第百六十六話
流石はライセンス取得試験でいきなりCランクになっただけのことはある。
今のところ全く危なげが無い。
骸骨も腐死体熊も単体だとあっさり倒すし、複数いるときは距離を取って動きを確認してから囲まれないようにして戦っている。
二人で連携の練習なんてしたこと無いはずなのに、周りを見ながら戦っている。
双牙刀と十字戟の扱いも上手い。
剣を振るたびに発光して蒼い筋が浮かんでいる。
魔力強化によってかなりの斬れ味になってるはずだ。
十階層で腐死体犬に囲まれたときも上手く回避しながら確実に数を減らしてた。
黒妖犬がいても問題無く倒してただろう。
……でも、次はどうだ?
十四階層から十五階層への階段を上がりながら少しワクワクしながらついて行く。
「次は十五階層か?」
「そうだな。大通りのある階層だ」
「危なそうだな。
前にシルバーが五階層ごとに中ボスみたいなヤツがいる場合があるって言ってなかったか?」
「言ってた気がするな」
「冥界の塔のことじゃないか?」
「……可能性は高いと思う」
「じゃあ、そのつもりで気を抜くなよ」
「当たり前だ。それでなくても一階層ごとに徐々に強くなってるし、ドキドキしながら歩いてるよ」
僕からするといい感じで集中できてると思う。
できれば、もう少しバンバン魔法を使って欲しいかな。
でもこれは自分自身に対しても言えることだ。
危機的な状況になるまでは魔法を控えてる。剣で対応できるうちは魔法を使ってない。
そうじゃ無くて、使える場面ではドンドン魔法を使っていくのが上手い戦い方のような気がする。
ネグロスとクロムウェルの二人が魔法で何をできるのか知っているので、もっと使えば良いと感じる。
階段を上り切るとそこは小部屋。
大通りまでは少し離れている。
部屋の中に魔物がいないことを確認すると、すぐに二人が出入口の向こう、通路の様子を確認するためにそっと部屋から顔を出す。
「右はいない」
「左もいない」
「右から大通りに行くか」
「そうだな」
素早く言葉を交わすと、足音を立てずに通路に出て行った。
途中、骸骨を三体ほど倒して進むとやっと大通りが見えて来る。
小部屋から出るときと同じようにして二人が通路から顔を出して大通りの様子を確認する。
「右、十字路付近に骸骨と腐死体熊が二十体」
「左は骸骨のみ十体」
「行けるか?」
「いや、何かあるかも知れない。
二人で左を殲滅しよう。
それぐらいならそれほど時間もかからないし、何も無ければそのまま中央に行けばいい」
「そうだな。
……俺は左の右側へ行く」
「分かった。
私は左の左へ……、三、二、一」
「「ゴーッ!」」
二人は通路から飛び出すと左に向かった。
左の骸骨を殲滅して挟み撃ちを回避してから、右の一団を倒す作戦だ。
確かに右に行って骸骨と腐死体熊の二十体との戦闘中に骸骨が十体が加勢するとキツい。
各個撃破が妥当だろう。
……僕一人だったら腐死体熊からかな。各個撃破でも主力から倒して行く。
結構無茶な戦い方だ。
「空気瞬発」
ネグロスが一団の右側の骸骨に突っ込んで切り崩して行く。陣形が乱れたところにクロムウェルが十字戟を振り回して行くと、一気に半数ほどの骸骨の体がバラバラに砕けた。
早いなぁ。
残りの半数もネグロスとクロムウェルに挟まれ、すぐに倒れていく。
二人して骸骨が動かなくなったことを確認して、交差点側の一団に向き直ると剣を構え直す。
「よしっ! これで挟み撃ちは無い」
「新手が来ないか注意しろよ」
おぉ、クロムウェルはいい勘してる。
「もう少し引きつけてから、同じように飛び込むから援護頼む」
「あぁ、腐死体熊よりも骸骨を優先して数を減らすぞ」
「了解。
空気瞬発」
ネグロスが交差点側の二十体の一団に飛び込むと、さっきと同じように骸骨の陣形が崩れていく。
続いてクロムウェルが斬り込もうとしたときに影が迫った。
「くっ!」
咄嗟に横に飛んで爪を回避しながら十字戟を突き出したクロムウェルだけど、そのときにはすでに影はいない。
「何かいるっ!」
「どこだっ!」
「消えたっ!」
「がっ! こっちはまだ時間がかかる」
「あぁ、私がやるっ!」
既に乱戦に突入してるネグロスと見えない影を探すクロムウェル。
見事に分断された。
でも、クロムウェルの反応は良かった。
次は見つけられるか?
キン、ガシャ。
ガン、キン、キキン。
ネグロスが骸骨の群れと斬り結ぶ音が響く中、クロムウェルが四方八方を警戒してる。
見つけられるか?
気付けるか?
「ぐあっ!」
クロムウェルが影隼をかわし損ねて大通りを転げ回った。
影隼に気づいて十字戟を振ったので、爪の攻撃は受けてないけど翼に当たって跳ね飛ばされたらしい。
「クロムウェル!」
「大丈夫だ!」
ネグロスが駆け寄ろうとしたけどクロムウェルが手を突き出して、その動きを止める。
膝をつき十字戟を杖代わりについた状態で上空を見る。
……気づいたようだ。
「上空だ。
鳥。もの凄く速い」
今は飛び去って視界にいない。
クロムウェルはどうする?
大通りに出ずに通路の影から見てると影隼の位置が分からない。
クロムウェルの様子だけを注意して見ていると、反対側ん見てるときに動きが止まった。
ゆっくりと腰を落として突き出すようにして十字戟を構える。
来るか?
ドンッ!
影隼の特攻に合わせてクロムウェルが突きを放つ。
ズシャ〜!
十字戟に影隼が突き刺さった状態でクロムウェルが押されて来た。
同じ姿勢のまま三メートルは押されただろう。
両足を前後に大きく開いて十字戟を突き出したクロムウェルが、その槍の先の影隼を睨んでいる。
体長二メートルの真っ黒な鳥の胸の中心に十字戟が突き刺さり、絶命してる。
クロムウェルは影隼の死体から十字戟を抜くと、ネグロスの加勢に向かう。
疎らになった骸骨と三頭の腐死体熊ならすぐに殲滅するだろう。
僕はそっと大通りに出ると左右を確認して影隼の死体に近づく。
ジッと見ていると死体は迷宮に沈み込んでいって何も無くなった。
それから殲滅した左の一団を確認するけど神授工芸品は落ちていない。
ここまで魔晶石交換筒しか拾ってないので、そろそろ何か出ても良いと思うけど、なかなか難しいもんだ。
確認を済ませると二人のいる十字交差点に向かう。
「お疲れさん。上手く対応できたね」
「あぁ、焦ったけど倒せて良かった」
「俺もかなり頑張ったけど、今回はクロムウェルが良かったな」
僕がクロムウェルとハイタッチすると、ネグロスもハイタッチして激闘を讃えた。
「あの鳥の魔物は何だったんだ?」
「影隼。
新人だと対応できずにやられることも多いらしい」
「確かにあのスピードだと難しいな」
「うん。
知ってても対応できるかどうかは別なんだ」
「まぁ、これぐらいは対応できないと上に進めないってことか……、あ、アレは?」
ネグロスが何か見つけて声を上げる。
あった。
板が二枚。
「やっと見つけた」
「聞いてはいたけど神授工芸品ってなかなか出ないんだな」
「狙って手に入れるのは難しいね」
ネグロスとクロムウェルが板を拾って持って来る。
二人とも自分の拾った板をじっくりと見てどんな板か見分けようとしてるけど、分からないようだ。
初見で見分けられるものじゃないのに。
鍵となる十五階層も問題無くクリアした。
二十階層の階層主まで一気に行けるかな。




