第二百話
三ヶ月振りの実家だ。
上級学院に入学して碧玉の森で集団暴走を防いだ。
その功績で叙勲され、水神宮に行って水不足を解決した。
逃げられたグルーガの手がかりを探してレドリオン領に行き、黒霧山で火竜を倒した。
父さんにどこから説明したら良いだろう?
そんなことを考えてるとメイクーンの街に着き、しばらくして屋敷に着いた。
屋敷の前に衛士隊のパックスがいたので、馬車の中から声をかけて敷地に入る。
「パックス、手紙は届いたかな?」
「あ、ハク様。
お帰りなさいませ。
今、案内します。
皆さんお待ちかねです」
パックスが満面の笑顔で迎え入れてくれる。
すぐに後ろにいたアデスが門から屋敷に走って行く。
魔動馬車はパックスが先導してゆっくりと門に向かう。
魔動馬車が門に着くと、ちょうど門が開いて中から姉さんたちが飛び出して来た。
「「「ハク!」」」
僕が馬車の後方にある扉から出るのを待ち構えるようにして三人の姉さんが取り囲み、馬車から降りるやいなや、揉みくちゃにされた。
「久しぶりね。元気にしてた」
「移動は大変じゃなかった?」
「ん? 少し大きくなったんじゃない?」
「ホントだ。髪も伸びた?」
「疲れていない?」
「何が食べたい?」
「学院のことを聞かせて」
「それよりも叙勲についてが先よ」
「僕は元気だから……。
それより、お客様が一緒だから案内をして欲しい」
……されるがままにしてたけど、キリがないので手を止めてもらってレドリオン公爵たちを案内することにしてもらう。
「ゴメン、ゴメン。久しぶりだから、つい……」
「心配してたから」
「……今から案内します」
何とか姉さんたちから逃れてレドリオン公爵たちを案内しようとすると、開いた門から父さんと母さんが出て来た。
「ようこそいらっしゃいませ。
私がアレサンド・メイクーンです。
妻のミーシャと後は順に長女のサラティ、次女シルヴィア、三女スファルルです」
父さんが挨拶してレドリオン公爵に礼をすると、順番に母さんたちも頭を下げる。
「オーガスター・レドリオンです。
こちらはセラドブラン嬢とその護衛のノアスポット嬢とパスリム嬢。
ハク君の活躍を話すために来ました。
しばらく世話になりますが、頼みます」
「このような辺境までお越しになるとは珍しい。
叙勲式は遠方のため控えさせてもらいましたが、宜しければそのときの様子などお聞かせください。
まずはどうぞ中へお入りください」
父さんもレドリオン公爵も普段の様子とはかなり違う。
貴族としての体面と様子伺いと、大人は大変だ。
「サラティです。
セラドブラン様、宜しければ上級学院でのハクの様子を聞かせてください」
サラティ姉さんがセラドブランに話しかけている。
……珍しくセラドブランが緊張してるように見える。
年上の女性だからか?
物怖じしないセラドブランが対応に戸惑っている。
「セラドブランです。
サラティ様の方が年上ですし、私のことはセラとお呼びください。
叙勲式のときのことや、その前の碧玉の森のことで宜しければお伝えできます」
「まぁ嬉しい。
ではセラさん、私のこともサラと呼んでください。
ハクのお友達なら大歓迎です」
……いや、サラティ姉さんもセラドブランも、こんな感じだったか?
今までサラティ姉さんもセラドブランも、自分から積極的に親しく接するところを見たことがないことに気づいた。
どちらかと言うと距離を取ってお付き合いをするイメージがあったので驚きだ。
「シルヴィアです。
ノアスポットさんは剣技を得意とされて居るのですか?」
ノアスポットが蒼光銀の長剣を下げているのを見て、シルヴィア姉さんが近づいて行く。
サラティ姉さんの剣を見てたシルヴィア姉さんなら剣の話もできるだろう。
「ノアスポットです。
剣士に憧れて帯剣しています。シルヴィア様は何か武道を使われるですか?」
「私には剣は扱えませんが、少しだけ魔法を扱えます」
ノアスポットも儀礼的な会話ができる、と言うか、することもあるらしい。
「スファルルです。
パスリム様も護衛ということは、魔法を使われるのですか?」
「パスリムと申します。
少し魔法が使えるので、護衛と言うか側付きの役目を頂きました」
「そうなのですね。
私は魔法が使えないので憧れますわ。
パスリム様もどうぞこちらへお越し下さい」
姉さんたちも貴族だったみたいだ。三人の姉さんがちゃんとホスト役をしてる。
父さんとレドリオン公爵は既に屋敷に入って行ったし、僕だけが騙されてるような、夢を見てるような感じで現実味がない。
……あまりにも僕の知ってる姿と違ってる。
父さんと母さんはレドリオン公爵たちを食堂に連れて行った。
時刻は昼過ぎで、軽食と飲み物が用意してある。
「レドリオン公爵、どうぞこちらへ。
お疲れでしょうし飲み物を用意していますので、寛いでください」
父さんが案内すると、レドリオン公爵が来訪の目的を告げる。
「助かりますメイクーン子爵。
まずは今回の来訪の目的ですが、ハク君の更なる叙勲について相談があります」
「更なる叙勲……ですか?」
「はい。
前回、碧玉の森で集団暴走を防いだ、ということでその功を蛋白石勲章という形で褒賞されました。
改めてお祝いを申し上げます」
「ありがとうございます。
ハクにとって励みになりますし、非常に有難いことです」
父さんが躊躇いながら祝辞にお礼すると、レドリオン公爵が説明を続ける。
「その後、レドリオン領に来ていたのですが、その際、黒霧山に現れた体長五十メートルにもなる火竜を討伐しました」
「「「は?」」」
父さん、母さんだけじゃなく姉さんたちも口をアングリと開いて固まった。
「驚かれるのも無理は無いのですが、八歳で火竜の討伐に成功しました。
ちょうど、十五日ほど前のことです」
「えっと、冗談ではありませんか?」
「本当のことです。
火竜の調査をお願いしていたのですが、偶然見つけた火竜と戦闘に突入してこれを退治しています」
「それは、大勢の方のサポートなどがあったのでしょうか?」
「いえ、単独、と言っても前回同時に叙勲されたクロムウェル君とネグロス君の三人組ですが、その三人のみで火竜を倒し、三人の八歳の子が竜退者になりました」
「……あぁ」
父さんが状況を理解したようで難しい顔をしてる。
「竜退者ということで、確実に前回よりも上位の勲章が授与されます。
場合によっては叙爵もあり得ますので、メイクーン子爵のお考えを聞くために来ました」
「竜退者」
「ハク、凄い」
「叙爵……」
父さんの難しい顔とは逆に姉さんたちは今にも飛び上がりそうな勢いで手を握り合ってる。
「そうですか。
叙爵をお断りするのは難しそうですね?」
「ええ。
これだけの手柄を立てたのです。
まず間違いなく叙爵されると思ってください」
ん?
今までは可能性があるって言い方だったのに、父さんとレドリオン公爵は僕が叙爵される前提で話しを進め出した。
「今はまだメイクーン領に他の貴族に入って欲しくありません」
「やはり……」
「迷宮を見られる訳にはいきません」
「……となると、少し検討が必要です」
レドリオン公爵も口を噤み、無言となった。




