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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第四章 水神宮
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第百五十三話

 

 くっ!


 やられた。

 囮役に騙されて、後から来る本隊に気づかなかった。


 ハクの魔法にもビビったが、その後に飛んできた短剣はもっとビビった。

 まさか三人の冒険者が囮で、その後から四人やって来るとは思わなかった。


 でもハクなら本隊相手でも大丈夫だ

 俺の役割は逃げ出したアイツを捕まえること。


 スイッチを切り替えて追跡モードで逃げた獣人を追いかける。


 ……速い。


 何とかついていけるけど、見失わないようにするので精一杯だ。


 暗い森の中、樹々の間を縫うように走る樹人の影を必死に追いかける。


 と、突然前を走る獣人が脚を止めた。


 気づかれたか?

 息を潜めて相手の様子に神経を配る。


 相手は立ち尽くして息を整えている。

 こちらも身を潜めたまま、呼吸が荒くならないように抑えたままで呼吸を整える。


 いつ走り出すか分からないので、こちらも息を整えないとついて行けない。


「……いるな。いい腕だ。

 出て来いよ」


 小さくて細い体格だけど、鋭い目と大きな耳をピクピクさせながらこちらの様子を伺っている。


 先ほどの走りもかなり速かった。

 筋肉質で細い骨格。長めの後ろ脚。口からはみ出しそうな牙。

 サバンナ種かそれに近い狩猟種だ。


 性格もかなり好戦的なようだ。

 武器は腰に提げた細剣か。


 俺と似たような戦い方をするのだろう。


 一瞬、ヤツの声に反応しそうになったけど、俺の役割は追跡。

 脚を止めてくれるならそれでいい。

 ここで対決するよりも、アジトまで連れて行ってくれる方がいい。


 ジッと耳を澄ましながら樹の裏に隠れたまま様子を伺う。


「チッ! 腰抜けかよ!

 いいから出て来いよ。出て来ねえと命の保証はないぜ!」


 出て行ったら襲ってくるのに、隠れてても命の保証はないとか、よく分からない脅し言葉だ。

 どこにいるか分からないから、言葉で挑発してきてるのに、その焦りがバレてると思わないのだろうか?


 向こうが冷静さを失うとこちらはより冷静になる。


 しばらくするとサバンナ種の男は、両手を組んで集中し始めた。


 魔法か?


火球(ファイアボール)!」


 詠唱と共に右腕を突き出すとしっかりとした火球(ファイアボール)が森に向かって放たれた。


 ドン!


 火球(ファイアボール)が大木を折って、そのまま樹を燃やし始める。

 脚が速かったので斥候役だと思っていた。魔法が使えるなんてかなりランクが高そうだ。


 ……俺を火炙りにして燻り出すつもりか?


火球(ファイアボール)!」


 でも、あまり魔法が得意じゃないんだろう。

 一生懸命に魔法を撃って火事を広げている。


火球(ファイアボール)!」


 魔法が得意じゃないとしても、徐々に火事が広がってきて少しヤバくなってきた。


火球(ファイアボール)!」


 ヤツの魔法で樹が折れ炎が渦巻く中、自分の進む道を探す。


 ヤツも自分の周りを全て焼く訳にはいかない。

 自分が街へ降りる道を残すはずだ。

 気づかれずに先回りすれば全然問題ない。


火球(ファイアボール)!」


 ヤツが魔法を撃って、樹々が折れるタイミングで俺も魔法を唱える。


 空気瞬発(エアダッシュ)


 心の中で唱えてもちゃんと魔法が発動して一気に樹々の間を駆け抜ける。


 大丈夫。上手く紛れたはずだ。


 むしろヤツが後ろばかり警戒してるので、このままもう少し先に進んで待ち構えた方が上手くいくかも知れない。


火球(ファイアボール)!」


 ヤツが見当違いの方向に魔法を放った瞬間、再度魔法を唱える。


 空気瞬発(エアダッシュ)


 ヤツから離れて見張るのに都合が良い場所を探し始めると、もう少し街に近い場所に大きな樹を見つけた。


 あの樹の側辺りがいいだろう。






 樹の上から見張るのが楽なんだけど、この大木は目立つので警戒される可能性がある。

 少し離れた樹の上に登り、葉っぱの影から木の下の様子を観察する。


 動きが素早くて、魔法も使える冒険者。

 でも冒険者ギルドの試験官と比べると少し雑な感じがする。


 まだ剣技を見てないので実力は分からないけど、ハクが言っていた二十階層の階層主(フロアマスター)を倒した冒険者とは違うような気がする。


 ……どういうことだ?


 大筋でハクが言ってた通りになっているのに、少しズレている。


 多分、ハクも最初に現れた三人だけだと思ったはずだ。

 そもそもハクはこんな大勢だと思ってなかった。


 ハクが想定してた相手と違ってたとしたら?


 今朝ハクが神授工芸品(アーティファクト)を直した。

 午前には滝から水が溢れるようになっただろう。

 そして昼過ぎにポローティアの街で滝が復活したことが分かる。

 すぐに調査隊を編成して、水神宮へ向かう。


 ……この時点で既に囮役も一緒に手配してる。


 何故だ?


 そして実際に迷宮(ダンジョン)の外でハクと出会い、すぐに捕まったメンバーの口封じをした。


 その上でハクに襲いかかった。


 何故だ?


 それでも一人だけは速攻で逃げ出した。

 仲間割れか?


 いや、どちらかというと好戦的で逃げ出すようなタイプじゃない。


 じゃあ、何で逃げ出した?


 ……それが元々の計画か?


 でも、何で腕の立つ冒険者が最初から逃げ出す?


 もっと強い冒険者がいることを知っていたら?

 元々、強い冒険者がいることを想定した調査だったら?


 これか!


 黒幕は二十階層の階層主(フロアマスター)を倒した冒険者。ソイツが神授工芸品(アーティファクト)を壊して水不足を起こした。


 しかし、そのうち誰かが水不足を解決することを警戒してた。


 だから一味のメンバーをポローティアに残らせて、滝の様子を見張らせていた。


 今日、滝から水が溢れているのを知ったメンバーは水神宮を調べに行くことにした。

 ただし、そこには一味のボスのような強い冒険者がいることが分かっている。


 そこで小細工を施す。


 囮役を用意して、いつでも逃げられるようにした。

 メンバーと協力して逃げる時間を確保した。


 そんな冒険者は他に何をする?


 失敗しそうな場合は合図を飛ばす。

 何かあれば街から援軍を出す。

 もしくは証拠を完全に隠滅して逃げ出す。


 逃げ出した先にはボスがいる。


 あ、これっぽい。


 無理するとヤバいパターンだ。

 でも、向こうの狙いか、アジトか、何かこっそりと情報を得る方法がないか?

 せめて何か、向こうに知られずに情報を得たい。


 向こうにバレると確実に何か対策される。

 向こうに気づかれずに尻尾を掴みたい。


 とにかく、向こうに気づかれたらダメだ。




 頭を使って必死になって考えたけど、何も出ない。

 少ししたらあのサバンナ系の冒険者がやって来る。


 燃え続ける森を見ながら待ち構えていたら、火が急に小さくなり始めた。


 ……火を消してる?


 誰が?


 アイツは火魔法だ。消すのは無理だ。


 水魔法……クロムウェル?


 クロムウェルが追って来た?

 いや、それは危険だ。それに打ち合わせと違う。


 ハクはどうした?


 鉄で火を消せるか?

 ……流石に無理だろう。


 何が起きてる?


 ん?


 物音がしたのでそちらを見ると、サバンナ種のアイツが慌てて走って来る。


「あ゛〜、どうなってやがる!」


 何度も後ろを振り返りながら悪態をついて走ってるのは、計画が狂ってるからだろう。


「ふんっ! よっ、はっ!」


 下を走ってたアイツが急にジャンプして例の大木を登り始める。


 慌てて身を隠すが、向こうはそれどころじゃないようだ。必死になって燃える森、今は火が消えていく森を睨んでる。


「何者だ? 火を消すってことは水魔法か?」


 ここからだとヤツの顔がはっきりと見える。

 濃い灰色に黒い斑点がまだらに入ってる。

 顔は目の周りが黒くなったシャドーが入っている。

 吊り上がった目を細めると、地面に飛び降りて何度も森を振り返りながら再び街に向かって走って行く。


 あの様子だと、こっちは無警戒だな。


 次も先回りしてアイツを待ち構えよう。

 そう決めると回り込むようにして走り出した。




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