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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百二十一話

 

「来たようです」


「今の話は本当でしょうか?」


「えぇ、本当です。

 テラコスさん、今夜の野営地で標的(ターゲット)になりそうな商隊に心当たりはありませんか?」


「聞いてどうなさるのですか?」


「できる限りサポートします」


「もし、私です。と言ったら?」


「お守りします」


「私がこの身可愛さで言ってたとしても許してくれますか?」


「もちろんです。

 元々が勘みたいなものです。

 その勘が囁いています」


「そうですか。

 それでは、すみませんが護衛をお願い致します」


「「テラコス様!?」」


 アザリアとサーペンティが声を上げて一歩踏み出す。


「はい。分かりました。

 私とバレットは姿を隠します。

 しかし、そばにいるので安心してください。

 馬車の中に隠れて、決して外に出ないでください。

 後は普段の通りで大丈夫です」


「分かりました。

 サーペンティとアザリアは馬車の外で待機。

 夜間の警護は任せます」


 テラコスがアザリアとサーペンティに指示を出し始めるとネグロスが私に顔を寄せてくる。


「おいっ。ユンヴィア、いいのか?」


「あぁ、私の読みが当たればこの馬車だし、外れたら何が起きるか分からない。

 そのときもこの馬車を守っていれば、問題無い」


「はぁ、まぁ今回はユンヴィアに任せる。

 俺は隠れて遠距離から色々やっていいんだろ?」


「私も隠れてバレないようにやるけど、やり過ぎるなよ」


「任せとけ。早速試すんだから、ちょっとぐらいは失敗するかも知れないけど、多分大丈夫だ」


「ははっ。相手が襲って来たら、多少の失敗なんかどうでもいいさ」


 私がネグロスと軽口を叩いてるとテラコスが歩み寄って来る。

 レスターは既に声を上げた護衛たちの方へ飛んで行っている。


「アザリアとサーペンティは馬車の外で待機してもらいます。

 レスターは護衛たちと一緒に待機。

 警戒範囲を絞り込んで、それより内側の馬車に近寄らせない方針です。

 その分近づいて来る獣人には容赦しません」


「分かりました。

 何が起きるか分かりません。

 気をつけてください」


 テラコスと話してるとレスターが戻って来た。


「森から来た五人組を問い質したところ、野営地に仲間がいるそうです。最初ですしそのまま見逃しました。

 ユンヴィアの予想が当たりそうです」


「そうですか。

 夜が更けたら、近づく獣人は全て拘束してください。

 危険を放置するわけにはいきません」


「分かりました」


 レスターがテラコスに礼をしてこちらに振り向く。


「私とバレットはしばらく姿を隠します。

 向こうには弓使いもいますので、くれぐれも気をつけてください」


 そう言って幻影腕貫(ミラージュアーム)に少し魔力を流す。


「おわっ!」


「どうしました?」


「ちょっと待て!

 お前、何をした?」


 慌ててレスターが聞いてくるので、魔力を流すのを止める。

 幻影腕貫(ミラージュアーム)の効果は抜群だ。

 夜で暗いからそんなに魔力を流さなくても良さそうなのを確認して安心する。


「ちょっと気配を殺しただけですよ」


「いや、本気(マジ)か?

 いきなり気配って消せるものなのか?」


「そうですよ。バレットも分かんないでしょ?」


「そういやアイツは?」


「ここにいますよ」


「どわっ!

 ちょっと待て、絶対おかしい!」


 そっと縞馬外套(ゼブラマント)に魔力を流して偽装(カモフラージュ)してたネグロスが、魔力を止めてレスターを驚かす。


 テラコスとアザリアも驚いて言葉を失っているけど、安心してもらうためのパフォーマンスとしては充分だろう。


「それでは私たちは少し隠れますので、くれぐれも無理しないでください」


 そう言ってテラコスの馬車を離れる。

 テラコスは馬車に乗って、外をアザリアとサーペンティが警護する。


 商隊の御者と護衛は三台の馬車でテラコスの馬車を囲い、その中で休み、外を交代で警備する。


 ネグロスはさっさと森に向かって行き、離れた位置からこの馬車と森の中を警戒し始めた。

 私はネグロスとは反対側の平原に向かい、人気の無い野原に座り込んで警戒を開始する。


 さっきは森から獣人が来た。

 次は野営地から森に向かう振りをして、様子を探りに来るかな?


 ……そう言えば食事がまだだった。


 干し肉を齧って、周りを確認する。


 時刻は夕食時を少し過ぎた程度。

 テラコスたちは簡単に食事をしてるようだが、警戒を続ける私たちには無い。


 他の商隊も大体は食事を終えたようだ。


 この後、森から来るような獣人、森に入ろうとするような獣人はクロと判断してもいいだろう。


 その場合は、しばらく動けなくなってもらうか。

 しかし、森の中に待機してるヤツらが気づくと何をするか分からない。


 どうしようか悩みながら警戒を続ける。


 正面にはテラコスの商隊。右手を見れば森。左手を見れば野営地に集まった馬車たち。


 硬い干し肉を噛んでると、左の方から四人の冒険者が歩いて来る。


 さり気なく足音を消して、自然な風を装っているが一味の者だろう。


 あ、馬車に近づき過ぎて注意されてる。

 悪態をつきながら渋々森に向かう。

 まだ強引には行かないみたいだが、テラコスが狙いで間違い無さそうだ。


 そうでなければわざわざ馬車に近づかない。


 剣を提げた獣人が四人。

 この時間帯は戦力調査と嫌がらせみたいなもんだ。

 仮に拘束されたり暴力を振るわれた場合、騒ぎ立ててその後テラコスたちが積極的に戦闘ができなくなればそれで良し。

 周りの商隊も疑心暗鬼になれば、野盗側の成功率が上がる。


 そんな感じだろう。


 何とかして各個撃破したいけど、声を出させず、森の中の連中にも気づかせなくする方法がないかな。


 森の中まで尾行()けて行って、こちらから襲撃する()もあるけど、テラコスの守りから離れる危険(リスク)がある。


 ここに居たままできることがあればいいけど。


 悩みながら四人の獣人が森に入って行くのを見終えると、静寂が訪れる。


 森の方には恐らく十五人程度。

 その中には頭領のようなジャッカルがいるはずだ。

 剣士がメインで、弓士も多数いる。


 森の中、別の場所にあと二組、二十人ほどのメンバーもいる。

 更にはこの野営地内に既に紛れ込んでいる仲間たち。


 ヤツらの狙いがテラコスだとして、どうやって襲って来る?


 別れたのは、陽動組と本戦組でタイミングをズラすためだろう。


 最初に少し離れたところで、わざと騒ぎを起こす。

 そっちに護衛たちが移動した隙を狙って、本隊がテラコスたちを襲う。

 ついでに背後から強襲する部隊もいるとテラコスを守ってレスターやアザリアが戦闘してる際に、裏からテラコスに接近するかも知れない。


 ……奪いたい物品があれば直接接近してくるだろうけど、そうではなくテラコスの命を狙ってる場合、火を放ったり、他の攻撃方法で商隊のメンバーを全員殺そうとすることも考えられる。


 そう考えるとなかなか厄介だ。


 テラコスたちに遠距離攻撃に手段があるだろうか?


 想定して無かったけど、弓や火矢で先制されたらどうするか?


 一つずつ打ち落とす?

 ……かなり難易度が高い。


 その後、三十人が四方から襲って来たら?


 テラコスの護衛では手が足りない。

 私が水粒射(ドロップアロー)で迎撃しても追いつかない。


 テラコスの馬車の近くで乱戦になったら?


 魔法じゃ応戦が難しい。

 私が直接参戦するとして、どう戦う?


 ……近づけないのが一番だな。


 ネグロスともう少し打ち合わせしといた方が良かったかも知れないが、今となっては後の祭りだ。

 打ち合わせようにも、ネグロスがどの辺りにいるかすら分からない。


 何人ぐらいをどうやって行動不能にするつもりかも分からない。


 でも、反対側の森に向かってくれたからには、第一陣の陽動部隊は何とかしてくれるだろう。


 私はどさくさに紛れて野営地から近づいてくる冒険者と森から出て来る本隊を叩けばいい。






 そう思って気持ちを準備してるけど、何も変化が無い。


 ネグロスが森の中で陽動部隊を撹乱することに成功してるんだろう。

 うまくいってると思うけど、静か過ぎて不安だ。




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