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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第四章 水神宮
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第百五十二話

 

 一人は逃げ出した。

 残った三人の内、二人が特攻して来る。

 最後の一人は待機して魔法を準備してるようだ。


 捕まえるなら一番偉そうな魔術師だけど、魔術師は拘束しても魔法で拘束を破る可能性もあるので悩む。


 特攻して来る二人は虎猫とまだら模様のブチ猫。

 装備しているのが普通の鉄剣なので、比較的若手の冒険者のようだ。

 魔術師は黒ローブで顔を隠しているので、品種が分からない。しかし、杖を持っているので特攻して来る二人よりも経験が豊富な感じがする。


 さっきの短剣は誰が投げた?


 まずはさっきの短剣を投げた冒険者を警戒すべきだけど、どいつだ?


 鉄触手(アイアンテンタクル)


 まずは特攻して来た二人を拘束した。

 その上で短剣使いがいないか確認するけど、二人とも短剣を使う気配が無い。残った魔術師もそれどころじゃなさそうだ。必死に詠唱を進めている。


 まさか逃げ出した冒険者が短剣使い?


 一番厄介なヤツが手下を放置して逃げたのか?


 鉄触手(アイアンテンタクル)


 魔術師も鉄の触手で拘束して動きを止める。

 多少魔法が使えても、詠唱に時間がかかるレベルの冒険者なら鉄触手(アイアンテンタクル)から逃げるのは難しい。


 ただ、魔術師は遠距離を攻撃できるので意識だけは刈り取っておいた方が無難だ。

 鉄触手(アイアンテンタクル)で捕まえた魔術師に近づくと拘束されてパニックになったのか、必死に詠唱してるけど魔法が発動しない。


 何度も火球(ファイアボール)と繰り返してるローブ姿の冒険者の頭を殴ると簡単に意識を失った。


「ネグロス、この三人の警戒を頼める?

 多分逃げ出した冒険者がリーダーだから、追ってみる」


 どこかに隠れているネグロスに向かって手を挙げて、大声を出したけど返事が無い。


 まさかネグロスが逃げ出した冒険者を追って行った?




 ……一瞬、放心状態になってしまった。


 逃げた冒険者とネグロスを追うか、捕まえた冒険者に尋問するか、クロムウェルに言伝して後を任せるか?


 ネグロスのことを心配して手順を間違えると、結果的に失敗することになるかも知れない。


 ネグロスも自分の身は守れるはずだ。無理なら逃げ出して危険を回避するだろう。


 僕は捕まえた冒険者の尋問を選んだ。


「囮役の三人は捕まってすぐに殺された。

 お前たちも簡単に捕まって見捨てられた。

 命が惜しければ、アジトとボスについて話してもらおうか」


 僕に向かって特攻して来た二人の内、ブチ猫から尋問する。

 暗闇の中から身動きできないブチ猫に対して背後から声をかけると、ヒィッと変な声を出し辺りを見回すけど首が固定されていて僕の顔を見ることはできない。


「何も知らない。本当だ。

 あのリーダーに雇われただけだ。今日会ったばかりだ」


「へぇ、そうなんだ。

 それで指示されたら子供を襲うんだ」


「あれは、そう、脅されたんだ。

 殺すって言われた」


「それじゃ、今から死んでもらうよ。

 もう一人に聞くからいいや」


「ちょっと待ってくれ」


「何だ?」


「知ってることは話す。

 何が知りたい?」


「知ってる情報を全て話せ。

 知らなければ死ぬだけだ」


「俺だって冒険者だ。

 俺を殺したらギルドが黙っちゃいないぞ」


「オレは襲って来た盗賊を殺すだけだ。

 そいつが冒険者かどうかは関係ない。

 もし、盗賊が冒険者だと言うならギルドで徹底的に調査させる。

 お前の仲間も皆んな処分してやるさ」


「くっ、本当に何も知らないんだ。

 命だけは助けてくれ」


「だから早く話せ。

 お前の他にも二人いるんだ。

 時間の無駄だ」


「リーダーはグルーガっていう冒険者だ。

 いつの間にかポローティアに居ついた冒険者で金払いがいい。たまにはヤバい依頼もあるがそんなのはどこのギルドでも一緒だ」


「それで?」


「どこに住んでるかは知らねぇ。

 ただ、急にやって来て手伝いをさせられるだけだ」


「他には?」


「ヤツに逆らうとヤバい。

 何人か酷い怪我をさせられた」


「手下は?」


「いるらしいが、見たことは無い。

 毎回違う冒険者に声をかけるって噂だ」


「何で依頼を受けた?」


「急にやって来たんだ。

 受けなきゃ何されるか分からねぇ。

 受けるしかねぇんだよ。

 分かってくれよ」


「運が無かったな。

 次があれば襲う前に強いヤツを見極めることだ」


 ムカついたので、一発殴って黙らせた。

 続けて虎猫に声をかける。


「今の話は聞こえたか?」


「あ、あぁ。聞こえた」


「なら、分かるな」


「あぁ、だけど、本当にさっきの話以外は知らないんだ」


「はぁ? なら死ぬか?

 グルーガの噂でも、囮役になったもう一組のパーティの情報でも売れるものは何でも売らないと、自分の命で払うことになるぞ」


「グルーガは昼頃にやって来たんだよ。

 朝から急に川に水が流れ始めたって言って、見てこいって言われたんだけどお前らだけが急に行くと変だな。とか言い出して、囮役のパーティを連れて来たんだ」


「アイツらは知り合いか?」


「新人冒険者だ。

 多分半年から一年ぐらい」


「今までに話したことは?」


「無い」


「何でお前らが選ばれた?」


「ん? そんこと知るかよ!

 なぁ、助けてくれ。脅されただけなんだ」


「脅されて子供を殺そうとする冒険者なんか死んだ方がいい」


「くっそ〜!

 手前ぇ、覚えてろよ」


「あぁ、覚えとくよ。

 脅されて襲ってきた盗賊の仲間をな」


 ギャーギャー喚く虎猫の後頭部を殴って意識を奪った。




 それにしても急に声をかけられただけで夜中の山に入って、山狩りするか?

 しかも一陣目の新人は簡単に殺されて、二陣目のヤツらは躊躇なく子供の僕を襲って来た。


 それほどの力を持っていながら、全然面識のない冒険者たちを連れて山に入って来た。


 逃げたヤツは何者だ?


 ……ランクの低い冒険者たちが恐れてるだけか、ギルドを裏で取り仕切っているか?


 まぁ、取り巻きとは別行動してるようだからどちらかと言うと下っ端だな。

 別の街が根城で下っ端がポローティアで情報収集してると見た方が良さそうだ。


 それでも小さな街の冒険者たちを脅す程度の強さはある。

 ヤツの強さを見極めて、上手くいけばボスに繋がる情報を得たいけど、それも相手の強さ次第だな。


 僕を襲ってきた冒険者たちはこのまま放置して、ネグロスを追いかけよう。

 上手くいけば下っ端のアジトで合流できるはずだ。


 そう判断してグルーガが逃げた方に向かって走り出す。






 走り出してすぐに森の一部で火が上がってるのに気づいた。

 ポローティアに向かう方向だ。


 しかも単発の焚き火のようなものじゃない。

 一帯が山火事のように燃え上がっている。


 グルーガが何かした?


 ……魔術師か?

 そうだとすると、ちょっとマズイ。

 経験的に魔力に扱いに慣れている魔術師は強い。


 最初に逃げ出したときのスピードを考えてもグルーガの動きは速い。

 その上、魔法も使うとなるとネグロスが危険だ。


 方向がはっきりしたので、燃えている森に向かってスピードを上げる。




 火元に近づくほどに惨状が明らかになる。

 体育館一個分ほどのスペースが激しく燃えている。


 青々と茂る樹々をこんなに豪快に燃やすのは魔法しか考えられない。


「ノワルーナ、火を消せるか」


 燃え上がる樹々に向かって走りながら、昨晩契約したばかりの影水(ウンブラアクア)のノワルーナに声をかけ消火を任せると、周囲に誰かいないか調べ始める。


「ヴェネット、ネグロスはどこにいる?」


 風の隼ウェントゥス・ファルコの精霊、ヴェネットが白い翼をはためかせて僕の肩から飛び立つ。


 僕も銀糸のマントを広げて空に飛びあがり上空から森を見下ろすと、あちこちで燃える樹が黒い影に包まれて火が消えていくのが見えた。


 影水(ウンブラアクア)の力は凄いな。


 火とぶつかるのではなく、火を飲み込んで消していく。


 それにしても、これだけ広い範囲の火事となるとグルーガはどんな魔法を使ったんだ……。




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