第百七十七話
「その武器、どこで手に入れた?」
昇竜のレンヤが目を細めて聞いてくる。
「武器?」
「あぁ、その十字槍、神授工芸品
だろ?」
いや、なんて答えるべきだ?
さっき木の槍を貸してもらって魔力を流した。
自分の槍を振ってみろと言われて魔力を流した。
ただ、それだけだ。
「まぁ、知られたくないなら、これからは気をつけろよ」
レンヤはアッサリと引いてくれた。
「すみません。ちょっと言えないんです」
頭を下げて詫びる。
「普通の武器じゃ魔力はあんなに通らない。
通ってもすぐに散ってしまう。
だから俺たちは原生樫の槍を使ってる」
「原生樫の槍……」
「お前の使ってる十字槍は、特別な武器だ。
下手すると襲われるぞ。
気をつけな」
「……はい」
ハクの作った十字戟がそんなに凄いものだとは思わなかった。
……凄い武器だとは思ってた。でも、上位ランクの冒険者から直接注意されるほどとは思って無かった。
反省してると三毛猫のハヤテが間に入ってきた。
「ユンヴィアにバレット、良かったら俺たちのパーティと一緒に行動しないか?
レドリオンに来たばっかりなんだろ。
街のことや竜の洞窟のこと。
ギルドのことだって教えてやれる。
……どうだ?」
「いや、しかし……」
「お前たちは少し経験が積めて、俺たちは少し深くまで潜れる。
いいと思うんだが?」
ハヤテは冷やかしで言ってる訳じゃ無さそうだ。
真剣に私の目を見てくるし、ネグロスの目も確認してる。
「すみません。
今は二人ですけど、実は三人パーティなんです。
色々と教えてもらいたいんですけど、今日も別のパーティと合同でこの迷宮に入ったんで、その、……難しいと思います」
支離滅裂な部分もあるかも知れないけど、断った。
私たち二人を認めてくれて、心配してくれて言ってくれた言葉に対して失礼だと分かっているけど、断った。
「はは、そうか。
知り合いがいるなら良かった。
二人だけの子供のパーティかと思ったら違ってた訳だ」
「すみません。
でも、嬉しかったです。実力を認めてくれたっていうか」
「まぁ、連れのメンバーにも声かけてくれ。
一緒に探索すれば、もっと深いところのお宝を手に入れられる」
「皆さんは何階層まで行ったことがあるんですか?」
「俺たちは二十四階層だ。
そのうち二十五階層に挑戦したいと考えてる」
言ったハヤテはレンヤたちと頷き合ってる。
昇竜の今の目標は二十五階層の盾革蜥蜴らしい。
「その原生樫の槍はどこで手に入れたんですか?」
ネグロスが話を戻して木の槍をことを聞く。
「そんないい武器使ってて、今更原生樫のことを聞いてどうするんだ?」
「以前原生樫の杖を触ったことはあるんですけど、槍を見たのは初めてで……」
「そんなことも知らずにここに来たのか?
ここ竜の洞窟の十五階層から上になると、たまに永精木の木の枝や武器が出てくるんだよ。
原生樫や深淵黒檀を拾って、武器屋で加工してもらうと槍になる」
「知りませんでした。
途中にあったのかな?」
ネグロスが私の方を見るけど、私も気づかなかった。
草原の中であちこちに灌木が落ちてたけど永精木だとは思わなかった。
「私も気づかなかった……」
「真剣に探すと見つけられるんだよ。
長くて真っ直ぐな素材を探すのはかなり大変だけど、見つけたらいい武器になる」
「帰りに探してみるか……」
「そうだな」
「バレットはどんな武器を使ってるんだ?」
ハヤテが探るようにして聞く。
ネグロスが一瞬、悩む素振りを見せたけど、双牙刀を抜いて軽く振って見せると、淡い光の筋が煌めいた。
「……お前もいい武器使ってるな。
一体何なんだよ」
「やっぱりいい武器ですか?」
「あぁ、俺が使ってる鉄鱗剣よりもいい剣じゃねぇか」
「ハヤテさんの剣も見せてください」
「あぁ、俺のはこれだ」
ハヤテが見せたのはロングソードで中央に特徴的な赤い鱗状の棘が埋まっている。
「珍しいだろ。竜の尾にある尾棘って言うらしい。
高かったんだぜ」
「これは確かに高そうですね」
ネグロスがうっとりするような目で見てると、ハヤテが縦に一閃させる。
剣が赤く発光した。
「あっ!」
「珍しいだろ。中に仕込んである尾棘が赤く光るんだ」
ネグロスとハヤテが剣士同士で話を始めると、レンヤが私に話かけて来た。
「お前らそんなにいい武器持って、何しにここに来たんだ?」
何しに?
どこまで話していいかな。
「腕試しです。
まだ経験が少ないので双子迷宮で腕を磨こうと思って」
「ま、確かに腕の割にはまだまだ経験が少なそうだな」
「そうなんです。
ライセンスも取ったばかりで、色んな規則や常道を知らないので……」
「ははっ、ライセンスも取ったばっかりかよ。
最近の子供は凄いねぇ」
「そんな訳で色々と鍛えたいんです」
「ふ〜ん。
いつライセンスの取ったんだ?」
「一昨日です。です」
「一昨日?
それでもう二十階層か?
ランセンスもEかFだろ?
「いえ、C、銅です」
「マジかよ?
いきなり銅なんて初めて聞くぜ」
レンヤが大袈裟に両手を上げて驚くフリをする。
リンジとソウタが左右から呆れた顔で見てるので、いつもこんなノリみたいだ。
「黒霧山のことは聞いたか?」
「北部の黒霧山ですか?」
「その感じだと少しは聞いたみたいだな」
「えぇ、少しですが、この迷宮を出たら様子を見に行くつもりです」
「そうだよな。
子供とは言え、いきなり銅になるようなヤツに声をかけない訳が無いな」
「何かあるんですか?」
「いや、気をつけろってだけだ。
黒霧山ってのは別名迷いの森。
森の奥には帰らずの谷があって足を踏み入れると帰ってこれないって場所だからな」
「本当ですか?」
「噂だけなら本当だ。
レドリオンの冒険者でも深くには入らない森だから奥は分からない。
余程珍しい素材を取りに入るヤツしかいない森だよ」
「開拓しようとしてできなかったと聞きました」
「それは昔の話だな。
森の中には竜や飛竜がいて領軍じゃ歯が立たなかったって話だ」
「火竜が出たって話は?」
ネグロスが戻ってきて話に割り込んでくる。
ハヤテさんも腕を組んで聞いてるし、冒険者の中では一番の話題のようだ。
「俺たちも先週様子を見に行ったが、何も見つけられなかった。
噂かも知れないし、本当に現れたのかも知れない」
「「えっ、行ったんですか?」」
「あぁ、だが黒霧山も広い。
そんなに奥に入るのも危険だし、南の方を軽く様子見程度だよ」
「俺たちが行ったときは赤岩犀がいたから、それを狩って帰って来た」
「「赤岩犀!」」
「お前ら、本当に経験浅いな……。
外皮が硬くて倒しにくいのに、重いし、肉も硬いし。
角しか持って帰れなかった」
「他にはどんな魔物が出るんですか?」
「他には縞赤猪とか血狼がいるし気を抜けない」
「縞赤猪」
「血狼」
「お前ら落ち着け。
俺たちも装備を整えなきゃヤバいから、こうして階層主狙ってんだから。
焦るな」
「「はい」」
現地に行ったことの無い私たちは黒霧山の怖さを知らなかった。




