第百二十八話
馬車が大公都の冒険者ギルドに到着すると、六人で連れ立って建物の中に入る。
セラドブランが先頭に立とうとしたけど、その前に受付嬢のケイトレンジに声をかけた。
「お久しぶりです。
ハク・メイクーンです。
ジャックバーグさんに相談があるんですけど、おられますか?」
「はい。少々お待ちください。
と、大勢おられますし二階の会議室の方が良さそうですね。
ご案内しますので、こちらへどうぞ」
ケイトレンジが気をきかせて案内してくれたので、そのままゾロゾロと移動する。
流石に豪華な装備の子供が六人いると絡んでくる冒険者はいないけど、不躾な視線で眺めてくるのでお嬢様たちには相応しくない。
場所を変えてくれたケイトレンジに感謝する。
「こちらへどうぞ」
大きめの会議室に入って行くと、セラドブランがケイトレンジに声をかけた。
「私はセラドブラン・サーバリューです。
ギルドマスターのキンドレックスさんに約束があるのですが、お声がけして頂いても宜しいですか?」
「はい。サーバリュー様ですね。
確認して参りますので、お座りになってお待ちください」
ケイトレンジが丁寧に受けてくれた。淡々としてるけど、しっかりしてるんだよな。
セラドブランが珍しく緊張してる。
この前は大公の前でも堂々としてたのに不思議だ。
ほどなくして男が二人会議室に入って来た。
一人はかなり大柄で黄色と黒の虎模様。明らかに虎だ。
しかもかなり強そう。身体つき、身のこなし、視線、隙が無い。
もう一人は山猫のジャックバーグ。
この前碧玉の村で会ったし、こっちに戻って色々報告してるはずだ。
「よく来たな。
私がギルドマスターのキンドレックスだ。
コイツは試験官のジャックバーグ。
そっちの三人はこの前碧玉の村で会っただろう?」
「はい」
「今日は少し時間をもらうが、君たちのランクアップについて手続きを進めたいので、協力してくれ」
「はい、分かりました。
何をすればいいですか?」
「一通り査定は済んでるから、実際に少し力を見せてくれると助かる。
早速、裏の訓練場に行こうか?」
キンドレックスが先頭になって会議室を出ると、ズンズンと進んで行く。
ジャックバーグは一番最後についてくる。
裏の訓練場はガラ空きだ。
「実は一通りの実力は聞いてもいるし、把握してるつもりだ。
ただ、どうしても自分の目でも確認しておきたいので、メイクーン君の鉄を出す魔法と鉄を斬る剣技を見せて欲しい」
訓練場に着くと、キンドレックスは腕を組んでそう言った。
……あぁ、これはいつものパターンか?
「分かりました」
さて、どうするかな。
あまり派手なことはしたくないけど、派手にした方が大人しくなるかな。
「方尖碑」
ミニの方じゃなく、オリジナルと同じ大きさだ。
高さおよそ二十五メートル。
台座は横幅三メートル近い。
一瞬でそれを創り出した。
「ほう」
腕を組んでいたキンドレックスが方尖碑に近づいて行くと、表面をペタペタと触り確認する。
「素晴らしいな」
「ありがとうございます」
「次はこれを斬れるかな?」
「もちろんです。
どの剣で斬りますか?」
「そうだな、では、この剣で」
そう言ってキンドレックスは腰に提げていた宝剣を抜いて渡してくる。
……何がしたいんだ?
「では、この剣で試しましょう。
ただし方尖碑が倒れると危険なので少し離れてもらえますか?」
ヒュンヒュンと宝剣を振ると見た目が派手過ぎるけど、ちゃんとした剣のようだ。
蒼光銀のような力は無いけど、儀礼用としてだけではなく実際に使える。
その剣に魔力を流し散っていく魔力を軽く抑え込みながら、ゆっくりと台座に剣を刺す。
しっかりと根本まで剣を刺してから引き抜くと、台座には剣でできた穴が残った。
「どうですか?」
キンドレックスに確認を促すと、彼は方尖碑に触れると穴を撫でた。
「素晴らしい。この塊すら斬ってしまうとは思わなかったよ」
キンドレックスが拍手して、僕を褒めてくれる。
……本当に何がしたいんだ?
「それでは、穴が空いた方尖碑は醜いので、穴を塞ぎますね」
返事も聞かずに宝剣を再度方尖碑に突き刺すと、そのまま精錬して一気に方尖碑と一体化させる。
これで穴を完全に塞いで、宝剣も抜けなくなった。
まぁ、訓練場のど真ん中に作ったこの方尖碑も簡単には動かせない。
これぐらいの嫌がらせは返してもいいだろう。
「ご要望通り、鉄を出して、鉄を斬りました。
この後はどうされますか?」
「ふっ、はははっ。
あぁ、合格だ。
これぐらいできないと変な貴族に絡まれるからな。
なかなかやるじゃないか」
突然キンドレックスが笑い出してニヤリとした。
かなり機嫌が良さそうだ。声もデカいし煩い。
「何ですか?
ひょっとして試験ですか?」
「あぁ、査定だって聞いてないか?」
キンドレックスは僕の肩をバンバン叩きながら話してくるし、迷惑極まりない。
「いえ、聞きましたけど、審査は終わってるって言いませんでしたか?」
「戦闘力という意味では終わってるが、実際にどんなランクにするかは力の使い方を知ってないとマズいだろう?」
「どういう意味ですか?」
「ただ力があるからAランク。ではなくて、力があってそれを使いこなせるからAランクなんだよ。
バカのランクを上げても仕方ないだろ?」
「力だけだとランクは上がらないってことですか?」
「そう言うことだ。
たまに力だけの奴もいるが、お前みたいに小さい内にランクが上がると大変だからな。
ちょっとした訓練だよ」
「そこまで言ってもらえたら、もう少し穏便にしましたよ」
「それじゃダメだろ。
訓練場のど真ん中にこんなデカい方尖碑を立てて、先祖から伝わる宝剣を埋めるだけの度胸があるから合格にしたんだからな」
「はぁ、何か疲れました」
「おい、それじゃ皆んなライセンス証出しな。
メイクーンはA、他の奴はBだ。
ジャックバーグに渡したら会議室に戻るぞ」
皆んな胸元からライセンス証を出してジャックバーグに渡していく。
キンドレックスが上機嫌で会議室に戻って行くのを見ながら、改めて思う。本当に何なんだ?
「改めてランクアップおめでとう。
これで新人卒業だ。
先日の集団暴走の叙勲に続いての快挙だ」
会議室に戻って皆んなが座るとキンドレックスが立ち上がり大きな声で説明を始めた。
「メイクーンはAランク。金。
他の五人はBランク。銀に認定する。
これからはそれだけの実力があることを自覚して行動してくれ。
集団暴走の予兆があればギルドからの指名依頼なんかがあるかも知れねぇからな。
そのときは正しく力を使って欲しい。
おめでとう」
キンドレックスが拍手をして祝ってくれる。
「ランクが変わると何か変わるんですか?」
「そうだな。
まぁ、このギルドで言えばさっきお前らの様子を探ってた冒険者たちが、今度からはお前たちを恐れるようになる」
「「えっ?」」
「冗談だよ。
ただ、さっきまでお前たちを舐めてたヤツらが今度からは警戒するようになる。
お前らがギルドに入って来たときに、子供は帰りなって言う冒険者がいなくなる」
「それはありがたいですね」
「このライセンス証があれば、子供としてよりも上位ランクの冒険者として扱われる。
多少はギルドに出入りしやすくなるはずだ」
「さっきのハクに対する試験ですけど、失敗してたらどうなってたんですか?」
「別にどうもならないな。
まだ幼いから指導が必要ってなるだけだ。
ま、場合によってはランクを一つ落としてたかも知れないが……。
それでもお前たちは別に冒険者ギルドのランクを気にして行動してないだろ。
だからあまり関係ない」
「それだと合格してランクが上がりましたけど、それもあまり関係ないのでは?」
「ギルド的にはランクが低ければ指導するし、高ければ難易度の高い依頼を出す方にシフトする。
つまり、面倒ごとがあったときに任せても大丈夫だろうって評価だ。
だから、高ければ高いだけ依頼が増えるさ」
「げぇ……」
この獣人もレドリオン公爵と同じだ。
もう少し警戒しとくんだった。




