第百九十七話
「次は火竜だな」
レドリオン公爵が説明を続ける。
「五日程前、夕方に黒霧山を西から東へ飛ぶ姿が目撃された。
空を赤い光が飛んでいたそうだ。
かなり高度の高いところだったらしく何件かの目撃情報が寄せられている。
ただ、大きさの確認や住処の情報はまだ無い」
セラドブランたちも事前に火竜の話を聞いていたのだろう。
レドリオン公爵が皆んなの顔を確認すると場が静まる。
この場面で報告しづらいが、今度は僕の番か……。
「では僕から黒霧山の報告をさせて頂きます」
僕が話し出すと皆んなの視線が集中する。
「五日前の火竜の目撃情報ですけど、僕たちもそれを黒霧山で目撃しました」
「「おぉ」」
「それで、どうだった?」
何人かが声を上げ、レドリオン公爵も身を乗り出す。
この雰囲気、今のレドリオンでは火竜が一番の問題だよな。
「時刻は夕暮れ直後、火竜は黒霧山の北の空を西から東へ高速で飛んでいました。
暗い空に赤い点が動いてたので気づきました。
咄嗟に僕は駆け出し火竜の尾行しました。
火竜が一刻ほど飛んで向かったのは山が険しくなる手前にある廃墟となった要塞でした。
要塞は千人ぐらい収容できそうで尖塔が三つ、建物が三つあり、周囲を高い城壁で囲んでいますが、既に廃墟になっていました。
そこに火竜が降りて行ったので、住処を見つけたと思い大きさを確認するために近づいて行くと火竜が結界に囲まれていました」
結界という単語が分からなかったのか、皆んなキョトンとする。
「神授工芸品で火竜の力を抑えつけて動きを封じてる一団がいたんです」
「一団?」
「ええ。様子を見てると建物から三人出て来ました。
隙をついて二人を気絶させるとダルメシアン種の犬人でした」
「犬人……」
「引き続き調べると残りの一人は妖精人でした。
更に建物の中にもう一人妖精人がいて戦闘になりました。
二人を倒すと、暴れ出した火竜とも戦闘になりこれも倒しました。
ただし、火竜の息吹で要塞のほとんどが吹き飛ばされたので、妖精人一人と火竜の死体しか回収できませんでした」
「「「……」」」
「今の話は本当か?」
「はい」
「火竜を倒した?」
「はい」
「妖精人が火竜を操ろうとしてた?」
「はい」
「犬人が関与してた?」
「はい」
「どういうことでしょう?」
レドリオン公爵が確認する都度答えてると、セラドブランが疑問を呈した。
「……まずは確認だ。
メイクーン、火竜を出すにはどれくらいのスペースが必要だ?」
「そうですね。
領軍の演習場ぐらいは必要です」
「まだ見せられないからな。
やむを得ない。裏の庭園に行くぞ」
レドリオン公爵の指示で領館の裏に回ると広大で綺麗な庭園が広がっている。
幾何学式庭園というのだろうか。
中央にプールのように四角くて大きな池が設置してある。そして左右対称に色んな樹々が配置されていて美しい。
広いので火竜を置くスペースはあるけど、池とか木とかを壊しそうだ。
「メイクーン、すまないがこの庭ならどこに出してもらってもいい。
何が壊れても構わないから出してくれ」
出してくれと言われても……。
「えっと、出すと、色々壊れますよ」
「やむを得ん」
……仕方ない。
ノワルーナ、池の水を全部抜いてくれ。
ミネラ、池を全部土で埋めるぞ。
小声で呟いてから魔法を唱えるフリをする。
「埋立池」
魔法に合わせて影水の精霊ノワルーナがスッと池の水を影の中に吸い込んだ。
その直後に銀の黄金虫のミネラが池の底の土を盛り上げると、五十メートルプールのような池が整地された地面に変わる。
金属性でできる技じゃないけど、こうでもしないと火竜を出す場所が確保できない。
「「「あっ!」」」
皆んなが驚いてるうちに火竜をその場所に取り出す。
「「「おおおっ!!!」」」
「凄い……」
「まさか……」
「信じられない」
想像以上の大きさだったのだろう。
皆んな目を見開いたまま、近寄ろうとしない。
「この他に倒した後に拾い集めた鱗や血もありますけど、本体はこれです」
「これは、予想してたより大きいな」
「そうですか。
僕も竜は初めてなので」
「四十メートル級が出るとレドリオンが崩壊すると警戒していたが、……これは五十メートルを超えそうだ」
レドリオン公爵が横を歩きながらおおよそのサイズを把握する。
ウォルタナスとデイビスも近づいて触りはしないが、鱗の一枚一枚を確認している。
「火竜の傷が少ないようですが?」
女性陣は離れたところから眺めてるだけだが、セラドブランが竜の死体を見て質問する。
「はい。
鱗が硬くて、剣は全然効きませんでした。
魔法で勢いをつけた一撃か、鱗を剥がしてからの一撃しかダメージを与えられていません」
「それでどうやって倒したのですか?」
「小さな傷は戦闘中に自己修復するので心臓付近を集中して攻撃し、鱗を剥がしてから剣を突いて止めをさしました」
頭から尻尾の先まで確認したレドリオン公爵が戻ってくる。
「これを三人で? それとも一人で?」
「一人です」
「ふぅ……」
「火竜を見つけたとき、二手に別れました。
僕は火竜を尾行し、クロムウェルとネグロスは僕を追って森に入りました。
住処を見つけたら合流する予定でしたが、妖精人が現れて予定が狂いました」
「そう言えば妖精人も確認させてもらおうか?」
レドリオン公爵が厳しい顔をしてる。
その顔を見て状況の悪さを感じる。
「こちらです。
この妖精人の名前はピューラー。
もう一人はエルクスです」
黒ローブを着た妖精人の死体を出す。
白い顔に金髪。獣人とは明らかに違うノッペリとした顔。
「確かに妖精人だな」
「エルクスがリーダーでピューラーはそれに従っているようでした。
犬人たちは部下のようで妖精人の指示に従って行動してました」
「他に気づいたことは?」
「ピューラーの魔法で竜の鱗と体を焼いて弱らせてました。
それから、もう一人のエルクスは竜に騎乗して攻撃してきました」
レドリオン公爵の後ろでウォルタナスとデイビスもしっかりと妖精人の死体を確認してる。
「妖精人の死体は仕舞っておいてくれ。
後で領軍に引き渡して調査を進める。
魔法師団長のメリクスに確認してもらわねばな。
火竜も仕舞ってくれ。
どうせなら領軍の奴等を驚かせてやろう」
レドリオン公爵が笑うと場の雰囲気が変わった。
情報の整理ができたようだ。
「犠牲がなくて良かった。
今宵はこのメンバーで祝勝会としよう」




