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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第百九十九話

 

「それじゃ、ハク、頑張れよ」

「私たちは北部のニーグルセントから帰って来たらここで待ってるからな」


 ネグロスとクロムウェルに逃げられた。


 領館での食事会が終わった後、ハク・メイクーンとして領館に滞在したり、シルバーとして竜の洞窟(ドラゴンケイブ)に潜ったりしてたけど三日ほどで準備ができたと言われてメイクーン領に行くことになった。


 メンバーはレドリオン公爵とその護衛三名、セラドブランたち三名と僕。


 ネグロスとクロムウェルはレドリオン領から更に北にあるニーグルセントに行って、グルーガの情報が得られないか調査しに行く。

 ……レドリオン公爵とセラドブランたちとの旅を嫌がって別行動を選んだ。


 僕は、僕の実家に帰るのに抜けられる訳がない。


 レドリオン公爵の護衛は灰色の影(レドグレイ)と言う特殊な部隊のメンバーで、以前、冥界の塔(ハデスタワー)を攻略してるときに僕を尾行していた黒猫もその部隊の一員らしい。


 今回はレドリオン公爵の護衛と言うことでその中でも凄腕の獣人がついている。


 リーダーはロベールと言う黒豹の男性。

 身体も大きいし反応も素早い。武器を使うところを見てないけど、素手でも魔物(モンスター)を倒しそうな雰囲気がある。


 そしてその部下が二人。

 パシアンとケイティ。二人とも黒猫の女性で影のように動く。

 気を抜くと気配を見失うので、たまにギクリとする。


 護衛の三人が魔動馬車(マジックキャリッジ)を操作してメイクーン領まで移動する。

 僕が運転したいところだけど、索敵能力も戦闘力も充分だし魔力操作も上手いので、手出しする余地が無い。


 魔動馬車(マジックキャリッジ)の車内は五人で使うには広くて快適だけど、話すことが無くて困る。


「それにしても何でレドリオン公爵までメイクーン領に行くんですか?」


 馬車の中でふと思いついてレドリオン公爵に聞いてみる。


「ん?

 何となくだよ。

 メイクーンが自領に帰る必要があるか、とか、メイクーン領の迷宮(ダンジョン)はどんな様子か、とか。

 行かなきゃ分からないことがあるだろ」


「普通は調査員を派遣した後で、父を呼び出すのかと思ってました」


「そんなやり方もあるな。

 しかし、それじゃメイクーン領での暮らしぶりが分からない」


「そうですか……」


「本当は、周辺地域とか色々調べてからにしたかったんだがな。

 火竜(ファイアドラゴン)を倒したことで、そうも言ってられなくなった」


「はぁ、そんなに急ぎますか?」


「そうだな。

 少なくとも連続して叙勲されれば、メイクーンがどこにいるかが貴族たちの間で常に話題になる。

 色んな貴族から食事会に招かれるぞ」


 レドリオン公爵が顎を撫でながら楽しそうに言う。


「……楽しそうですね」


 全然楽しくなさそうな顔で言い返すと、それが面白いようでククッと笑われた。


「その度に縁談を迫られるぞ」


「……迷惑ですね」


「何もしなくても数年間は追いかけられることになるからな。

 だから、所領を与えるとしたら、どこにするべきか検討するためにもメイクーン領を見る必要があるんだよ」


「メイクーン領の近くでいいじゃないですか?」


「メイクーン領に貴族が押し寄せたら面倒だろ。

 貴族が大勢やってきたら、当然トラブルも増えるからな」


 レドリオン公爵が物騒なことを言う。

 でも、言ってることは確かだ。

 集団暴走(スタンピード)のときも先着したレオパード伯爵家のレゾンド・レオパードとサイベリアム子爵家のダグラス・サイベリアムに対して、後から来たクーガー伯爵家のテンペス・クーガーとラガドーラ子爵家のメィリー・ラガドーラが功を競っていた。


 あのときはダグラスが姉さんにアプローチして、メィリーが僕に絡んできてたけど、そんな連中ばかり集まるとしたら悪夢でしか無い。


「まだ八歳ですよ」


「だからだよ。

 みんな八歳だったらどうにでもなると考えるんだよ」


 レドリオン公爵が僕だけでなくセラドブランたちも見回して続ける。


「上は二十から下は三歳ぐらいの娘がいる貴族はみんな集まると思え。

 そんな奴らが迷宮(ダンジョン)に興味を持ったらどうなるか」


「そんなに簡単に攻略できませんよ」


「それでも、どんな神授工芸品(アーティファクト)が出るか興味を持つだろうな」


「ぐぬ……」


蒼光銀(ミスリル)はどれほどの価値があるんですか?」


 言葉に詰まった僕に変わってセラドブランが質問すると、レドリオン公爵が笑う。


「さて、どれぐらいかな。

 値段はつけられないな。

 セラドブラン嬢も分かってるだろ?」


「貴重だと言うことは分かりますが……」


「メイクーン、お前なら双子迷宮と蒼光銀(ミスリル)

 の迷宮(ダンジョン)、どちらに挑む?」


「今までの経験だと蒼光銀(ミスリル)迷宮(ダンジョン)です」


「だろ?

 上位ランクの冒険者なら必ず蒼光銀(ミスリル)を欲しがる。

 金は後からついてくるからな」


 レドリオン公爵がニヤリとして答え、話しを続ける。


「それで、今のメイクーン領にBランクの冒険者が二十パーティやって来たらどうなる?」


「大混乱です。

 でもBランクで継続的(コンスタント)に稼ぐのは難しいと思いますよ」


神授工芸品(アーティファクト)が出ても出なくても、人数が増えれば色々あるさ」


「そうですね……」


 稼いだ冒険者はお金を使うし、稼げない冒険者は稼ごうとする。

 当然、裏稼業のような冒険者も出てくるだろう。


「そこに更にAランクが五組増えたら?」


「収拾がつかないですね。

 かなりのトラブルが起きると思います」


 Aランクだからと言って聖人君子な訳じゃない。

 Bランクでもピンキリだけど、Aランクの実力があって粗野な冒険者が集まればすぐに無法地帯になるだろう。


「それに蒼光銀(ミスリル)の武器が流通すると、同じことが国内の至るところで起きる可能性もある」


 レドリオン公爵が別の視点で指摘する。


「今は蒼光銀(ミスリル)の流通量が圧倒的に少ないからな。

 高額だし、一部の貴族か実績の確かな冒険者にしか流通しないが、蒼光銀(ミスリル)の武器が組織化されて流通したら軍事力、抑止力の面で課題になる」


「……」


「これはメイクーンに対しても言える。

 既に実力のあるメイクーンが蒼光銀(ミスリル)の武器を百、二百と揃えたら誰がそれを止める?」


 ……風向きが怪しくなった。

 僕が蒼光銀(ミスリル)に近い武器を作れると知ったらどんな顔をするだろう?


「とまぁ、色んな課題があるからな。

 迷宮(ダンジョン)を実際に見るのも必要なんだよ」


 レドリオン公爵が戯けるように言って会話が終わった。




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