第二百四話
一階層、二階層とシルヴィア姉さんとセラドブランが順に色々な詠唱省略を試しながら進んで来た。
まだピタッと嵌ってないけど、シルヴィア姉さんは赤系、セラドブランは白い炎が強いみたいだ。
「確かにハクの言う通り成句によって魔法の威力が違うわ」
「明らかに見た目も違います。
何でこんな大事なことに今まで気がつかなかったのかしら?」
「僕は上級学院に行って、シルヴィア姉さんとセラドブランさんが違う詠唱をしてることに気づいた。
僕自身、金属性の魔法を見たことがないから、何が正しいか分からないし、クロムウェルやネグロスも正しい詠唱を知らなかったから、自分で探すしか無かったんだ」
シルヴィア姉さんとセラドブランが成句について考え始めたので、僕たちが色んな詠唱を試したときのことを伝える。
「言われてみればそうね。
今までのやり方だと詠唱を知ってる魔法しか使えないわ」
シルヴィア姉さんが首を傾げると、セラドブランも相槌を打つ。
「そうですね。
……ハクさんは見たことの無い魔法を使いますよね?
どうやって魔法を作るんですか?」
セラドブランが上目遣いに僕を見る。
「どうやって?
……僕の場合は金属性だから、欲しいモノ、作りたいモノがあって、それを魔法で作れたらいいなぁ、って思って願う感じかな」
「欲しいモノを作る? ですか?」
「はい。自分の刀を作ったのが最初です。
魔法を使ったというより剣を呼び出したつもりでしたが……。振り返ってみると魔力で剣を作っていたようです」
「あぁ、アレですか……」
「そうです」
二人で上級学院に入学したての頃を思い出してるとシルヴィア姉さんが割って入ってくる。
「ちょっと、二人だけで何考えてるの?」
「あの、……」
「いや、……」
別に悪いことはしてないのに、しどろもどろになってしまった。
「上級学院で魔法の訓練をしてるときに剣を作ったことがあるんです。
僕の中では剣を呼び出してるイメージだったんですけど、魔法を使ってたみたいです」
「ふ〜ん。
言葉じゃ分からないから、私たちにも見せてよ」
シルヴィア姉さんが腰に手を当てて言うと、サラティ姉さんもその隣で腕を組んでポーズを取った。
「えぇっ?」
「だって、今の話じゃどんな魔法か分からないし」
「私も見たいし」
……姉さん二人が相手だと分が悪い。
「分かりました。
それじゃ、見ててくださいね」
そう言うと迷宮の地面に右膝をついた。
どんな剣にしようか?
どうせなら特大の両手剣にしてみるか。
見たことのない剣を出した方がインパクトがあるだろう。
右掌を広げて地面につける。
さぁ、来い。
オレの両手剣。
オレの身体よりも大きな巨大な剣。
両手で握り、竜の首に負けない刃。
火竜のような紅の鱗が無数に広がる刀身。
さぁ、来い!
グイッと地面から引き抜くとイメージ通りの両手剣が姿を現す。
「「うわっ」」
「赤いっ」
「なんて大きい……」
赤黒い刀身が禍々しい。
これなら火竜のような巨大な魔物とも戦える。
「と、こんな感じです」
「あ、そういえば、今、詠唱しなかった」
「はい。
僕は元々詠唱を知りません。だから詠唱は無いんです」
「はぁ〜、それで何でこんな剣が出てくるかな?」
「さぁ? たまたま?」
シルヴィア姉さんの問いにとぼけると、セラドブランが横から覗き込んでくる。
「ハクさんは詠唱無しで魔法使えますよね?」
「えっ? 最初に試すときは詠唱無しが多いですね。
それが何か?」
「「それはおかしい!」」
「そんなに簡単に魔法は発現しないの!」
「詠唱無しで魔法が発動したら、誰も詠唱しない……」
二人揃って否定する。そんなこと言われても、詠唱を知らないから唱えようが無い。
「そうかも知れないけど、僕はこうやって形にしてきました」
そう言って両手剣を持ち上げて見せると、二人が肩を落とす。
「全く、意味分かんない」
「ホント、おかしいです」
二人が泣き笑いのような顔でこちらを見る。
「魔法だと思ってなかったからね。
ちなみに二回目以降にこれを魔法で再現するときは詠唱するんだ。
竜鱗両手剣!」
すると、突然、空中に赤黒い刀身の竜鱗両手剣が現れた。
「「えっ?」」
「ちょっと」
「何で?」
宙に浮く竜鱗両手剣を左手に持つと、両手剣の二刀流になった。
「最初の一回目は色々考えて時間もかかるし大変なんだけど、二回目は何となくコレって言う成句が思い浮かんできて簡単に再現できるようになるんだ」
「へぇ〜」
「そうなんだ……」
二人の返事が無感情になってる。
そんな変なことを言っただろうか?
「なので、僕の場合は成句を探すよりも、何を作るか、の方が大事だし時間もかかります。
成句は何となくです。
でも、ネグロスは自分の魔法に合った成句を探すのに苦労してました。
クロムウェルはどちらかと言うと僕よりですね。
成句無しで活性水を出してたし」
「ふ〜ん。
ハクだけが変なのかと思ったら、三人とも変なんだ」
「そう言えば、クロムウェルさんは普通の水が作れなくて困ってましたね」
「多分、クロムウェルは最初に作った活性水で、水を作るのに癖がついたんじゃないかな?」
「変なの〜」
「僕も何本も方尖碑作ったり、突土槍を見たりしてから突鉄槍ができるようになったけど、自分に何ができるのかを知るだけでもかなり難しいよ」
「言われてみればそうかもね」
「そうですね」
「う〜ん、目的に合わせて使いこなすのが良さそうかな。
今、使ってる魔法の詠唱省略なら色んな成句を試すのが早そうだし。
新しい魔法を考えるなら、まずはどんな魔法にしたいのかしっかり考える必要がある」
「なるほどね……。
詠唱省略なら成句探し……」
「新しい魔法ならどんな魔法にしたいのか……」
そう言って二人ともまた考え込んでしまう。
僕は思いつきで作った竜鱗両手剣の片方を仕舞って、もう一本を両手で正眼に構えて使い方を考える。
ブンッと振り下ろすと大きさに見合った重さがあって打ち合いには向いてない。
でも、大きな魔物とは打ち合いにはならない。
どれだけ重く、速い一撃が叩き込めるか、だ。
そう考えるとこの竜鱗両手剣も悪くない。
魔力を流してみると、一瞬、竜鱗が明滅してからじんわりと赤く発光する。
蒼光銀ほど綺麗には流れないけど、少しなら溜められる。
試しに使ってみる程度はいけるだろう。
そして白熱化。
押し込んだ魔力で剣を燃え上がらせる。
竜鱗両手剣よ、焼けろ。
ザワザワと竜鱗が震える。
更に魔力を押し込むと竜鱗模様の刀身が揺らめく炎のように小刻みに波打った。
漣のようだ。
面白い。
「赤い燐光……」
「剣が震えてる……」
成句を考えてた二人が魔力で震えながら発光する竜鱗両手剣を食い入るようにして見ている。
何かが琴線に触れたようだ。




