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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第五章 黒霧山
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第百八十七話

 

 ハクは行ってしまった。


 空を飛ぶ火竜(ファイアドラゴン)を見つけると後を尾行(つけ)ると言って、飛んで行った。

 止める間も無く一瞬の決断だった。


「行っちゃったな」


 ネグロスがハクの飛んで行った空を見ながら呟く。

 私もどんどんと小さくなるハクの姿を眺めて答える。


「あぁ」


「三日とか言ってたな」


「あぁ」


「どうする?」


「……放っとけないだろ」


「そうだよな。

 じゃ、俺たちも行くか?」


「行くしか無いだろう」


「アレはどうする?」


 ネグロスが振り返り、白銀の魔動馬車(マジックキャリッジ)を指差す。

 外観は四頭立ての馬車だから、かなり大きい。

 今晩はあの魔動馬車(マジックキャリッジ)で休む予定だったのに。


「……アレは、……どうしようもないな」


「ま、俺たちじゃ運べないし。

 乗って移動しようにも、森の中は無理だな」


「……仕方ない。置いて行こう」


「了解。

 火竜(ファイアドラゴン)は北の空を東に飛んで行ったんだよな?」


「そう言ってた。私たちも北東に向かって移動しよう。

 問題は森の中で迷わないにはどうするか? だな」


「森の中か……」


「あぁ、バレットは森の中はどうだ?」


「正直、シルバーほど得意じゃない。

 夜の森だと保証できない」


「私もだ。

 迷いの森(ロストフォレスト)って言われるくらいだし、少しは対策しとかないとすぐに帰って来れなくなる」


「何かいい考えは?」


「そうは言ってもな。

 シルバーなら何か考えそうだが……。

 例えば巨大な鉄柱を建てて目印にするとか」


「やりそうだな。

 あり得ない無茶をやってしまうからな。アイツは……」


「あり得ない無茶か……」


「何か閃いたのか?」


「ひょっとしたら、上手くいくかも知れない」


「本当かよ?」


「まぁ、試しにやってみる」




 訝しげなネグロスを置いてクレーターを出ると、樹々の中で活性水アクティベイトウォーターを作る。

 肩幅大の大きな緑色の水球を作ると、比較的大きな木の根本に近づく。


 この木ぐらいの大きさならいけるか?


 木の根本に活性水アクティベイトウォーターをゆっくりと押し当てて木を活性化させると、普通の大木が更に大きく育っていく。


 活性水アクティベイトウォーターを押し当てて成長させると、直径一メートル程だった幹周りが徐々に太くなって三倍ぐらいの太さになった。


 木の高さも比較にならないぐらい伸びたはずだ。

 この辺りの木の中では断トツで大きな木になったと思う。


「この巨木を目印にするのか?」


「あぁ、これならかなり目立つと思うんだが……」


「はぁ、ユンヴィアまであり得ないことを実現するなんて……」


「これぐらいならシルバーの真似ができるよ」


「普通はできないっつうの」


「それは褒め言葉だよな?」


「もちろんだ。

 道標(みちしるべ)ができたなら、行くか?」


「あぁ、シルバーを追いかける」


「俺が先導するからちゃんとついて来いよ」


「これでもかなり速くなったんだ。

 おいて行かれないようにするさ」


「俺が雑魚を片付けておくよ」


「そうだな。そっちは任せる。

 私は頃合いを見て、順番に次の目印を育てるようにする」


 目印を確保したことで余裕ができた私たちは軽口を叩きながら二人で夜の森の中を走り出した。




 食事と休憩が終わった後で良かった。

 全く疲れを感じずに走れる。


 道標(みちしるべ)を作ったことで、明るければ元の場所に帰れる。それは大きな安心だった。

 しかし、夜の森を真っ直ぐに北東に進める訳じゃ無かった。


 少し進んではネグロスが木に登り、星と周囲を確認してから進む。

 私も頻繁に活性水アクティベイトウォーターで大木を育てながら森の奥に進んで行く。


 私たちが休憩しようとした場所、それからクレーターがあった場所。あの辺りが丁度森の入口だったようだ。


 少し走ると一気に木が増えた。

 森が濃くなった。

 視界が木で遮られるようになった。


「シルバーみたいに飛べると楽なんだけどな」


 ネグロスが愚痴りながら木に登る。

 急に木が増えたので、確認しながらじゃないとすぐに方向が分からなくなる。

 頭上を仰いでも木の葉に遮られるので、木に登らないと星が見えない。


 この森をどれぐらい進むとシルバーと合流できるのか?

 森に入ってさほど経っていないのに、若干不安になって来る。


 カサッ。


 樹々の間で音がして奥の方を見ると兎が樹々の間を駆け抜けて行く。

 明るい茶色の兎だったので栗兎(マロンラビット)だろう。


「ユンヴィア、変だ」


 私が栗兎(マロンラビット)の走った先を見ているとネグロスが低い声で言う。


「どうした?」


「兎が何かを警戒してる」


「兎が?」


「そうだ。アレは何かを警戒してる。

 近くに何かいるぞ」


 ネグロスの言葉を聞いて、自然と二人で背中合わせになり周囲を警戒する。

 何かの正体が分からないので、私たちも四方をキョロキョロと探りながら兎の走った方へ向かう。


魔物(モンスター)か?」


「分からん。肉食の獣かも知れないし」


 ゆっくりと進むと右手の地面が動いたように見えた。


「右手の奥。何か小さな獣がいる」


「右手?」


「あぁ、一際太い木の向こうだ」


「ん? マズい逃げるぞ」


「って、どうしたんだ?」


 急に走り出したネグロスを追って、兎の逃げた方へ全力で走る。

 ネグロスは既に五メートルほど先行してる。


軍隊栗鼠(アーミースクィール)だ」


軍隊栗鼠(アーミースクィール)?」


「そうだ。

 森の掃除屋とも呼ばれる」


「森の掃除屋?」


 ネグロスは話しながらも、走るスピードは落とさない。

 暗闇の中を樹々を擦り抜けて行く。


「見た目は普通の栗鼠だけど、何でも齧る。

 肉食で集団で襲ってくるから襲われると骨も残らない」


「は?

 何でそんな物騒な魔物(モンスター)が?」


「知らんわっ。

 とにかく逃げるぞ」


「待ってくれ。

 こんなところでバラけたら洒落にならん」


「転ぶなよっ」


「そっちこそ」


 二人で闇の森を音から逃げるようにして走る。

 慌てて走り出したけど、北に向かっているはずだ。

 軍隊栗鼠(アーミースクィール)との距離が確保できたら方向を確認しないと迷子になってしまう。


 更に森の中を走ると、雰囲気が変わった。


「何か変な感じだな……」


 ネグロスが走るのを止めて歩きながらキョロキョロする。

 ……確かに周りの木の種類が変わった。


 違うな。

 木に蔦が絡んでいる。

 その蔦があちこちにたくさん生えている。


「蔦に棘がたくさん生えてるな」


 木に歩み寄って調べると、蔦にはたくさん棘が生えている。


「……食人棘蔦(バイティンアイヴィ)だ。

 厄介なところに来ちまった」


 ネグロスが私を手で制して、これ以上木に近づくのを止める。


「これが食人棘蔦(バイティンアイヴィ)?」


「ちょっとサイズがおかしいけどな。

 通常の三倍ぐらい太くなってる」


「棘に触るとマズいんだったか?」


「そうだな。触ると蔦が縮んで勝手に絡まってくる。

 細い食人棘蔦(バイティンアイヴィ)で遊んだことがあるけど、こんなところで絡まれて転んだ隙に魔物(モンスター)に襲われたらどうしようもない。

 できるだけ木から離れて先に進もう」


「……できるだけ、ね。

 斬るとどうなる」


「止めといた方がいい。

 斬った反動で蔦が変則的な動きをするかも知れない」


 十字戟(クロスデント)食人棘蔦(バイティンアイヴィ)を斬りながら進む案は却下された。


 私は食人棘蔦(バイティンアイヴィ)を聞いてはいたが、見るのは初めてだ。ネグロスが食人棘蔦(バイティンアイヴィ)を知っていて助かった。


 食人棘蔦(バイティンアイヴィ)は木に絡まっているだけじゃなく、地面を這うようにして伸びているので触れないように注意して進む。


 幸い、このエリアには獣がいない。


 獣も食人棘蔦(バイティンアイヴィ)を避けて行動するのだろう。


 そのとき、私の前を歩くネグロスに向かって近づく大きな百足(ムカデ)が見えた。

 大きな百足(ムカデ)が地面をカサカサとネグロスに向かって走ってく。


「バレット、足元」


「くっ」


 振り向いたネグロスが百足(ムカデ)に気づき、双牙刀(ツインデント)で刺して動きを止める。


「助かった。

 金冠百足(クラウンセントピード)だ」


 ネグロスが刺した百足(ムカデ)は頭に金色の星模様がある。

 名前の由来になった金冠(クラウン)だ。


金冠百足(クラウンセントピード)は毒持ちだったな」


「獣がいないと思って油断した。

 気を抜かずに行く」




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