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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第二百二話

 

「それじゃ、今日は迷宮(ダンジョン)に入ります。一応、僕が護衛につくので大丈夫だと思いますけど、無理はしないでください。

 必ず余力を残した状態にしてください」


 サラティ姉さんとシルヴィア姉さんにセラドブランたち三人と僕の六人。それに衛士隊のパックス、ロッジ、アデスの三人をプラスして九人パーティで迷宮(ダンジョン)に入る。


 スファルル姉さんだけは戦闘経験がないので不参加だ。


 サラティ姉さんとシルヴィア姉さんは九階層までは問題無い。

 セラドブランたちは多分二十階層まで行ける。


 今日は様子見と探索で十階層まで行くつもりでいる。

 状況によっては二十階層まで行くかも知れない。


 父さんとレドリオン公爵は迷宮(ダンジョン)の入口まで見に来たけど、そこで防御壁の厚さや警備体制を話し始めたので、挨拶をして置いてきた。


「一階層は私とシルヴィアで案内させてもらいますね。

 行けそうだったら二階層で戦ってみてください」


 久しぶりに迷宮(ダンジョン)に入るサラティ姉さんが先頭で仕切り始める。

 セラドブランたちは初めて入るので、神妙な顔つきで頷いている。


 僕は最後部で全体を警戒しながらついて行く。


「この迷宮(ダンジョン)に名前はないのですか?」


「えぇ、まだありません。

 何と呼んでいいのか、他の迷宮(ダンジョン)を知らないので特徴とかが分からなくて……」


 セラドブランが先頭を歩くサラティ姉さんに聞くと、姉さんは少し振り向いて困ったように答えた。


「そうですか。

 そう仰られると確かに名付けるのは難しいですね。

 この迷宮(ダンジョン)の場合、蒼光銀(ミスリル)などの直接的な単語が入ると困りますし、かと言って他の特徴も分かりませんし……」


「まぁ、そのうちにいい考えが浮かびますよ。

 それよりも見えてきたようです」


 セラドブランは名前が気になるようだけど、正面に粘性捕食体(スライム)が現れたことを告げる。


 水色の透明な体。

 両手を広げたよりも大きな粘液が自らの意思で動いている。

 身長は僕よりも少し小さいけど、横幅がありプヨプヨしてる。


「あれが粘性捕食体(スライム)

 体が柔らかいので物理攻撃は効きにくいです。

 しかも体液によって金属が腐食するので蒼光銀(ミスリル)以外の武器では連戦は厳しいです。

 シルヴィア、魔法を」


 サラティ姉さんが警戒しつつシルヴィア姉さんに指示を出すと、シルヴィア姉さんが詠唱を始める。


「火の神ヴェスタよ、我が願いに応えよ。

 我が力に汝の力を貸したまえ。

 我が願うは炎の顕現。

 我が敵を燃やし尽くしたまえ。

 火炎槍(ファイアランス)!」


 詠唱が終わると宙に炎の槍が現れて粘性捕食体(スライム)に向かって飛んで行く。


 火炎槍(ファイアランス)粘性捕食体(スライム)の体を貫いて核を焼く。


 体の中央にある核を焼かれた粘性捕食体(スライム)がぶしゅりと潰れてじわりとその体液が周囲に広がった。


「凄い……」


 ん?

 セラドブランがシルヴィア姉さんの魔法に感嘆してる。

 もっと凄い魔法を使えるのに、火魔法使いならではのポイントがあるみたいだ。


「綺麗でした。

 シルヴィア様の火魔法は凝縮したような明るさがあります」


「えっ? ありがとうございます。

 同じ火魔法を使うセラさんにそう言ってもらえると嬉しいです」


 シルヴィア姉さんもセラドブランにそう言ってもらえて照れてる

 よく分からないけど、火魔法にも色々あるらしい。


「一階層と二階層は粘性捕食体(スライム)しか出ないので、このまま進みましょう。

 次に現れたら剣で倒します」


 サラティ姉さんが腰に提げた蒼光銀(ミスリル)のレイピアを軽く叩くと歩き始める。


 僕はそれについて行きながらシルヴィア姉さんに手作りの原生樫(プリミヴァルオーク)の杖を渡す。

 僕が加工した杖の中では比較的細身のものを選んだ。


「シルヴィア姉さん、先日、レドリオン領の迷宮(ダンジョン)で手に入れました。

 何本かあるので使ってみてください」


「えっ? これは?

 もしかして原生樫(プリミヴァルオーク)?」


「えぇ、ご存知でしたか?」


「いえ。

 噂を聞いたことがあるだけです」


「レドリオン領に竜の洞窟(ドラゴンケイブ)と言う迷宮(ダンジョン)があるのですが、その迷宮(ダンジョン)の中で小枝を拾ったので、試しに加工してみました。

 握りや太さがしっくりこないようなら、言ってください。できる限り調整します」


「えっ、本当?

 ハクの手作り品?」


「えぇ、恥ずかしいですが、何本か作ったうちの一本です」


「きゃっ、嬉しい!」


「どうですか?」


「うんうん。凄くいいよ。

 でも、ここのところに私の名前を彫ってよ。

 特別(・・)っぽく」


「あ、はい。分かりました。

 ちょっといいですか?」


 シルヴィア姉さんから杖を預かると、皆んなにも少し足を止めてもらって杖を加工する。

 今回は細かい作業なので、小さな鉄筆(アイアンペン)を即席で作って魔力強化して署名(サイン)を彫り込む。


 どうせならフルネームでちょっと遊び心も入れよう。


 火炎芸術家(ファイアアーティスト)シルヴィア・メイクーン。


「はい。姉さん専用の杖です」


「きゃっ、ハク、ありがとう!」


 杖を受け取った姉さんに思い切りハグされて、周りの皆んなから白い目で見られる。


「ハク、私には?」


「えぇ?

 サラティ姉さんは魔法使わないじゃないですか」


「杖じゃなくて剣とか短剣とか、私も特別なヤツが欲しいわ」


「えぇ? そんな無茶な。

 ……仕方ないなぁ、今回だけ特別ですよ」


 そう言って実験用に作った細い細剣を取り出すと、少し握りの部分を加工して渡す。


「うん。これがいいわ。

 これにシルヴィアみたいな名前を入れて」


「えぇ? サラティ姉さんも?」


「そうよ。だって、特別品なんだから」


「本当に手間がかかるなぁ」


 サラティ姉さんは何て彫ろうか。

 手を抜くと、もう一度やり直しとか言い出しそうだから気合いを入れないと。


 純白の姫スノウホワイトプリンセスサラティ・メイクーン。


 ベタだけどいいだろう。

 細身の木剣だから戦いのイメージじゃないし。


「ありがとう。ハク」


 またしてもハグされる。

 同級生たちの目が怖い。

 ……姉弟だし、久しぶりに帰って来てお土産を渡してるだけだよ。


「メイクーンさん、私には杖は無いのですか?」


「え? セラドブランさん?」


「私は竜の洞窟(ドラゴンケイブ)に行っていないのですが、専用の杖があればもっと魔法の力が上がると思います。

 せっかくなので私にも作って頂けないでしょうか?」


「えっ? いや、専用の杖って、もっと良い杖を持ってるじゃないですか?」


「いいえ、これは家から借りている物です。

 それよりも専用の杖が欲しいのです」


 セラドブランと、更に後ろにいるノアスポットとパスリムの視線が怖い。


「……分かりました。

 使いにくいようだったら言ってくださいね。

 調整しますから」


 そう答えながらセラドブランに渡す杖を探す。

 今までの杖に負けるような杖だと悲しいよな。


 少し太めの杖を取り出して、それをその場で加工する。

 原生樫(プリミヴァルオーク)の杖をベースにして蒼光銀(ミスリル)を含んだ金属を五条の筋にして埋め込み装飾する。炎をイメージしてギザギザと尖った輪郭線を描いた。

 最後に名前も金属で装飾して埋め込んで完成させる。


 白炎の輝きシャインホワイトフレイムセラドブラン・サーバリュー。


 名前は怒られるかと思ったけどサラティ姉さんのときに姫を使ったので、ダブり回避で強引に修飾した。


 ……何もつけないと、それはそれで怒りそうだったのでやむを得ない。


「あぁ、メイクーンさん、ありがとうございます」


 セラドブランが杖を胸に抱くようにして固まっている。


 ……何か失敗したか?


「本当に特別な一品でとても綺麗です」


「少しでも効果が大きくなるように装飾しましたけど、使ってみて違和感があれば言ってください」


「いえ、大丈夫です。

 大事に致します」


 ……本当に大丈夫だろうか?

 今までセラドブランが使っていた杖は僕の知らない素材だ。多少加工した程度で大公家のお姫様が使っていた杖に太刀打ちできる訳が無い。


 不安になってノアスポットとパスリムを見るけど、二人とも頷くだけで何も言わない。


 とりあえず喜んでもらえたので良しとしよう。




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