第百七十二話
竜の洞窟の三階層。
「バレットとユンヴィアは連携というより、二人で討伐数を競ってる感じだったね」
僕が声をかけると二人は泣きそうな顔をして、僕に縋り付いて来た。
「こんなはずじゃなかったんだ……」
「カバーするつもりだったんだが、どれぐらいの距離で何をフォローすれば良いか分からなくて……」
どうやら連携してるつもりだったらしい。
まぁ、巨大蛙が弱くて連携しようが無かったんだけど、コンビネーションを考えるのは良いことだと思うからこのまま少し考えてもらおう。
次は僕の番だけど、普通に攻略すると二階層のネグロスたちと同じことになるので少し実験することにした。
「それじゃ次は僕の番だね。
危ないから、少し離れてついて来て」
「危ないってなんだ?」
「ちょっと魔法の実験するから」
「私たちは何か手伝わなくていいの?」
「あ、大丈夫です。簡単な練習だから」
そう言って前に出て行く。
剣は抜かない。
二種類の合金剣を腰に下げたまま、無造作に歩き出す。
二階層よりも少し広くなった通路を歩きながら、魔法で鉄の短剣を目の前に作り出す。
飛天十字戟や飛天双牙刀の要領で、空中に短剣を作り出すけど、飛ばさずにそれを手に握る。
うん。
いい出来の短剣だ。
手に持って出来を確認しながら歩き巨大蛙を見つけると、即座に短剣を投げる。
短剣が眉間に刺さった巨大蛙はそのまま口から上が爆散した。
懐かしい。
冥界の塔に初めて潜ったとき、剣で斬るのが嫌で小石を投げつけて腐死体を倒した。
今回はちゃんと自分で武器を作りながら投げている。
最初の実験は成功。
空中に短剣を作り出して、それを投げつけることができた。
魔物が水の上や泥の中にいても攻撃できる。
……銀の短弓で光の矢を放つ方法もあるけど、神授工芸品を使わなくてもできる。
次は第二段階。
「飛天短剣」
空中に短剣を作り出して新しく見つけた巨大蛙に向けて飛ばす。
短剣が頭に刺さった巨大蛙がそのまま倒れ込んで動かなくなった。
……自分で投げたときより威力が低い。
ただの短剣だからか?
自分で投げた方が威力があるけど、手で投げるには素手の状態でないと使えない。
次は第三段階。
合金剣を二本とも抜いて両手で構える。
更に魔力を流して二本の剣を白熱させて強化する。
この状態をキープしたまま、また新しく見つけた巨大蛙に向けて飛天短剣。
短剣が巨大蛙に刺さって、巨大蛙がひっくり返るとそのまま動かなくなった。
これも成功。
雑魚ならこれで倒せそうだ。
慣れればもう少しスピードも出るだろうし、短剣を強化することもできる。
飛天十字戟や飛天双牙刀を使えばもっと威力も出せる。
……でも十字戟や双牙刀は投げっぱなしにして、誰かが拾った場合に困るから使いたくないだけだ。
まだいけるか?
今度は二刀流を構えた状態で二匹の巨大蛙を狙う。
「飛天二刀流」
ちょうど見つけた二匹の巨大蛙に向けて短剣を二本飛ばしたけど、一本は外れてしまった。
銀の短弓ほど簡単じゃない。
それでも一匹は倒したので、倒し損ねた一匹に向かって再度飛天二刀流。
二本の短剣は巨大蛙の頭と腹に刺さり難なく息の根を止めた。
これは少し課題が残った。
雑魚の数が多い場合は銀の短弓の方がいい。
あれなら命中率も高いし、連射も簡単だ。
……連射か、これも試しとくか。
「飛天短剣」
「飛天短剣」
「飛天短剣」
しばらく歩いて見つけた巨大蛙に対して三連射すると、少し間が開いて短剣が飛んでいった。
よく分からないけど、連射能力は低いようだ。
巨大蛙に三本の短剣が刺さったけれど、これも課題が残った。
手投げの場合はどれくらいの連射ができるかな?
更に奥に進みながら巨大蛙を探す。
見つけた巨大蛙はそのまま放置して五匹の巨大蛙を狙える位置を探す。
皆んなは離れてついて来てくれてるから、何とか五匹の巨大蛙をキープして実験の準備を整えると、深呼吸してからトライする。
「短剣っ!」
一気に五本の短剣を空中に作ると、掴んで投げてを繰り返していく。
くそっ。
どうしても投げるモーションが必要なのでタイムラグが発生して連射能力が落ちる。
自分で思うほど素早く投げれない現実。
全然連射じゃない。
これだったら、魔法で連射した方がマシだ。
小型化して手首のスナップで投げれるようにでもしないと連射は難しい。
実験は失敗。
なかなか上手くいかないもんだ。
でもまぁ、実験は順調だった。
できることとできないことが分かれば次のステップに進める。
長所を伸ばすか、短所を対策するか。
そんなことを考えてると、下に降りる階段とその前にいる巨大蛙が目に入った。
最後は剣で仕留めるか。
銀糸のマントをはためかせて身体を浮かすと迷宮を飛び、一瞬で距離を詰めて両手の剣で殴るように斬り飛ばす。
ザザンッ!
左右からの袈裟斬りで斜めに斬り割いて倒すと、階段の前に着いた。
「到着。
実験に付き合ってくれてありがとう」
皆んなが追いつくのを待って声をかけるとボロンゴとネグロスが肩を竦ませる。
「相変わらず無茶苦茶だな」
「本当に何をどうしたらあんな戦い方ができるんだよ?」
「ボロンゴたちの戦い方を見てて、後衛というか遠距離攻撃の重要性を感じたんだよ。
だから、どうしたら遠距離攻撃ができるか考えて、実用性を順に試させてもらったんだ。
後ろから見ててどうだった?」
「どうって言われてもなぁ……?」
ネグロスが何か言おうと考えてるけど、言葉が出てこない。
「小さくていいから気を引いたりできるような小技とか、静かに倒せる吹き矢みたいな技があると良いかも」
「ミユの言う通り、私たちが今までに欲しいと思った武器の方が参考になるんじゃない?」
ミユが思いついたことを言うとマユが振り返って皆んなを見る。
「あぁ、それならあるな。
例えば回り込んで横から攻撃するような飛び道具とか……」
「一瞬、魔物の意識を逸らすような技でもいい」
ブーメランのようなものか?
視界外の横から攻撃できると応用しやすいかも。
「やっぱり見えない武器じゃない?」
「それは私も思った。
どうしても音で反応して見てかわされたり、矢を手で弾いてくる魔物がいるから。
黒羽根矢とか黒塗り矢は高いけど使い勝手がいいよね」
「迷宮の中だと黒いと見えにくいからね」
「いいアイデアだね。ありがとう」
見えない武器か……、作れたら凄いかも。
音も消して隠密武器なんてカッコいい。
「見えない武器か……」
ネグロスも同じところで反応してる。
魔力トレーニングのときに風魔法は見えなくて困ったけど、武器にできたらかなり使える。
「碧落の微風の皆さんは凄いですね。やはり経験に裏打ちされた見識は私たちに無いものです」
大分慣れてきたと思ってだけど、クロムウェルの硬い表現に皆んなが苦笑する。
「ユンヴィアさんって無口なのに、急に難しい言葉を話すから不思議ですね」
「そうかな?」
笑いながら言ったミユに対してクロムウェルだけがキョトンと理解できずにいると、僕たちもつられて笑った。




