第百九十二話
「バレット!
ユンヴィア!」
鋼皮羆に跳ね飛ばされたのはネグロスとクロムウェルの二人。
……知らない冒険者じゃなかった。
無事で良かった。
合流できて良かった。
色々と不思議な点はあるけれど、まずは鋼皮羆を何とかしなければ。
「「シルバー!」」
吹き飛ばされた二人がそれぞれ受け身を取って起き上がるとこちらを見て声を上げる。
「どんな状況?」
「急に現れて、追いかけられてる」
「初撃は全く効いてない」
飛び込むかどうか悩んで声をかけると、案外冷静な答えが返ってきた。
「助太刀は要る?」
「頼む」
「俺たちの剣じゃ斬れない」
「逃げないの?」
「コイツとどう戦うか見たい」
「倒せるなら倒したい」
二人とも自分には無理だと判断した上で倒して欲しいようだけど、そんなに簡単にいくか?
「とりあえず、斬りつけてみてから判断するよ。
念のために距離を取って」
「あぁ」
「分かった」
バトンタッチだ。
ネグロスとクロムウェルがそのまま左右に退いて行く。
残された鋼皮羆が首を振って二人を探し、正面に残ったままの僕を見つける。
一目でロックオンされたようだ。
さっきはネグロスの双牙刀とクロムウェルの十字戟が弾かれた。
合金剣じゃ無理だろう。
僕は合金剣を投げ捨てて蒼光銀の長剣を両手に握りしめる。
魔力を思い切り流して蒼光銀の長剣を赤く発熱させて戦闘準備を整える。
さぁ、闘ろうか。
四足で距離を測りながら近づいて来る鋼皮羆にこちらから突っ込む。
せいっ!
鋼皮羆の振り上げた右腕に対してカウンター気味に長剣を合わせる。
キンッ!
一歩深く踏み込んだオレが熊の右腕を剣で止めた。
……くそっ。
右腕を斬り落とすつもりだったのに、右腕と蒼光銀が拮抗して斬れなかった。
すぐに鋼皮羆が左腕を真上から振り下ろしてくる。
すぐさま後ろに跳んでかわすと、空振りした左腕が地面にメリ込んだ。
お互いダメージ無し。
鋼皮羆は四足でも二足でも自在に動けるようなので、対人戦のように二本の腕を警戒した方が良さそうだ。
昔、三頭冥犬と戦ったときのように前脚を一本ずつ潰していくか。
根性比べは時間がかかるけど、腕を潰せば危険は減る。
初太刀の感じでは三頭冥犬に近い硬さだったので、根性比べで勝てそうな気がする。
ただ、三頭冥犬は四足だったから、前脚の攻撃は単発だった。
鋼皮羆が二足で立って連続で攻撃してくると、地道にダメージを入れるのも骨が折れるかも知れない。
……隙が無かったらその手でいくか。
まだ一太刀しか交わしてないので、鋼皮羆の動きを確認するために再度、胸元目掛けて飛び込んだ。
せいっ!
突きを放つと鋼皮羆が体を捻って左腕で剣を受ける。しかし毛皮が硬くて剣先が止まってしまう。
そこから鋼皮羆は右腕でフック。
そのときには一度退がって、熊のパンチは空振り。
二足だと動きが遅い。
フットワークが鈍い。
オレのヒットアンドアウェイで徐々に削れそうだ。
これならいける。
一度、立ってる脚を斬りつけるように見せて鋼皮羆の体勢を低くさせてから、ジャンプして顔に向けて回転斬り。
一太刀目は右手で頬骨を横払い。
二太刀目は一太刀目が当たったところから裏拳のように一回転して頭蓋骨を殴打。
更に三太刀目で眉間に深々と剣を突き刺した。
全身を鋼の毛皮で覆った鋼皮羆も顔の毛はそこまで丈夫ではない。
巨木の下に倒れてた縮毛羆と同じだ。
倒し方も同じ。
フットワークが遅ければ、弱点を攻めるのも容易だ。
一撃では無理でも、連撃で深くダメージを与えればいい。
蒼光銀の長剣で眉間から頭蓋骨を貫かれた鋼皮羆はそのままの体勢でゆっくりと後ろに倒れていった。
オレはその胸に立ち、動かないことを確認してから剣を抜いた。
「鮮やかな手際だったな」
「あぁ、あの熊に対してよく接近戦で先手を取れたな」
ネグロスとクロムウェルが感想を言いながら近づいて来る。
二人は武器を仕舞い完全に観戦モードだ。
「途中で縮毛羆の死体を見たからね。
アレと同じだよ」
「あ、オレたちの倒したアレか?」
「そうだと思う。
異常に大きな木のそばにあったし」
「異常な木だってよ」
ネグロスが何やら含みを持たせてクロムウェルに話を振った。
「何本も巨木があったから気になって追いかけて来たんだ」
「その木は私たちの目印だよ。
野営場所に戻れなくなったら困るから、ある程度距離を進んだら活性水で木を育てて目印にしたんだ」
活性水で目印を作ったのか。
方法までは想像できなかった。
「随分と森を進んだようだけど、いつ頃出発したんだい?」
「お前が一人で飛び立ってすぐだよ」
「無茶するから、すぐに追いかけて来たんだ」
あぁ〜、なるほど。
それなら納得できる。
時間的な問題は解決だ。
「それは、すみません。
と言うか、ありがとう」
二人の気持ちに感謝して頭を下げる。
「それで火竜はどこだ?」
「ちゃんと住処まで行けたのか?」
「あ、あぁ、色々あって火竜を退治した。
説明するからここで休憩しようか」
「「はぁ??」」
僕が聞きたいこともあるし、ちょうどいいのでここで休憩して二人に説明することにした。
鋼皮羆の死体を回収すると、クロムウェルが活性水を出してくれたので、それを飲みながら説明する。
「まさか火竜を倒しちゃうとはな」
「おまけに妖精人まで出てくるなんて……」
二人は僕の話を聞くとあっさりと受け入れてくれた。
こんなよく分からない話を聞いてくれてありがたい。
「それで、どうする?
俺たちもその要塞に行った方がいいのか?」
「どこかで火竜を見たいけど、こんな森の中で出してもらう訳にはいかないよな」
そうか。
説明しただけじゃなくて実物を見せることもできるんだった。
ここからだと要塞までは走れば一日ぐらいか?
ただし、更に森の奥になるので強い魔物が現れる可能性もある。
クロムウェルの活性水があるし、無理しても何とかなりそうな気もする。
もう火竜を倒したから、一日二日報告が遅れたところで問題は無いだろう。
「そこまでは考えて無かったけど、どうせなら二人にも要塞を見てもらおうかな。
何か気づくことがあるかも知れないし」
「分かった」
「あぁ、三人なら何とかなるだろう。
シルバーの魔法鞄があれば、どこへ行ってもそんなに困らないしな」
「それを言うならクロムウェルの活性水があれば十分なんじゃない?」
「体力的には十分かも知れないが、ちゃんと何か食べないと気分的に充分じゃないんだ」
クロムウェルは謙遜ではなく本気で何か食べないと足りないと思ってるようだ。
「一晩中、活性水だったから何か食いたいな。
ついでだしここで食事しようぜ」
ネグロスも調子づいて同じようなことを言い出した。
「そこまで言うなら、何か食べようか」
「狩りするのも面倒だし、何か肉料理でも持って来てないのか?」
「肉料理は無いけど、猪ならあるよ。
焼いて塩胡椒で食べる?」
「いいね」
「あぁ、最高だ」
お互いに一晩中動き続けてたので、かなりの量の肉を食べた。
活性水で疲れは取れてたけど、二人の言う通り食事は格別だった。




