第十九話
「ミネラ、次!」
銀の黄金虫が鉄の短槍を空中に創り出すと、すぐにそれを掴み天井付近にいる蝙蝠に投げつけて頭を吹き飛ばした。
横合いからはオレの身長と同じ大きさの団子虫が転がって来る。
左足を半歩引いて構えると魔力を纏わせた蒼光銀の長剣をカウンター気味に抜刀して団子虫を斬り抜いた。
「こんなもんか?」
迷宮の奥、二十八階層かニ十九階層。
小部屋にいた雑魚を倒して一言呟くと、地面に座る。
二十階層の階層主を倒してから何となく魔力のようなものを感じるようになった。
魔力の塊のような魔晶石に触れたからか、蒼光銀粘性捕食体を倒したからか、魔力を使うようになったからか?
二十一階層からの魔物は部分的に異常に硬かったり、魔法を使ってきたりする。
さっきの蝙蝠も初対戦のときに上空から疾風刃を使ってきた。
面倒なので見つけ次第何か投げて潰すようにしてる。
その、見つけ次第、という感覚のところで魔力による感知みたいのが効いてる気がする。
まぁ、魔力に対する感覚が鋭敏になったというところだろう。
そして魔物がいなくなった小部屋で、引き続き魔力感知で周囲を確認すると、迷宮の壁、少し高い位置に水晶クラスターを見つけた。
クラスターの付け根、迷宮の壁を長剣の柄頭で砕いて水晶を採取した。
銀色の蜥蜴に魔晶石に魔力を流せと言われて試してみたところ、魔晶石には魔力が貯まるようだった。
よく分からないが魔力が流れるのだが、放散しない。
銀の黄金虫の作った苦無や短槍は魔力を流してもすぐに散ってしまうから、魔晶石が特別なんだろう。
蜥蜴も言っていたが魔晶石が当たりなら、それに近い水晶クラスターも集めて置いて損はないだろう。
スファルル姉さんが喜びそうだし。
二十一階層以降、限定特典で出て来るアイテムが三つに増えて収納庫の中には武器がかなり貯まっている。サラティ姉さんも喜んでくれるはずだ。
それにしても、こんなにパカスカ出て来ていいんだろうか?
現在進行形で苦労してるからもらえるものは全てもらうつもりだが、鉄剣とは性能の違う蒼光銀ばかり出てくると後の利権争いが心配になってくる。
……考えるのは後だ。
今は前に進む。
とにかく腹が減った。
サッサと進んで、食べ物を手に入れないと飢え死にしてしまう。
金属とか石とかそんな感じの魔物ばかり増えて、食べれそうな魔物がいない。
寒くはないが、火を起こせるような枝や薪になるもんも無いし、水が出せるだけマシでも、少しでも体力のあるうちに先に進まないと本当に詰んでしまう。
出たっ!
階層主への道。
次ぐらいかと思っていたら、本当に同じ道が現れた。
ただ真っ直ぐな通路を歩きながら、今度の敵を予想する。
ここに来るまでに蒼光銀の鎌を持つ蟷螂とか毛皮が金属に近い熊とかがいたし、どうせ金属系だろう。
蟷螂は正確な名前も分からない魔物だが、三メートル近い体で腕の先にあるのは蒼光銀の鎌だった。鎌が硬くて、魔力を纏っても斬れなかったのでよく覚えている。
せっかくなので倒した後に収納庫に入れた貴重キャラだ。
目の前に鉄の扉が見えてくる。
鉄の扉に蒼光銀の蜥蜴だ。
二十階層の出口と同じ。
あの生意気な蜥蜴にそっくりなレリーフだ。
三十階層。階層主への鉄の扉を開けて中に入る。
ここも同じだ。
中はすり鉢状になった闘技場。
中央に銀色の魔物が一体見える。
……というか、三メートル近い金属の人型。
十階層の階層主、魔鉄亜人形じゃねぇか?
いや、違う……な。
全体的に蒼白い。まさか蒼光銀?
これまでの魔物と比較しても断トツの魔力量だ。
蒼光銀亜人形を観察しながら斜面を下りて行くと、亜人形の背後に銀色の蜥蜴が舞った。
「待ってたよ」
「あぁ? また出たな、蜥蜴」
「ちゃんと僕の言ったことをやってるようだね」
「はぁ? 何のことだ?」
「ちゃんと魔力を使ってるみたいじゃないか」
「そうしないと、ここの魔物斬れないだろ」
「そう。それでも、それを続けるのは大変なんだよ。
順調で何よりさ」
「じゃ、そこで大人しく見とけ、今からオレが亜人形倒すから」
「おぉー。大きく出たね。
それじゃ口出さないようにするから、頑張ってね」
銀色の蜥蜴はクルクル回ると反対側の斜面の方に移動した。
……観戦って訳だ。
それじゃ行くか。
「ミネラ、槍! 特大のヤツだ!」
先手必勝。
銀の黄金虫に三メートルを超える大型の槍を作らせて両手で構えると、石突きに手を掛け思いっきり投擲した。
特大の槍が空気を斬り裂いて蒼光銀亜人形の頭で炸裂する。
槍が亜人形の頭に当たると、槍が潰れ飛び散ったのだ。
あれ?
蒼光銀亜人形には何の変化も無い。
五十キログラムもの鉄槍が頭に直撃したのにグラつきすらしない。
クソッ!
蒼光銀の長剣を抜刀して駆け寄ると、まずは邪魔な腕を斬り落とすために、サイドステップを入れた。
「ミネラ、足!」
亜人形が体を捻るタイミングで銀の黄金虫が足首を鉄で固定した。
亜人形は体を捻りきれず、中途半端な角度で止まると、オレは目の前にある亜人形の左腕を斬り落とすために長剣を振り下ろした。
ガキィーーーーン!
硬ってぇ!
魔力を纏わせた蒼光銀の長剣が通らない。
蟷螂のときは鎌の部分だけだったが、この亜人形は全身の蒼光銀がそのまま完全な防御ってことだ。
剣が止まり、動きを止めたオレに向けて亜人形が反対の腕を振り抜くとき、咄嗟に銀の黄金虫が鉄の壁を作ったけど、その壁と一緒に吹き飛ばされた。
ぐはっ!
またこのパターンだ。
剣が止められ殴られる。
階層主は硬すぎる。
材質が同じで魔力も同じだと、斬れないってことか。
もう一段上げるしかない。
土を払って立ち上がると、正眼に構えて両手でしっかりと長剣を握る。
ゆっくりとしか動かない亜人形に対してジリジリと距離を詰め、纏う魔力を増やしながら自分の間合いに近づけて行く。
纏わせた魔力が散りそうになるのを抑えつけながら近づく。
セイッ!
大きく振りかぶってから、コンパクトに振り下ろした長剣。
ゴッ!
亜人形の胴にほんの少しめり込んで止まった。
ダメか。
亜人形のパンチを避けてバックステップでまた距離を取った。
もう一度深呼吸して、再度限界まで魔力を纏わせた長剣で斬る。斬る。斬る。
そして下がった。
亜人形の太腿の同じ場所に立て続けに打ち込んだ三連撃。
足を落としたかったが、できなかった。胴と同じような傷が太腿にできただけだ。
このまま少しずつ削る手もあるけど、もう少し考え方を変える必要がある。
蒼光銀亜人形の材質は蒼光銀、オレの使う長剣と同じ。
次、魔力はどこから出している?
オレは身体の中なから絞り出している。亜人形は?
亜人形の体の魔力の流れに注意すると、薄っすらと全体を覆う魔力が感じられた。
魔力の弱いところは?
蒼光銀の特性か、均一な魔力が感じられる。
では、魔力の流れを意図的に阻害するか?
……どうやって?
それよりも亜人形の動きを封じれば、一方的に殴れるか?
……どうやって?
弱点は無いか?
魔鉄亜人形は頭を潰せば倒せた。
あのときは別の魔鉄亜人形を踏み台にしたんだったか?
さて、反撃と行こうか。




