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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第一章 スタンピード
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第十四話

 


「だあぁぁぁ!」


 鬱陶しい!


 オレは押し寄せる魔物(モンスター)蒼光銀(ミスリル)の長剣で斬り飛ばしながら迷宮を更に深く進んでいた。


 戦い続けて口が悪くなったと自嘲しながらも手は止めない。


 十階層の闘技場を抜けると一本道の先に階段だけがあり、否応なく十一階層に入った。

 早々に茜牙魔狼マダーファングヴォルフの群れに追い回されたため、逃げずに倒し続けている。


 一人はいいのだが、食べ物がない。治癒する術がない。


 空腹を抱えながら剣を振り、いつになったら食べ物にありつけるかばかり考えている。

 水はオレの魔法でも出せるし、仮眠明けなどは銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)が金属板の器に水を溜めてくれるので助かっている。


 一刀兎(ソードラビット)あたりは美味しそうに見えるが、流石に生で食べる気はない。

 臭いもきついし、見るからに筋っぽい。

 普通に考えて蒼光銀(ミスリル)じゃないと切れない肉を食べる方法が分からない。

 焼けば食べれるかも知れないが、木の枝一本落ちてないので薪がない。


 時間が空くと食べ物のことを考えてしまうけれど、ひっきりなしに襲ってくる魔物(モンスター)のおかげで空腹を忘れて戦いに没頭している。


 空腹と同じように問題なのが、治癒だ。

 一人で戦っているので、一瞬の油断が命取りになる。


 治癒魔法が大活躍するこの世界で、自分が治癒魔法を使えれば、と切実に思うのは仕方ない。

 打ち身、切り傷から骨折や内臓損傷までも治せる。


 幸いにも今のところ、身体のあちこちをぶつけても何とかなっているので、斬り裂かれたり、噛みつかれなければいい、と考えるようにした。

 常に囲まれて戦っているので、無傷ではすまないのだ。どこまでを許容するかということになると、今は打ち身、打撲は我慢するしかなかった。


 戦いに明け暮れ、魔物(モンスター)がいなくなると休憩をする。

 まるで集団暴走(スタンピード)のときのようだ。


 限られた時間で身体を確認して長剣を銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)に見せる。

 銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)蒼光銀(ミスリル)の長剣に乗り、淡く輝くと斬れ味が戻る気がする。

 そして続けて銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)に小さな鉄の塊、苦無のようなようなものを幾つか作ってもらうと、収納庫(ストレージ)にしまう。

 遠距離攻撃用の苦無だ。

 力任せに投げるしかできないが、それでも何匹かの魔物(モンスター)を倒すことができる。


 魔物(モンスター)が寄って来なければ仮眠を取り、遠巻きながらも徐々に近付いて来る場合は打って出て先に進む。その繰り返し。


 十一階層からは限定特典(リミテッドボーナス)が二つになった。


 十一階層に入ってすぐ長剣が出て、立て続けに槍斧(ハルバート)が出たときは驚いたが、それ以降の階層でも続いてるのでそういうものなのだろう。






 とにかく魔物(モンスター)を倒し続けて進んでいると、階段を降りたら一本道が始まった。


 恐らく二十階層。


 この先にまた扉があるのだろう。


 結局、突然消えた銀色の蜥蜴はそれ以後、一回も現れていない。

 まぁ無事に限定特典(リミテッドボーナス)を取り続けているから問題ないが、会ったら文句の一つ、いや二つ三つ言わないと収まらない。

 こっちは一人で戦い続けてるんだから。


 体調も良し、今も力が溢れて来る感じだ。

 銀の黄金虫(アルゲントゥ・ミネラ)のおかげで投げ苦無もそれなりにある。

 気合いを入れて扉の前に立った。


 十階層とは違い、鉄の扉が道を塞いでいる。

 いや、十階層の出口の扉と同じか。

 左右の蜥蜴が向かい合った模様。

 綺麗に磨かれた鉄の扉に浮かぶ蜥蜴が彫刻が、あの銀色の蜥蜴に見えてくる。


 余計な感傷を振り払って扉を開けた。


 造りは十階層と同じ闘技場。

 その中央に銀色の……粘性捕食体(スライム)


 どう見ても、闘技場の中央にいるのは一匹の粘性捕食体(スライム)だ。


 斜面を下りながらその様子を確認すると、見た目はそのまま粘性捕食体(スライム)だ。

 特徴的なのは、その色、銀色の光沢。大きな水銀のような光沢。

 それで、たまにスッと動く。

 ……大きさを無視すれば水銀と言っていい。


 しかし、大きさは途轍もなく大きい。

 厚さは通常の粘性捕食体(スライム)の半分五十センチメートル程度、その代わり直径が四メートルほどもある。

 そして、動きは比較にならないほど速い。


 闘技場スペースに入ると一気に駆け出して長剣を振り上げ叩きつけた。


 キンッ!


 硬いっ!


 剣が弾かれ手が痺れる。

 それでも強引に剣を振り回して二撃目、三撃目を入れて、同じように弾かれた。


 その間に粘性捕食体(スライム)の体が盛り上がって僕と同じ高さまで立ち上がった。

 ……ただ地面に伸びて広がっている状態からギュッと縮んで高さ二メートル弱になる。


 そして弾かれた長剣が上に浮き、胴がガラ空きになったところに向かって粘性捕食体(スライム)が粘体を振り回して直撃する。


 グボッ!


 身体を吹き飛ばされて転げ回った。




 ……想定外だ。

 体は硬くて、攻撃が速い。

 それでいて重い。僕の攻撃にはビクともしないし、向こうの攻撃には身体中を潰されるような衝撃がある。


 斬れないなら、突きか?


 長剣を両手で構えて走り込み、体重を乗せて突く!


 キンッ!


 粘性捕食体(スライム)の表面に切っ先が触れた状態から一ミリも刺さらない。

 本当に切っ先の接点だけで体重を乗せた突きが完全に止められた。

 すぐに頭を狙って粘体の一撃がくるが、スウェーバックして後ろに転がりながら避けた。


 中心が難しければ、端から切り落とすか?


 再度、同じように粘性捕食体(スライム)の体の中心に向かって突きを放ち、粘性捕食体(スライム)からの反撃を躱しながら地面に広がっている裾の辺りを地面に縫い止めるようにして長剣を刺した。


 キンッ!


 いや、刺さらない。


 どこにも傷一つ付かない。


 どうする?


 考える前にできることをやる。


 キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ!


 連続で長剣を同じ場所に叩きつけ続ける。

 粘体を振ってきたら躱して叩く。

 我慢比べだ。

 息を止めて叩けるだけ叩く。


 限界が来たら、粘性捕食体(スライム)の体をグルリと回り込みながら一息ついて再度叩く。


 キンッ!


 折れた?


 音と供に長剣から衝撃が抜けた。

 ステップバックして距離を取り、長剣を見ると根元から折れてなくなっている。


 クソッ!


 折れた長剣を投げ捨て、収納庫(ストレージ)から別の蒼光銀(ミスリル)の長剣を取り出した。

 限定特典(リミテッドボーナス)で何本かの長剣を拾っていて良かった。


 新しい長剣を構えて、二、三回振り回してバランスを確認する。さっきまでの長剣と変わらないバランスのようだ。


 仕切り直して粘性捕食体(スライム)に対峙したとき、新しい気配に気付いた。






 !!


 銀色の蜥蜴が粘性捕食体(スライム)とは反対側、オレの背後に浮いている。


「やぁ、苦戦してるようだね」


「蜥蜴っ!

 お前は後で相手してやる!

 ちょっとそこで待ってろ!」


 一瞬だけ蜥蜴を確認したら粘性捕食体(スライム)に正対して、背後の蜥蜴に向かって怒鳴った。


「いや、今のままじゃ難しくないかな?

 その粘性捕食体(スライム)は剣に魔力を纏わせないと、また折れちゃうよ」


「何をっ!

 今度はもっとギアを上げて叩き切ってやるよ」


「いや、だから、魔力を纏わないと無理だって。

 一回試してみなよ。

 剣に魔力を流して火でもつけるみたいにさ」


「はぁ?

 お前、適当なこと言ってんじゃねぇよ。

 それで強くなったら世話ねぇよ」


 試しに言われた通り、魔力を流してみる。


 おわっ!?


 剣が光ってる。


 何?


「おいっ、こらっ!

 何だこれ!?」


蒼光銀(ミスリル)の特性だよ。

 ここまで来るときに試す時間ぐらいあったでしょ。

 せっかくの神授工芸品(アーティファクト)なんだから、色々試さなきゃダメだよ」


「そんなこと知るか。

 前回言わないお前が悪い」


「そうですか。

 まぁ、さっさと試してよ。ちょっとは強くなったんでしょ」


「あぁ、こっちはずっと戦って来たんだ。

 しっかりと見てろよ」


 改めて両手で長剣を構え粘性捕食体(スライム)に正対した。

 両手でグリップをしっかりと握り締めると剣に魔力を流す。蜥蜴は纏わせる、と言っていたので、グリップから切っ先まで魔力を伸ばして包む感じで。

 魔力を流すだけだと、その魔力が剣から放出するように光りが広がったけど、包む感じにすると光りが剣に張り付くようになった。


 これで、いいのか?


 よく分からないが、斬れば分かる。

 粘性捕食体(スライム)に向かって飛び込み、長剣を袈裟斬りに振り下ろした。


 スンッ!


 粘性捕食体(スライム)を斬った長剣が地面も斬ってめり込んでしまった。


 ザックリと切れた粘性捕食体(スライム)がグズグズと溶けていく。


「何だ、簡単じゃねぇか」


「よくできたね。腕が上がってるよ」


「次はお前の番だ、覚悟しろ。

 オレが指導してやる」


「あ、その前に宝箱、宝箱」


「んあ?

 あぁ、宝箱か。見たいのか?」


「うん。ちょっと確認したいことがあってさ」


「なら、ちょっと待ってろよ」


 オレは粘性捕食体(スライム)を倒して出てきた宝箱のところに行った。宝箱は銀色の粘性捕食体(スライム)と同じぐらいの大きさだ。

 その宝箱を無造作に開けると、中身を見た。


 宝箱の中に大きな丸い透明な玉が二つ入ってる。

 水晶玉?


 いや、片方は中に馬車の模型みたいなのが入ってる。

 もう片方は透明だ。


魔晶石(エーテル)だね。

 大きいし、綺麗だ。良かったね。当たりだよ」


「どうせならちゃんと説明してくれ。

 こんなもんもらっても使えねぇ」


「ふふふっ。

 片方は中に馬車が入ってる。迷宮から出てから試すといいよ。もう片方は魔力を流したりして試してみなよ」


「お前、また適当なことを!」


「いやぁ、順調で良かったよ。

 じゃまたね〜」


「おめぇ、コラ、待て!」


 銀色の蜥蜴は宙返りして消えてしまった。

 あの蜥蜴、一体何なんだ。




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