第百七十一話
竜の洞窟の一階層。
所々に水溜りのある幅広の通路を歩いて行く。
先頭は碧落の微風のボロンゴとデクサント。二人の前衛が道を拓きマユとミユ、弓を構えた後衛二人がサポートするスタイルだ。
その後ろをネグロスとクロムウェルが続いて、最後尾が僕。
碧落の微風のメンバーに案内してもらいながら竜の洞窟の雰囲気を掴む。
「いたぞ。左の泥の中だ」
ボロンゴが手を挙げてみんなの足を止める。
ボロンゴが斥候役も兼ねているようだ。その代わりデクサントは重戦士寄りで後衛二人を守る役目をしてるのが分かる。
「見えたっ。少し大きめの巨大蛙」
「こっちも見えたよ」
デクサントがゆっくりと近づき巨大蛙を確認すると、双子の姉、マユも姿を見つけた。
「浅い位置だ。マユとミユの弓で先制して、俺とデクサントで仕留める」
「「分かった」」
マユとミユが返事をしてデクサントが頷くと、隊形を整え始める。
正面にマユとミユが並び、その少し左前にデクサント、回り込んだ右側にボロンゴ。
正面からマユとミユが弓を射て、その後はデクサントが二人をカバーして正面に入る。同時にボロンゴが横から攻撃を仕掛けるようだ。
隊形が整うとマユとミユが矢をつがえて弓を引く。
「せいっ」
ほぼ同時に二人が矢を放つ。
流石は双子だ。同じように構えて同じタイミングで矢を射ている。
マユの声と同時にプンッ、と言う弓の音が鳴り、デクサントとボロンゴが走り出す。
この辺は長くパーティを組んでるからできる連携だろう。
ギュシュア!
巨大蛙の左目と眉間に矢が当たり、仰反るようにして大きな腹を見せたところに二人が剣を突き刺す。
足場の泥を意識してか、突きが少し浅い。
二人はすぐに引いて、左右に別れると巨大蛙の両側から剣を振る。
腕と首、脇腹と脚。
少しずつだけど、確実にダメージを与えていく。
斬りつけ続けると巨大蛙が倒れて動かなくなった。
それを見てマユとミユが構えていた弓を下ろす。
足場の悪い水溜りには入らないようにして危なげなく巨大蛙を倒した。
パチパチパチパチ。
「水溜りに入らずに倒しきるとは思わなかった」
ネグロスが手を叩きながら最初に感想を伝える。
「うん。最初は浅いかと思ったけど、足場のことを考えると手数が増えても深入りしない方がいいんだね」
「あ、分かってくれたか?
竜の洞窟で先に進もうと思うと泥や水溜まりに入らずに戦った方がいいんだ。
滑ったりするし、服が濡れたり汚れると結構体力を消耗するからな」
「最初だけは正面からの弓だったけど、その後は皆んな正面を避けて攻撃を受けないようにしながら横から包囲してたし、上手い戦い方だった」
「シルバーにそう言われると照れるな」
僕が分析しながら近寄るとボロンゴが剣を仕舞って頭を掻く。
その様子を見ながら倒したばかりの巨大蛙を腰鞄に入れると、クロムウェルが息を吐く。
「本当にいい連携だった。
リスクを減らして確実に倒して、凄いな」
「ユンヴィアまで、……でも嬉しいぜ」
デクサントたちも笑みを抑えられない様子で、マユとミユは手を握ってはしゃいでる。
それからも碧落の微風が先導して迷宮を進む。
碧落の微風のメンバーは巨大蛙のいる位置によって微妙に戦い方を変えながら、上手く陸地に誘き出しながら倒していく。
僕以上にネグロスとクロムウェルが真剣に戦い方を観察している。
先日の水神宮での蛇鬼戦を再シミュレーションしているのか、その先へ進むことを考えているのか?
碧落の微風の戦い方はあのときの僕たちに無かったものを教えてくれる。
後衛のマユとミユの弓にはそこまでの威力が無いけどファーストアタックであったり、間を取り直すための追撃であったり、その後に続く前衛の攻撃の起点になっている。
それを導き出すためのポジショニング。
ボロンゴとデクサントの役割もネグロスとクロムウェルのやっていたことに同じように被る。
斥候兼務の軽戦士とディフェンス寄りの重騎士。
連携の取れた碧落の微風の戦い方は戦闘経験の浅い僕たちに取っていい見本だ。
役割分担とフォーメーションが自然とできてる。
何匹かの巨大蛙を倒すと、下に向かう階段が見えてきた。
……そうだった。この迷宮は下に向かって強くなる。
昨日の冥界の塔とは逆なので、一瞬戸惑い、そして階段を降りて行く。
「目から鱗だよ。
パーティの連携って奥が深いな」
「あぁ、今までの戦い方が恥ずかしくなる」
ネグロスとクロムウェルが真剣に話してると思ったら、碧落の微風の連携に感動しているようだ。
二人にとってはボロンゴとデクサントが輝いて見えているだろう。
……僕にはどんな戦い方が向いているだろう?
二階層に入ると並び順を交代する。
ネグロスとクロムウェルが先頭になりその後に碧落の微風、最後が僕。
碧落の微風のメンバーがネグロスとクロムウェルの戦い方を見て、何て言うか楽しみだ。
そう思ってたけど、特に言うことが無かった。
……ていうか、二階層の巨大蛙ぐらいだとネグロスもクロムウェルも連携関係なしで順番に倒していく。
ネグロスは遠い間合いから飛び込んで行ってすれ違いざまに二刀流で斬り刻んでいるし、クロムウェルは十字戟のリーチを活かして危なげが無いし、面白くない。
「バレット君もユンヴィア君も凄く強いんだね。
シルバー君以外でこんなスピードで一匹残らず倒してくの初めて見た」
ミユが呆れた顔で二人が迷宮内を駆け巡っているのを見てる。
「シルバーだけがあんな異常な戦い方するのかと思ってたら、バレットもユンヴィアも同じ戦い方するんだな。
黒瑪瑙の方針か?」
ボロンゴも呆れた顔で僕に聞いてくる。
僕たちは立ち止まりもせずに迷宮内を歩いていて、ネグロスとクロムウェルが二人で分担して左右に飛び回っては巨大蛙を倒してる。
僕も最初は倒した巨大蛙を回収してたけど、結構な数がいるので面倒になって倒したまま放置して進むようになった。
「いや、ただ単に連携の仕方を知らないんだよ。
さっきのボロンゴたちの戦い方を見て僕はどう戦うべきか、答えが見つからなくて困ってるし……」
「はぁ、なんか不思議なパーティーだな。
俺たちは一人じゃ倒しきれないから攻撃を繋いでいくしか無いのにな」
「僕はずっと一人で行動してたし、バレットも一人で狩りをしてた。ユンヴィアは狩りとかの経験が無くて一対一で訓練してた影響かも」
「そうか……、俺たちは冒険者になるまでは全く戦闘経験が無かったし一緒に助け合いながらやってきたから、シルバーたちとは戦い方が違って当然かもな」
「それはあるね。
僕たちはまだそういう助け合い方を知らないと思う。
長所を引き出して、短所を補うようなことを考えていかないとボロンゴたちみたいにはなれないんだな……」
「そんなに難しく考えなくても、危なくなったら助け合うさ。
冥界の塔で俺たちを助けてくれたときに連携とかじゃなくて、俺たちを庇いながら魔物を倒してくれたじゃないか」
「あは、ありがとうボロンゴ。
少し気が楽になったよ」
ボロンゴも冒険者になって色々と経験してるようだ。
先輩冒険者の言葉はすんなりと納得できた。




