでいる可能性は無いと判断した。


 気を失っているアザリアをお姫様抱っこして抱えると、テラコスの馬車に向かって歩く。


 私の身長でテラコスの身体を抱き上げると非常にアンバランスだけど、背負うと足を引き摺ることになるのでやむを得ない。


 何とか抱き抱えて歩いてると、倉庫の入口に子供の影が見えた。


「ユンヴィア、大丈夫か?」


「あぁ、私は大丈夫だ。

 アザリアさんが意識を失っている。

 テラコスさんは?」


「テラコスさんも無事だ。

 レスターさんも無事だが、護衛の中には怪我をした獣人もいる」


 ネグロスの顔は見えないけど、口調が苦々しい。

 被害が出てしまったのでそれも仕方ないだろう。


「テラコスさんに報告して、アザリアさんを休ませよう。

 他の獣人も私が治療する」


「頼む。

 俺は残りの残党を集めておく」


 倉庫から出るとテラコスの馬車の前にレスターたち護衛が立ち並び、周囲を警戒していた。


 レスターがアザリアを抱えた私に気づくと駆け寄って来る。


「アザリアさん!

 ユンヴィア、アザリアさんは?」


「大丈夫です。

 気を失っていますが、外傷は治療しました」


「治療しました?」


 レスターが怪訝な顔でアザリアの様子を確認する。


「昨夜の腕の立つ男と戦って怪我をしてましたが、魔水薬(ポーション)を使って直しました」


「お前ら魔水薬(ポーション)持ってたのか?

 いや、魔水薬(ポーション)があって良かった。

 俺たちの傷も魔水薬(ポーション)で直してるところだ。

 一緒に来てくれ。

 テラコス様に報告する」






 アザリアの状況をテラコスに説明し、改めて今回の襲撃犯とこちらの被害を整理した。


 襲撃犯は万華変剣(カレイドブレード)の男と火魔法使いの男を含めておそらく二十二人。


 万華変剣(カレイドブレード)の男以外は二十一人全てを捕まえるか、殺した。

 他に逃げた盗賊がいればその分襲撃犯が増えるが、取り逃がしたのは万華変剣(カレイドブレード)の男だけだと思う。


 弓士が七人いて、そいつらはネグロスが順に行動不能にして回った。ネグロスは腕や手を斬り落としたけど、殺してはいない。


 死んだのは火魔法使いとレスターたちが戦った盗賊たちの一部だ。


 こちら側はテラコスの商隊十二人のうち、護衛が三名怪我をしたが魔水薬(ポーション)で治療済み。

 一番酷い怪我をしたのがアザリアだったけど、それを見たのは私だけだ。


 一通りの状況を整理するとネグロスがそっと近寄って来た。


「ユンヴィア、お前が倒した魔術師だけど、多分グルーガだ」


「は?」


 ネグロスが小さな声で囁いたのに、私が大きな声で反応したのでレスターたちがこちらを見た。

 テラコスとアザリアはテラコスの馬車の中なので、聞かれていないと思う。


 何でもない、と誤魔化してネグロスと小声で会話する。


「私が倒したって、黒いローブのサバンナの男か?」


「そうだ。

 あんな顔だったと思う。

 火球(ファイアボール)を使えて、細剣をメインにして、後は短剣投げてこなかったか?」


「最初に火球(ファイアボール)を撃って来たのに、細剣で突きを連発してきた。

 防ぎきれなくて、水魔法を当てたら短剣を投げてきたな」


「多分ビンゴだ。

 俺のときは最初に短剣投げてきて、森を火球(ファイアボール)で焼いて、細剣振り回してた」


「「どういうことだ?」」


 水神宮を見張ってた冒険者。

 ハクと戦って逃げた裏の世界の一味。

 妖精人(エルフ)と繋がっているかも知れない謎の人物。


 そのグルーガがテラコスを襲って来た。


 私たちがグルーガの手がかりを掴もうとニーグルセントに向かう途中で、こんな形で鉢合わせするとは……。




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