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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第六章 北進公路
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第百九十三話

 

「しかし、よくあんなデカい火竜(ファイアドラゴン)を倒したな」




 ネグロスとクロムウェルの二人と合流し、その後北東に走り続けると夕方には崩壊した要塞に着いた。

 想像以上に多くの魔物(モンスター)がいた以外は予想通りだ。


 要塞で一晩休むつもりだったので、途中で栗兎(マロンラビット)を狩ったり枯れ枝を拾って来た。

 要塞跡を軽く見て周ってから火竜(ファイアドラゴン)の死体を見せると、肉を焼きながら簡単に流れを説明し、廃墟と化した要塞でのんびりと過ごした。


 たった半日バラバラに行動しただけなので、お互いの情報交換自体は簡単に終わる。


 問題はこれからだ。


 とりあえず満天の星を眺めて休み、日の出とともに野営場所に戻る。

 ……二日連続で要塞から出発だ。


 今日はネグロスとクロムウェルの二人がいるので、森の中を走って帰る。

 たくさん魔物(モンスター)がいる森の中を走って帰る。


 ……昨日は様子を見ながらの移動だったから仕方ないけど、今日はちょっとズルをさせてもらおう。

 流石にキリがない。


 風の隼ウェントゥス・ファルコのヴェネットに道案内をお願いして先導してもらい、魔物(モンスター)突鉄槍(アイアンスピア)で串刺しにして進む。


 地面から突き出した突鉄槍(アイアンスピア)なら、魔物(モンスター)を倒すこともできるし、ダメでも逃げ出す時間を稼ぐことができる。


 魔物(モンスター)を無視、または放置してドンドンと先に進む。


「それで、これからどうするんだ?」


 森の中を走りながらネグロスが聞いてくる。


「レドリオン公爵に報告して相談するよ。

 火竜(ファイアドラゴン)妖精人(エルフ)もレドリオン公爵の案件だし、魔法鞄(マジックバッグ)を手に入れたいし」


「冒険者ギルドにも報告するのか?」


 クロムウェルが反対側を並走して聞いてくる。


「ギルドは、どうするかな……。

 妖精人(エルフ)はレドリオン公爵と領軍に伝えるだけでいいと思うけど、火竜(ファイアドラゴン)のことは伝えないといけないよね?」


「あぁ、火竜(ファイアドラゴン)に対してかなり警戒してるから、情報共有は必要だろう」


「どこまで話すかな?」


「それもあるが、指名依頼のこともあるから、誰が倒したことにするか決めといた方がいいだろう」


「誰が?」


「そう、誰が、だ。

 冒険者のシルバーか、ハク・メイクーンか?」


「シルバーとハク、どっちが火竜(ファイアドラゴン)を倒したことにするかってこと?」


「あぁ、よく分からないが火竜(ファイアドラゴン)を倒したから、また叙勲されるぞ。

 竜退者(ドラゴンスレイヤー)って大抵叙勲されてるだろ?」


 竜退者(ドラゴンスレイヤー)か。

 一国を滅ぼすような竜を倒した王を竜退者(ドラゴンスレイヤー)と呼んだことぐらいしか知らない。


「むう……。

 また叙勲されるのかな?

 今度は前回よりももっと面倒なことになりそうだけど……」


「諦めろって。

 確実に叙勲されるわ。

 この前の集団暴走(スタンピード)も大概だけど、竜退者(ドラゴンスレイヤー)って言ったらすぐに叙爵されるんじゃねぇの?」


「叙爵……」


「それもあり得るな。

 叙勲、叙爵、ついでに許嫁まで決まるかも知れん」


 叙勲だけじゃなくて、叙爵とかやめて欲しい。

 父の領地を継ぐときまで貴族になるつもりはないけど、仮に叙爵した場合はメイクーン家はどうなるんだ?

 結婚とか許嫁はレドリオン公爵が何とかして止めてくれることを信じるしかないし。


「それはシルバーでも同じかな?

 シルバーはただの冒険者だよ?」


「シルバーの方が厄介なんじゃないか?」


「あぁ、バレットの言う通りシルバーの方が面倒な気がする」


「どうして?」


「ただの冒険者だろ?

 誰がどんな口出ししてくるか分からないぞ」


「それに、また大勢の貴族の前で叙勲されたら一目で見抜かれて、結局ハクが隠れて竜を退治したってバレるぞ」


「ぐぅ……。

 それなら、このまま倒してないことにするか」


「それだと、ずっとレドリオンに足止めされるな」


「それに妖精人(エルフ)のことはどうなる?」


「あぁ〜。

 分かったよ。

 ハク・メイクーンが火竜(ファイアドラゴン)を退治したことにしよう。

 そして、ギルドには内緒にする」


「「まぁ、それが妥当だな」」


 何故か二人して僕をやり込めて満足してる。

 二人も僕と一緒に行動してるから、同じ状態なのを理解してるのか?


 黒瑪瑙(オニキス)の方はシルバー、バレット、ユンヴィアの三人組で、今回、様子見で黒霧山(モンサルトゥス)にやって来た。

 そして、森の入口で鋼皮羆(メタルグリズリー)を狩った。


 一方でハク、ネグロス、クロムウェルの三人は黒霧山(モンサルトゥス)の奥で火竜(ファイアドラゴン)を退治した。


「それじゃ、二人にも一緒に流れを考えてもらおうかな」


「ん?」

「まだ何かあったか?」


「何かあったか? じゃないよ。

 黒瑪瑙(オニキス)の三人は様子見で黒霧山(モンサルトゥス)にやって来て鋼皮羆(メタルグリズリー)を倒した。

 でいいけど、ハクたちの方は何でこんな山奥まで来たのか理由を考えてよ」


「ん?

 レドリオンで火竜(ファイアドラゴン)の噂を聞いた。じゃダメなのか?」


「それだと、ハクたち三人もレドリオンに来たことになるじゃないか?

 そうするとレドリオン公爵に迷惑がかかってしまう。

 ハクたちはレドリオンに寄らずに黒霧山(モンサルトゥス)に行って、火竜(ファイアドラゴン)を倒したからレドリオンに伺ったことにしないと……」


「あぁ、そうだな。

 黒瑪瑙(オニキス)とは別の行動をしてないとおかしいな」


「ハクたち三人の行動か……。

 なぁ、ハクたちの方もパーティ名を決めないか?」


「はあ?」

「どうした? 急に」


「いや、黒瑪瑙(オニキス)だけだと説明しにくいからさ……」


 ネグロスが走りながら別の提案をする。


「確かに裏の黒瑪瑙(オニキス)とは別に表のパーティ名もあった方が便利かも。

 ハクたちが水神宮のあるポローティアを出てから何をしてたか?

 それと表向きのパーティ名を考えながら帰ろうか」


「あぁ、まだまだ時間がかかるし、尋問に備えて考えておくのもいいな。

 黒瑪瑙(オニキス)を作ったときに碧落の微風(ブルーブリーズ)のメンバーに色々と聞かれたときは、それまでのエピソードを考えるのが大変だったからな」


「あれはあれで楽しかったよ」


「ギリギリまで名前が決まらなかった癖に。

 何度名前を言い間違えそうになったことか……」


「それでも、何とか板について来たし。

 咄嗟に悩むときもあるから、早めに考えといた方がいいのは確かだよ」


「それもそうだな。

 どうせオリジナルの方も三人一組で行動続けるから、分かりやすい名前がいい」


 そう言って、無駄口を叩きながら走り続ける。

 相変わらず足元は悪い。

 昼間なのに夕方のような薄暗さだ。

 地面も濡れていたり、ぬかるんでいたりして上級学院の山道よりもかなり走りにくい。


 そんな森の中をヴェネットの白い影を追いながら、たまに金魔法を使って魔物(モンスター)を警戒して走る。


西風(ゼフィロス)はどう?」


 ふと思いついた名前を伝える。


 僕たち三人が西の辺境出身だから共通点という意味でいい線いってると思う。


西風(ゼフィロス)か。いいんじゃない」

「あぁ、私たちは西方出身だし。

 辺境トリオと呼ばれたこともあったな」


「あった、あった」


「分かりやすいし、西風(ゼフィロス)で決まりだな」

「今度、大公都バスティタのギルドに行ったら正式に登録しておこう」


 決まるときはあっさり決まるもんだ。

 二人も納得してくれて表のパーティ名が決まった。


 後は西風(ゼフィロス)が何をしてたか考えるだけだ。


「基本は西風(ゼフィロス)の三人はポローティアの街を出て北に向かい、黒霧山(モンサルトゥス)の森の奥で火竜(ファイアドラゴン)を倒すんだから、後はそれらしい理由があれば説明できるんだよ」


「水神宮で水不足事件に遭遇したから、水神に関連した出来事とか神授工芸品(アーティファクト)を探すため、とかでいいんだよな?」


「そうだね。

 水じゃなくても火でもいい。

 火だと火竜(ファイアドラゴン)に繋がるし」


「あんまり難しいことを考えずに、水神宮の水脈は黒霧山(モンサルトゥス)から続いてるって噂にして、それを調べに来たら火竜(ファイアドラゴン)に襲われたことにすればいいんじゃね?」


「そうだな。

 嘘に嘘を重ねて言い繕う必要もないし」


「何か分からないかと調べに来ただけだし、それでいいか……。

 水脈を調べに来て火竜(ファイアドラゴン)に襲われるなんて、災難だな」


「ははっ。そうだな。

 災難な一晩だったぜ」


「あぁ、とんだ災難だった」


 テキトーなストーリーだけど、確信があって行動してる訳じゃないからこれでもいいか。

 二人も納得してる、これでいこう。




 パーティ名も決まり、ハクたちが何をしてたのかも決まったので後は帰るだけだ。


 ネグロスたちは僕が全然方向確認をしないので不思議そうだったけど、ヴェネットに案内してもらってるから迷う心配はない。

 その甲斐あって夕暮れごろには野営場所に戻ることができた。


 僕たち三人が森の入口にあるクレーターに着くと、暗くなり始めた野営場所には既に焚火が焚かれていた。




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