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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第四章 水神宮
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第百四十五話

 

 サーバリュー侯爵領の外れ、水神宮の迷宮(ダンジョン)。三十一階層。

 迷宮主(ダンジョンマスター)の泉。


 姿を見せない迷宮主(ダンジョンマスター)だけど、泉に顔を突っ込めば会話ができる。


「役目って何だ?」


「……お主には関係ないことだ。さっさと帰れ」


「そうかな?」


「……」


「久しぶりに来た冒険者なんだろ。

 百年前の冒険者は大人しく帰ったのか?」


「……何が言いたい?」


「口先だけで帰るような冒険者はこんなところに来ないってことだ」


 言い切って顔を上げると、もう一度右手の先から魔力を流す。

 泉の水面を魔力が走って波立つ。


 泉の奥から湧き上がる怒気が水を通して伝わってくる。


 ……結局こうなるんだ。


 泉の中央が爆発寸前の火山のように一気盛り上がる。


 盛り上がった泉が盛大に弾けて迷宮主(ダンジョンマスター)が姿を現す。


 視界を遮る水飛沫の向こうに見えるシルエット。


 長く太い蛇だ。


 いや、角? 翼? 腕? らしき影も見える。


 ……あぁ、龍だ。


 透き通るような水色と金属光沢のある紺色。その両方が混ざった鱗。

 長い長い体には小さな腕がついている。

 下半身というか、下の方はまだ烟っていて見えない。


 腕の少し上には小さな翼。蝙蝠のような皮膜の翼のようだ。


 上の方に鰐の額に角をつけたような頭。

 一本の角が捻れるようにして上に向いている。

 真っ黒な目はどこを見てるか分からないけど、恐らく馬のように広い視角でこちらを睨んでいるのだろう。


 水神龍。……蛟龍(レインドラゴン)


「ははっ、こんな小僧だったとは……、笑止」


 龍が口を動かさずに話し出した。

 どうやら口を使わずに発声することができるらしい。


「軽い挑発に乗ってくるとは安い蛇だな」


「子供は、我が何と呼ばれているか知らんようだな」


「ほぅ、蛇以外に名前があるんだ」


「……死んでから後悔しろ」


 僕の身体をすっぽりと包むほどの大きな水球が宙に浮かび出す。

 一つ、二つ、三つ。


 蛟龍(レインドラゴン)が腕を振ると三つの水球が一斉にオレに向かって飛んでくる。


 地を蹴り、マントに魔力を流して横に飛ぶと、三発の水球がさっきまでオレのいた位置で弾けて霞む。


 蛟龍(レインドラゴン)を見ると新しい水球が三つ飛んで来た。


 水を司るだけあって連射能力が高い。


 鉄盾(アイアンシールド)


 魔法を念じて水球を防ぐ鉄盾(アイアンシールド)を出しながら更に回避する。


 水球が鉄盾(アイアンシールド)に当たり弾けたが、鉄盾(アイアンシールド)は曲がりながらも原型を留めている。

 一応、鉄盾(アイアンシールド)で水球を防げそうだ。


 それなら怖くない。


 射出機(カタパルト)


 鉄の足場で急加速して蛟龍(レインドラゴン)に突っ込む。

 蒼光銀(ミスリル)の長剣を振り被り二刀で一気に斬りつけようとすると、水球が三つ進路上に現れる。


 邪魔だっ!


 水球を斬り飛ばして、そのまま続けて蛟龍(レインドラゴン)を斬りつけたけど、硬い鱗に弾かれてしまう。


 ぐっ……。


 水球でガードされると剣の威力が落ちてしまう。


 剣を止められて、そのまま落下しながら次の手を考える。


 このままヤツのテリトリーに落ちるのはマズい、と考えていると短い腕に殴り飛ばされた。


 ぐはっ。


 頭から落ちてるところにフックを喰らい、腹をくの字に折って転げながら泉に落ちる。


 すぐさまマントを使って水中から脱出して宙に立った。


 左の脇腹をさすりながらダメージを確認していると蛟龍(レインドラゴン)が言う。


「大人しく帰るなら殺しはしない。

 さっさと帰れ」


 ムカつく野郎だ。

 たった一撃殴っただけで勝てるつもりらしい。

 こっちは脇腹を殴られただけでダメージは残っていない。


「心配するな。そんな程度じゃ、全力でかかってきても殺せない」


「小僧、命が惜しく無いようだな」


「その程度じゃ効かないからな」


 蛟龍(レインドラゴン)が水球を三つ飛ばして来る。

 同じことの繰り返しで芸のないヤツだ。


 まずは空中でもかわせるところを見せてやる。


 銀糸のマントに魔力を流すと、踊るように宙を舞い水球を避ける。

 狙いが外れた水球が迷宮(ダンジョン)の壁面に当たり弾けていく。


 三つ避けると新しい水球が三つ現れるが、それも続けてかわしていく。

 連射能力が高くても、同時に迫るのが三発程度なら難なくかわせる。


「器用な小僧め」


 蛟龍(レインドラゴン)がオレの動きを追いながら諦めずに水球を放ってくるので、効かないことを分からせるために水球を叩いて止めた。


「なっ……」


 鉄盾(アイアンシールド)で防げる程度なら、蒼光銀(ミスリル)の剣を横にして刀身の部分で叩き潰せば水球は弾けて霧散する。


 連続して水球を叩き潰すと当たりは霧がかかったように霞んだけれど、僕には一撃も当たっていない。


「チェックメイト」


 水球を叩き潰しながら蛟龍(レインドラゴン)に近づいたオレは、その胴体に剣を突き刺した。


 蒼光銀(ミスリル)の剣が蛟龍(レインドラゴン)の胴体に深々と突き刺さる。


 ?


 一瞬違和感を感じたが、蛟龍(レインドラゴン)を突き刺したままヤツに声をかける。


「絶対絶命のようだな?

 オレに従うか、死ぬか選べ」


 胴に剣を刺された蛟龍(レインドラゴン)は上からオレを見下ろしている。


「……まだだ」


 諦めずに剣から逃れようと体を捻った。


 一瞬で蛟龍(レインドラゴン)の体は剣から逃れることに成功した。しかし、オレはすぐに左の剣で胴を横薙ぎにして斬る。


 ザシュッ!


 蛟龍(レインドラゴン)の胴はアッサリと上下に別れた。


 下半身が泉に落ちて盛大な飛沫を上げると、上半身だけになった蛟龍(レインドラゴン)がその翼を大きく広げ、姿を変える。


 違和感の正体はこれか!


 水を司るに相応しく水と同じように姿を変えられるようだ。


 長い胴を持つ大きな蛇のような姿だったのが、オレに斬られて胴は短くなり代わりに翼が鳥のように大きなものになった。

 肉厚なプテラノドンのような外見。


「残念だったな。

 世間知らずの坊主」


 迷宮(ダンジョン)の中を飛ぶ蛟龍(レインドラゴン)が嘲るように宙をクルクルと舞う。


「そうでも無いさ。

 一歩ずつ追い込んでやるから、最後まで付き合ってくれよ」


 今度は宙を舞う蛟龍(レインドラゴン)を空を飛んで追いかける。


 ……と言っても、丸くだだっ広い泉が中央にあるだけの空間で水球を放って来るだけの蛟龍(レインドラゴン)には力が足りない。


 水球は効かないし、隠れる場所も無い。


 徐々に追い込んでいき、剣を突きつけて言った。


「今度こそチェックメイトだ」


 空中で向かい合う蛟龍(レインドラゴン)とオレ。


「……ふっ、残念だったな。

 我はお主には従わん!」


 言うと突然蛟龍(レインドラゴン)が爆ぜて水煙と化した。


 はぁ?

 勝手に爆発しやがった。


 勝手に死んで、あたり一面に霞がかかった。


 何?

 ヤツは何がしたかったんだ?


 迷宮(ダンジョン)内に霧がかかったような状態で、改めて周囲を見回す。


 静かだ。


 ……蛟龍(レインドラゴン)は本当に死んだのか?


 姿を自在に変える蛟龍(レインドラゴン)だ、細かい霧状に体を変えたと言うことも考えられる。


 そうだとすると面倒だ。


 ヤツはオレの目を眩まして、オレが帰るまでの時間をやり過ごすつもりらしい。

 姿を変えたヤツを探して締め上げるか、迷宮核(ダンジョンコア)を見つけてヤツを誘き出すか。


 蛟龍(レインドラゴン)が死んだのなら泉の水が引くだろうし、死んでいないなら泉の水に変化は無いだろう。

 後は泉の奥底に迷宮核(ダンジョンコア)があるかどうか。


 あ〜ぁ、何のためにここまで来たんだったかな。


 水不足を解決するために来たのに、冒険者の情報は手に入らなかったし、迷宮主(ダンジョンマスター)は雲隠れしてしまった。


 水神宮と呼ばれるこの迷宮(ダンジョン)迷宮核(ダンジョンコア)を破壊する訳にはいかないし、迷宮主(ダンジョンマスター)を倒しても得るものが無い。


 あ〜ぁ、あの蛟龍(レインドラゴン)、ムカつく。




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