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白金の獣人貴族  作者: 白 カイユ
第四章 水神宮
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第百三十二話

 

 サーバリュー侯爵領の外れ、水神宮の奥。

 虹蛇(エインガナ)を倒した僕たちは泉の水が引くのを待って、その底がどうなっているのか確認するために進み出した。


 水が引く前の泉は直径百メートルはある楕円形をしていて、真っ暗な洞窟の中で反対側を見通すことも困難だった。


 今はセラドブランが放った火球(ファイアボール)が壁面で松明代わりになっているので、薄明かりの中を六人で元は泉の中だった斜面を下る。

 僕の魔法で所々に鉄の針が突き出てるけど、避けて歩けば問題ない。


「さっきの魔物(モンスター)迷宮(ダンジョン)に吸われるって話しは神授工芸品(アーティファクト)と関係あるのか?」


 隣を歩いてるネグロスが聞いてきた。


「多分、関係あると思う」


 他の四人もこちらに目を向けて先を促してくる。


迷宮(ダンジョン)で手に入るものは大きく二つ。

 一つ目が神授工芸品(アーティファクト)

 二つ目が魔物(モンスター)の死体。

 これは魔物(モンスター)の死体を素材として利用するって意味ね。

 神授工芸品(アーティファクト)は突然、迷宮(ダンジョン)の中に落ちている場合と魔物(モンスター)を倒した場合にその後で落ちてる、というか出てくる場合がある」


「突然落ちてるって、どんな風に?」


「無造作に置いてあったり、剣が地面に刺さってたり、壁に引っかかってる場合もあったかな」


「……本当に適当なんだな」


 ネグロスが呆れたように言う。


「うん。

 簡単に見つかるときはいいんだけど紛らわしくて見つけにくい場合もあるから、それなり注意してないと見落とすよ」


「流石に剣とかは分かるだろ?」


「う〜ん。

 浅い階層(フロア)なら見つけやすいけど、浅い階層(フロア)には貴重(レア)なアイテムは出ないよ。

 剣とかなら分かりやすいけど、何が神授工芸品(アーティファクト)かも分からないし、小さいアイテムもあるから魔水薬(ポーション)が出るって聞くまではかなり見落としてたと思う」


「あ、そうか……」


「それで魔物(モンスター)を倒した後に出る場合だけど、これも宝箱みたいのが出てきてすぐ分かる場合と、死体が消えた後にアイテムだけが残ってる場合がある」


「「宝箱!」」


 ネグロスとノアスポットの声が被った。


「宝箱は大きさはバラバラだけど、倒した魔物(モンスター)のところに急に現れるから分かりやすい。

 宝箱じゃない場合は、よく分からない。

 元からあったのか、倒した後で出てきたのか?

 ただ、魔物(モンスター)の死体を回収すると出ないような気がする」


「倒した魔物(モンスター)神授工芸品(アーティファクト)に変わってる?」


神授工芸品(アーティファクト)も同じものが出る訳じゃないからね。

 階層主(フロアマスター)を倒した場合でも、確率一割ぐらいだし」


「「「えっ?」」」


「強い階層主(フロアマスター)を倒したら神授工芸品(アーティファクト)が出てくるんじゃないの?」


「う〜ん。

 そもそもどんな神授工芸品(アーティファクト)がいつ、どこに出るか分からない」


「あぁ、それは知ってる。

 だから貴重(レア)神授工芸品(アーティファクト)は数が少ないんだろ」


「うん。

 そして魔物(モンスター)を倒したら必ず出てくる訳でもない」


「……それは雑魚の場合じゃないのか?」


階層主(フロアマスター)でも一緒だよ。

 僕の印象では十階層の階層主(フロアマスター)で一割程度、二十階層の階層主(フロアマスター)でも二割ぐらいの確率だよ」


「……そんな低いのか?」


「そうだね冒険者ギルドで聞いたときも、一年で一回ぐらいって言ってた」


「一年?」


「あぁ、言い忘れてたけど階層主(フロアマスター)は倒すと一ヶ月ぐらいは不在になるんだ」


「えっ?

 それじゃ誰でも通れるようになるんじゃないか?」


「うん。誰でも通れるよ」


「あれ? 階層主(フロアマスター)を倒さないと深く潜れないって?」


「正しくは、誰かが倒さないと、だね。

 そして階層主(フロアマスター)を倒せる実力がないと結局、その先でやられちゃうし……」


「……そう言うことか」


「そうだと思う。

 レドリオンの冒険者ギルドだと、いつ、誰が階層主(フロアマスター)を倒したか把握してるようだったし、ランクや経験で判断してどこの階層にどんな魔物(モンスター)がいるから注意しろ、って指導してたよ」


「ギルドってちゃんとしてるんだな」


「うん。ちゃんと情報を整理してサポートしてくれる」


「へぇ、そうなんだ。

 ……それで、何だったか?」


階層主(フロアマスター)を倒しても必ず神授工芸品(アーティファクト)が出る訳じゃないって話だね。

 それと倒した魔物(モンスター)神授工芸品(アーティファクト)の関係」


「あぁ、そうだった。

 強い魔物(モンスター)を倒したら神授工芸品(アーティファクト)が手に入るって思ってたのに、何か面倒なんだな……」


「そうだね。欲しいモノが手に入る訳じゃないし、手に入れてもどんな効果があるか分からない場合も多いし」


「それで、泉の底に蛇神の死体が残ってるかどうかで、ここが迷宮(ダンジョン)か分かるってことでいいか?」


「うん。

 死体が無くなってたら迷宮(ダンジョン)ってことでいいと思う。

 もし神授工芸品(アーティファクト)が出てたら迷宮(ダンジョン)で確定だ」


「もし死体が残ってたら?」


「ただの洞窟に蛇が住み着いたってことになる」


「そうか、……俺の見間違いじゃ無かったら、ここは迷宮(ダンジョン)のようだな」


「……あぁ、僕もそう思う。

 あれは宝箱と下の階層(フロア)へ繋がる扉だ。

 虹蛇(エインガナ)階層主(フロアマスター)だったみたいだ」


 僕たちの前に宝箱が一つとその向こうの壁に埋まっている扉が見える。


 真っ黒な石の扉には蜷局(とぐろ)を巻いて宙に浮かぶ龍が描かれている。

 ……蛇神から龍に繋がる扉ということだ。






「なぁ、俺が宝箱を開けてみてもいいか?」


 ネグロスが恐る恐る宝箱に近づきながら聞いてくる。

 僕を振り返りながらも、すぐそばにいるセラドブランに対する質問でもあるようだ。


「気をつけてね。

 中身はセラドブランさんに渡すけど、宝箱を開ける練習は必要だから」


 一応練習という名目で開けてもらうことにした。


 セラドブランが探してる神授工芸品(アーティファクト)が何か分からないけど、ここはサーバリュー領でセラドブランの依頼で一緒に潜ってるんだから神授工芸品(アーティファクト)は全てセラドブランに渡すのがいいだろう。


 ……それに誰も宝箱を開ける特殊なスキルを持っていない。


「私もそれで構いませんが、気をつけて開けてください」


 セラドブランが言うとネグロスが更に前に出た。


 宝箱自体は小さい。

 両手で軽く持ち上げられそうなサイズだ。


 ネグロスは宝箱の前に屈み込んで蓋に手をかけると一気に開けた。


「「「あっ……」」」


 その迷いの無さにこちらの方が声を漏らしてしまった。

 ネグロスはお構いなしに宝箱を覗き込む。


「何だ? これ?」


 そう言って彼は宝箱の中から一本の筒を取り出した。


 直径十センチメートル、長さ三十センチメートルほどの黒い竹筒だ。

 特徴的な節があるのが見える。


「なぁハク、これ何?」


 ネグロスが竹筒を振って見せるけど僕にも何か分からない。


「魔力を流してみると何か分かるかも知れないよ」


「試してみるぞ」


 ネグロスが言うと彼以外の五人がスッと距離を取って離れる。

 ……うん。何か分からない神授工芸品(アーティファクト)にいきなり魔力を流そうとするネグロスは凄い。


 まぁ十階層のお宝だし、大したことは無いと思う。


 風魔法も上手くなったしきっと大丈夫だ。


 チョロロ〜。


「「「おおっ!」」」


 水が出た。


 神授工芸品(アーティファクト)の黒い竹筒の筒先から水が出てる。


 見た目はただの黒竹筒(ブラックバンブー)で、機能的には冥界の塔(ハデスタワー)湧水筒(ウォーターパイプ)みたいな神授工芸品(アーティファクト)のようだ。


 泉を作っていたのはこの黒竹筒(ブラックバンブー)の力だろうか?


 虹蛇(エインガナ)の魔力と神授工芸品(アーティファクト)黒竹筒(ブラックバンブー)の効果で生み出された水であの泉ができ上がったのかも知れない。




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