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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第一章 スタンピード
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第十八話

 


 翌日、レオパード伯爵領軍の迷宮探索五日目。

 昨日、これまでの探索について情報共有が終わるとメイクーン邸で夕食を取り解散した。


 朝になりハクの捜索隊として集合したが、テンペスは未だ疑心暗鬼であり、一方のレゾンドたちはお手並み拝見といった態度だった。


「今日はどうされますか?

 私たちと一緒に迷宮に入り、昨日の情報共有の続きとするか、それとも別動隊として個別に探索を進めるか?」


 レゾンドとしてはどちらでも構わない。

 戦力として期待できるなら同行して欲しいが、戦力にならないのであれば護衛対象が増えてしまう。


 テンペスの実力、考え方が分からないので、同行してもらうことの是非を判断しかねた。


「昨日は熱くなってすまなかった。

 まずは一緒に入って状況を確認させて欲しい」


 テンペスが妥協してきたので、レゾンドとしても断る理由はなく一緒に迷宮に入ることになった。


「私たちの隊が先行します。

 テンペス殿の隊は迷宮の様子を確認して頂き、戦闘可能と思われたら参戦をお願いします」


 今日は第一隊から第三隊、それにテンペスの部隊がメィリーを含めて六人加わり、四隊で迷宮に潜る。


 先頭がレゾンドの第一隊、次にテンペスの隊が続き第二隊、第三隊と連なった。

 第一隊のレゾンドとシルヴィアが魔法で粘性捕食体(スライム)を倒しながら進む。

 テンペスは粘性捕食体(スライム)を見て顔を顰めたが、レゾンドの魔法を見て表情を変えた。

 シルヴィアも魔法を連発するのを見て驚きを隠せないようだ。


「レゾンド殿もシルヴィア嬢も、その、かなり魔法が使えるのだな」


「そう言って頂けると励みになります」


 シルヴィアが受け、レゾンドは苦笑した。




 一階層、二階層を抜け、三階層に入る。

 早々に魔泥亜人形(マッドゴーレム)に遭遇すると、ダグラスがテンペスを見て、足を止めた。

 テンペスが首を振ってダグラスに促すと、ダグラスが蒼光銀(ミスリル)の長剣を抜く。


 まずはお手本を。


 ダグラスが素早く魔泥亜人形(マッドゴーレム)に近づくと、立て続けに突きを放ち、魔泥亜人形(マッドゴーレム)を倒す。


 その流れを見てテンペスが一瞬、息を止めた。


「見事な腕前だ」


 テンペスの声を聞いてダグラスが軽く礼を返す。

 テンペスの言葉には昨日の発言を取り消す意味があり、ダグラスはそれを冷静に受け取った。




 次はテンペスの番だ。

 次の小部屋に入ると魔泥亜人形(マッドゴーレム)が二匹中にいる。


 右の一匹をテンペスに任せ、左の一匹にダグラスが迫りハインツはレゾンドたちの前で構えをとった。


 フォーメーションを確認してテンペスが長剣を振りかぶると一気に駆け込んで魔泥亜人形(マッドゴーレム)を一刀両断にした。


 いや、しようとした……。


 しかし長剣は魔泥亜人形(マッドゴーレム)の頭にその刀身を半分ほど埋めたところで止まっている。


「くっ!」


 テンペスが長剣を押し込むが、それ以上刀身は入らない。


 テンペスは魔泥亜人形(マッドゴーレム)の頭から長剣を抜くと数歩下がり距離を取った。


 一方、ダグラスは踏込みこそはテンペスに遅れを取ったものの、頭上からの連撃を叩き込んで何とか魔泥亜人形(マッドゴーレム)の体をバラバラにしている。


 武器の性能の差だが、それを認めたくないテンペスが再度、強引に斬り込む。

 袈裟斬りして魔泥亜人形(マッドゴーレム)に剣を叩きつけると、泥に埋まった剣を引き抜いて突きを繰り返す。

 後ろに下がらずに打ち込んだ十数度の突きが魔泥亜人形(マッドゴーレム)の体を削り続けて魔泥亜人形(マッドゴーレム)の体が崩したとき、テンペスの肩は荒れた呼吸で大きく上下していた。


「倒したぞ」


 テンペスが呟いたけど、彼ほどの腕でも魔泥亜人形(マッドゴーレム)の丈夫さは覆せなかった。


 レゾンドの胸にはクーガー家のテンペスでも魔泥亜人形(マッドゴーレム)を簡単には倒せないと言う事実が重くのしかかった。


「ハインツ、蒼光銀(ミスリル)の短槍を返してくれるか?

 テンペス殿が使うべきだ」


「あぁ? オレは魔泥亜人形(マッドゴーレム)を倒したぞ!」


「確かに倒しましたが、何度も繰り返し戦うのは難しいでしょう。

 それに、蒼光銀(ミスリル)の短槍を試してみるのも大事だと思います」


「オレは負けてない」


「テンペス殿は強い。だからこそ蒼光銀(ミスリル)の短槍を使うべきです。

 この迷宮では武器を良い状態で維持しなければ勝てません。今の戦いでテンペス殿の長剣にも傷が残ったはずです。

 蒼光銀(ミスリル)の短槍を使ってみて下さい」


 レゾンドが強引に短槍を預けると、テンペスは渋々と短槍を受け取った。

 テンペスの顔を立てるためにも、ハインツに無理をさせないためにも必要な判断だ。


 テンペスの考えが分からない状態でサラティたちの護衛を任せる訳にもいかないので、テンペスを前衛で戦いに専念させ、偵察能力のあるハインツの負担を少しでも軽くするには、テンペスに蒼光銀(ミスリル)の短槍を持たせるのが確実だった。


 しかし粘性捕食体(スライム)を倒せる魔術師は五人いたが、魔泥亜人形(マッドゴーレム)を倒せるのはダグラスとテンペスだけ。

 短槍を手放したハインツには難しい。


 ……今いる四隊での探索はできない。


「テンペス殿、貴軍には魔術師はいますか?」


「……どうした? レゾンド殿」


「現状では四隊での探索は困難です。

 蒼光銀(ミスリル)の武器が二つしかないので、一隊か二隊での探索が限界でしょう。

 そこで、隊の編成を見直そうかと思いまして」


「何だ、そう言うことか。

 オレらの隊には二人いる。それで、どうする?」


 テンペスがニヤリとして後ろに続く兵士を見た。

 その様子を見てレゾンドがサラティに向き直ると言った。


「それでは、二隊に分けましょうか?

 サラティ嬢、提案です。

 私の手兵とテンペス殿の兵を二隊に分け、探索をこの二隊で進め、サラティ嬢にはシルヴィア嬢、メィリー嬢と共に一度迷宮を出て街へ戻って頂けないでしょうか?」


「分かりました。レゾンド様の判断に従いましょう。

 私には父に報告する務めもありますので、判断の根拠についてお伺いしたいのですが……」


「簡単に言うと、守れないのです。

 この先も魔泥亜人形(マッドゴーレム)がいるでしょう。ハインツが偵察をして状況確認するとしてもテンペス殿とダグラス殿の二人だけでは、四隊を守れません。

 そこで、ダグラス殿とテンペス殿を主体にして二隊に絞り三階層より先の調査と探索を行います。

 四階層の様子によっては再度編成を見直しますが、まずは二隊が先行してマッピングできていない三階層を調査し、四階層の様子を確認します」


 後ろで相変わらずテンペスがニヤニヤとしてる。

 それを目の端に捉えながらサラティは恭しく頷いた。


「分かりました。私は残りの方と地上に戻ります。

 編成はレゾンド様とテンペス様で決めて下さい。

 編成が決まり次第、一度戻ります」


「はい」


 レゾンドはサラティと別れるとテンペスに声をかけ、編成を決める。

 レオパード伯爵領軍から選抜したレゾンドの隊とクーガー伯爵領軍からの選抜隊に分けると残りの兵士にはサラティ嬢と共に一旦、地上に戻るように指示をする。


 メィリーはメイクーン子爵家にて待機することを決めると、直ちに行動を開始する。


 レオパード伯爵領軍の迷宮探索は五日目にして、方針を変えた。




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