第百五十話
「迷宮内を魔動馬車で移動できると楽なんですけど、いつ魔物に襲われるか分からないので仕舞います」
魔動馬車を片付けられるかちょっとだけ心配だったけど、無事に腰鞄に仕舞うことができた。
「魔法鞄ってあんなに大きなモノまで入るんですね」
パスリムが唖然とした顔をしながらノアスポットに囁いてるので、彼女たちもこんなに大きな荷物を出し入れしたことは無いようだ。
セラドブランたちも道具を魔法鞄に道具を片付けるのを見てると、ネグロスたち用に魔法鞄が欲しくなるが、狙って手に入れられるモノじゃない。
手に入れられると探索が楽になるけど、運次第だな。
「そう言えば、新しい武器ができたんだけどクロムウェル使わない?」
腰鞄から十字戟を取り出してクロムウェルに見せる。
十字戟は長槍なので、ネグロスや僕は戦い方が合わない。
大柄なクロムウェルならリーチを活かした戦い方ができるかも知れないと思った。
「これは、長槍か? いや槍斧か?
珍しい穂先をしているな」
「偶然できた武器だから使い方が難しいんだけど、性能はいいんだ。
どうかな?」
手を伸ばしてクロムウェルに十字戟を渡すと、彼は両手で構えて重さとバランスを確認する。
「全て金属製なんだな。しっかりとした重さがある。
確かに取り扱いが難しそうだ。
でもその分、強度が高いんだろ?
握りも丸いだけじゃなくて少し楕円になっている。
これは槍先の十字剣を使いやすくするためかな」
「少し魔力を流してみてもらえないか?」
「ん、こんな感じで流れて……」
クロムウェルが十字戟に魔力を流すと穂先が淡く光った。
「「「えぇっ?!」」」
十字戟を持っているクロムウェルを含めて何人かが声を上げる。
「何で?」
クロムウェルが穂先を顔に近づけて十字の刃を見ながらこっちにやって来る。
「少しだけど蒼光銀が混ざってるみたいなんだ」
「「「「「えぇっ?!!!」」」」」
「ちょっと! それはどういうことですか!」
「どこで手に入れたんだ?」
懐かしいな。
セラドブランとネグロスのダブルツッコミだ。
いや、違った。二人が同時に聞いてきただけだ。
「新しい魔法を試したら偶然できたんだけど……」
「そんな話仰ってませんでしたわ」
「魔法で作ったって……」
二人がそれぞれ違う理由で言葉を失う。
セラドブランには魔法で槍を飛ばしたと伝えたはずだけど、言い忘れてたか?
「それは同じものがもう一つ作れるってことか?」
クロムウェルが呟くと、他のメンバーがギョッとして彼を見て、それからゆっくりとこちらを振り返る。
「えっと、試してみないと分からないけど……」
皆んなの圧に押されて思わず嘘をついてしまった。
「それって蒼光銀の武器が作れるってことですか?」
「さぁ、それはどうだろう?
たまたま蒼光銀が少し混ざった十字戟ができただけだし……」
皆んなの反応を見てると自分でやったことだけど、少し不安になってくる。
……やらかしてしまったか?
蒼光銀が少し混ざってるだけだからいいと思ったけど、それでもかなり貴重なようだ。
「蒼光銀の武器が作れるなんて聞いたことありません」
「蒼光銀は迷宮でしか手に入らないはずです」
「もし自分で作れたら大儲けだな」
「欲しい武器を作って貰えるとなったら、いくら出しても欲しいという獣人が出てきそうですね」
「それこそ、ハクを抱え込もうって貴族がたくさん出てくるんじゃないか?」
またしてもクロムウェルの一言で座が静まる。
「まぁ、既に勲章貰ってるし、今更だね。
試してみるから見てて。
飛天双牙刀」
宙に二本の曲刀が浮かぶと、鋭い回転をしながら迷宮の壁に向かって飛んで行き、壁に刺さって止まった。
「おぉ〜」
「「「えっ?」」」
ネグロスだけが感嘆の声を上げて、他の皆んなは驚きを隠せないようだ。
壁に刺さった曲刀を抜く。
細身の曲刀で、反りはそれほど強くない。
以前使っていた日本刀よりはクセがあるけどネグロスなら上手く使うだろう。
「ネグロス、どうだい?」
「ぃやった〜。
なぁ、早速魔力を流してみていいか?」
「当然だろ。魔力を流さないと出来が分からないし」
クロムウェルだけが諦めて成り行きを眺めているけど、三人のお嬢様は話の流れについて来て無いようだ。
ネグロスは新しい武器が楽しみで仕方が無い様子だし。
今使ってる二本の細剣を地面に置いて双牙刀を構える。
「行くぜっ!」
ネグロスが魔力を流した二本の曲刀を振り回すと、綺麗な蒼い残像が残る。
「「「えぇ〜」」」
お嬢様たちが感嘆してるけど、ネグロスも風魔法を使うしこれぐらいできて当然だと思う。
ネグロスも気分がいいのか、たまに風魔法を使った急加速を織り混ぜて演舞を続けている。
これだけ自在に扱えたら問題無いだろう。
クロムウェルに十字戟を渡した後、どうやってネグロスの武器を強化するか悩んでたけど、勢いで解決できてしまった。
「とりあえず、この迷宮でその武器が使えそうか試してみてよ。
これまでの武器は僕が腰鞄に仕舞っておいて後で返すから」
「すまない。しばらく借りるぞ」
「いいんだよ。ハクも魔法で作って貯まるだけだから貰っとけよ。
ハク、ありがとう」
ネグロスがクロムウェルを宥めながら僕に礼を言う。
「あまり気にせずに色々使ってみてよ。
多分、その武器が通じないような硬い魔物も出てくるから」
「そうは言うけど……」
「いいんだよ、ハクは躊躇わずに使えって言ってるだけだから」
「ははは、そう言うこと。
次はもっといい武器を作るから」
「そう言うことなら、頑張ってこの十字戟を使いこなして見せるよ」
「俺は次の武器が楽しみだ」
「まだ早いって、そんなに簡単にできないよ」
笑い合う後ろでパスリムたちの呟きが聞こえた。
「……成長が早過ぎます。
しかも進化と言っていいほどの振れ幅です」
「流石に蒼光銀の武器は難しいと思いますが、いつか実現してしまいそうです」
二人の呟きを聞きながらセラドブランが何か考え込んでしまったが大丈夫だろうか?
新しい武器を持った二人が前を歩いて、お嬢様たちと僕が後からついて行く。
ノアスポットとパスリムがセラドブランの後ろに回るので、自然と僕とセラドブランが並んで歩くポジションになる。
「メイクーンさんはこれからどうされるつもりですか?」
唐突にセラドブランが聞いてくる。
水不足を解決するため街に帰ってからの話だろうか、それとも水不足を解決した後の話だろうか?
「う〜ん。水不足について根本原因を解決したいですね」
「根本原因ですか?」
「はい。
蓮の水盤が直接的な水不足の原因だったとして、そんなに簡単に壊れるものではないと思います。
それが元に戻ったら真の原因が分かると思うんですよね」
「それは、……蓮の水盤を破壊した何者かいる。と言うことでしょうか?」
「断言できませんが、その可能性はあると思います」
「しかし、そんなことをして水不足のどこにメリットがあるのですか?」
「水不足以外の狙いがあるのかも知れません。
まぁ、蓮の水盤が直って水不足が解決したら、の話です」
錦蛇が現れてネグロスたちが戦闘を開始したので、話を中断した。




