第百八十話
黒瑪瑙のメンバーが凄いのか?
魔法鞄が凄いのか?
竜の洞窟から帰って来てギルドで魔物の素材を買い取ってもらうと、金貨千八百枚を超える稼ぎになった。
四パーティで割ると四百枚ちょっとだけど、ほとんど黒瑪瑙のメンバーで倒したものだし、レドリオンに来る途中で狩ったとか言って巨大蟷螂も買取りに含めてた。
それで縞馬外套や原生樫の枝なんかは買取りをお願いしていない。
知らないうちに沢山の原生樫の枝を拾ってたみたいだけど、色々試したいと言って売らなかった。シルバーが自分で加工するつもりのようだ。
知らなかったと言えば、ユンヴィアが幻影腕貫を手に入れてたのも知らなかった。
偶然、見つけたと言っていたけどなかなか出るものじゃ無い。
倒してる量が多いので確率も上がるのだろうが、運もいい。
「今日はありがとうございました。
色々と竜の洞窟のことを教えてもらい助かりました。
魔物だけじゃなくて神授工芸品も初見だと良く分からないので、参考になりました」
シルバーはそう言って稼ぎを四等分した。
普通は重野牛を倒しても重いので一頭丸々持ち帰ることはできない。
後脚を切り取って持ち帰るのが主流で、その場合は一頭あたり金貨二十枚程度だ。
一日往復して苦労して持ち帰って金貨二十枚。
今回は重野牛や闘水牛が二十頭ほど全身丸々あったので、一頭あたり金貨五十枚としてそれだけで金貨千枚になる。
黒瑪瑙と俺たちの稼ぎの違いを実感して驚きや切なさを超えて別世界と思わざるを得ない。
そう言えば冥界の塔の新人狩り事件のときも魔水薬を大盤振る舞いしてた。
冒険者ギルドで買取りしてもらった後全員で碧落の微風のメンバーがたまに来るという『肉肉亭』へ行った。
俺たちは初めてだったけど、咱夫藍も知ってたし黒瑪瑙もつい先日来たらしい。
……結構お洒落なお店で俺たちだけだと入らないようなお店だ。
若干緊張しつつついて行くと、大きな個室に通された。
ここは他のパーティメンバーも初めてだったみたいで、かなりのはしゃぎ振りになる。
散々色んな肉料理を食べて場が一段落したとき、レンヤが俺に話しかけてきた。
「なぁ、俺たちも魔法鞄を手に入れたいな」
「あぁ、俺たちにはまだまだできることがある」
黒瑪瑙の戦い方は新鮮だった。
まず標的を見つけるのが早い。
そして初動が速い。
シルバーとバレットが速攻型の剣士と言うのもあるだろうけど、初撃で必ずダメージを入れている。て言うかほぼ確実に倒してる。
討ち漏らしてもユンヴィアがフォローしている。
バレットが中央突破してるのが目立つけど、その後魔物に囲まれないようにフォローし合ってるので、バレットが攻撃を受けることが無いのだ。
昇竜の戦い方は狙った獲物を狩る方法なので、黒瑪瑙とは戦い方が違う。
昔は出会った魔物を順番に倒して進んでいたが、竜の洞窟でそんなことをしていたらキリが無い。
いつしか、狙った獲物までは体力を温存し無駄な戦いはしなくなった。
いかにして効率よく稼ぐかとどうやって強い魔物を倒すかを実践して来たがそれはBランクの戦い方だった。
上に行くパーティは全てを薙ぎ倒して行くのだと感じた。
単純に憧れかも知れない。
でも、強者の戦い方だと思った。
これは前回の冥界の塔では、分からなかった。
一人だったシルバーが三人組の黒瑪瑙になることで現実味が出たようだ。
Aランクパーティの戦いを見たことはないけど、きっと彼らのように魔物を一方的に倒すのだろう。
それだからこそのAランクなのだ。
黒瑪瑙のバレットとユンヴィアはライセンス取り立ての銅だけど、すぐに銀になり金になるだろう。
そう確信した。
たった半日。
彼らの戦い方を見ただけだけど、それはもうBランクではなかった。
他のパーティと別れて肉肉亭から常宿に帰る途中、黒瑪瑙の戦い方を振り返りつい熱く語ってしまうハヤテだった。
翌朝、いつも通り冒険者ギルドに行くとジェシーが声をかけてくる。
「ハヤテ、昨日はかなり稼いだらしいな。
ギルドマスターが噂してたぜ」
ジェシーはギルドの試験官を兼ねるBランクの冒険者だ。
レドリオンには珍しいドーベルマン種の黒い引き締まった身体は自然と冒険者たちを威圧する。
「えぇ、一時的にシルバーと一緒に行動することになって、稼がせてもらいました」
「シルバーと?」
「えぇ、竜の洞窟の二十階層で出会ったんです」
「二十階層?
三人になったからって早過ぎるだろ」
ジェシーが揶揄うように笑ったので、ハヤテがつい一言言ってしまう。
「三人組ですけど、二人で潜ってました。
バレットとユンヴィアって知ってますか? その二人だけで二十階層に来ましたよ」
「はぁ? どう言うことだ?」
「バレットとユンヴィアの二人だけで腕試しをして、シルバーは後から碧落の微風と咱夫藍のメンバーと一緒にやって来ました」
「あの二人だけで二十階層に着いたのか?」
「はい。幻影大蛇も倒して上がって来たみたいでした」
「二人の武器はどうだった?」
ジェシーがレドリオンの冒険者ギルドで二人のライセンス取得試験をしたことを知らないハヤテは一瞬戸惑ったけど、見たままを伝える。
「……見たことの無い武器でした」
「三人の戦い方は?」
「バレットは速攻型の剣士。ユンヴィアは水魔法を使う槍士。ですね。
シルバーを入れると三人とも前衛職ですけど魔法も使ってました」
「アイツらそんなにできたのか?」
「バレットはおそらく風魔法。ユンヴィアが水魔法。シルバーは金魔法か土魔法です」
「金か土?」
「はい。原生樫の杖を使って突鉄槍を使ってました」
「突鉄槍?
どう言うことだ?」
ジェシーが訝しげに首を捻る。
今の会話に変なところがあったみたいだ。
「何か変ですか?」
「あぁ、ちょっとな」
急にジェシーが下を向いて真剣に考え込んだけど、どこに不審な点があったのか分からないハヤテが途方に暮れていると、ジェシーが顔を上げる。
「ハヤテ、今日の昇竜の予定は?」
「まだ特に考えて無いですけど……」
「シルバーたちはどこへ行くと思う?」
「恐らく黒霧山じゃないかと思います。
冥界の塔と竜の洞窟に行ったし、次は黒霧山か。
みたいなことを言っていたので……」
「そうか。
それなら、ちょっと付き合ってくれないか?」
「黒霧山ですか?」
「あぁ、ちょっと確認しておきたいことがある」
そう言ってハヤテはジェシーに連れられて冒険者ギルドを出た。




