第百二十六話
上級学院での叙勲者による試演。
ノアスポットは剣舞だったけど、他の皆んなは魔法を披露して喝采を浴びた。
最後は僕の番。
無難なところだと鶴翼鉄壕を披露すれば充分だろう。
碧玉の森で魔物を分断して集団暴走を止めたのはあの魔法の力が大きい。
学院の授業でもミニ方尖碑を作っていたので、皆んなにも馴染みがある。
鉄波乗や神速射出機を見せるとネグロスの二の舞になってしまう。
個人的には鶴翼鉄壕よりもよっぽど凄いと思うんだけど……。
ただ、皆んなの試演を見たからには、僕も新しいところを見せたい。
あれでいこう!
僕は腰に下げている三本の内、二本の剣を抜いた。
タングステン合金の剣とコバルト合金の剣だ。
碧玉の森でこの剣を作ってから色々と実験するため常に提げている。
右手に重いタングステン合金の剣、左は普通の剣とほぼ同じ重さのコバルト合金の剣。
タングステンの方は重い代わりに耐熱温度が高い。
金属の中で最も融点が高く三千三百度なので、鉄の沸点二千九百度を上回る。
精錬するように温度を上げて振り回すことができる。
コバルト合金は重さや耐熱温度は鉄と似たようなものだけど、錆びにくく酸やアルカリに対しても腐食しにくい。
強度と靭性を兼ね備えていて折れにくく使いやすい。
両手に剣を持ち軽く魔力を流す。
左手はノアスポットがやったように剣を光らせる程度で抑えるけれど、右手のタングステンはガッツリ温度を上げて剣を赤熱させる。
その剣を振り回して舞う。
ノアスポットのような華麗な舞いでは無い。
ただただ間合いに入ったものを斬り捨てる剣。
多数の魔物に囲まれたときに、攻防一体となった剣。
僕の道を塞ぐものは全て斬り払う剣。
剣を止めることなく振り回し続け、剣の温度で周囲の空間までが熱くなってきたところで止める。
剣が熱くなっているので、表面に水を凝結させるとジュッと音がした。
瞬間、僕の周囲に蒸気が籠ったけど二、三度剣を振ると湯気も飛び剣の熱も落ちた。
……あぁ、失敗したようだ。
クラスメイトたちの視線が痛い。
皆んな何て言っていいのか分からない微妙な表情をしてる。
「以上です」
それでも強引に試演を終わらせるとジュビアーノが意識を取り戻し、コメントしてくれる。
「速過ぎて何が起きてるのか分からなかったが、あれは剣技なのか魔法なのか教えてもらってもいいかい?」
「剣技、だと思います。
剣を魔力で強化してひたすら振ってるだけです」
「そうか、間合いに入ると微塵斬りにされると言うことか」
「そうですね」
「ありがとう。参考になったよ」
微妙な空気のまま授業が終わり、結果としてクラスメイトが話しかけてくる量が減った。
遠くから様子を見ていた上級生もいたようで、少しだけ周りが静かになった。
その代わりと言ってはなんだが、クロムウェルは大人気だ。
授業の合間に演習場の端で休憩していると活性水を飲んでみたいと獣人が列をなし始めた。
最初は断っていたクロムウェルもあまりにしつこいので皆んなに適当に飲んでもらうために大きな水球を作り出した。
「なぁ、俺たちは何がいけなかったんだ?」
隣のネグロスがその光景を見ながら言った。
まるで公園で遊んでる子供たちを遠目に見ているお爺さんだ。声に力がない。
「俺たち、って、……確かに僕も皆んながドン引きしてたよな」
「俺の風魔法はかなり凄いと思うんだけど、違うのか?」
「僕はあの風魔法はかなり凄いと思う。
僕の射出機よりも応用が効くし、何より速ければ先手を取れる」
「そうだよな。
俺があの魔法を使えば冒険者ギルドの試験官、ジャックバーグだって倒せる」
「うん。詠唱も短いしメチャクチャ効くはずだ」
「……俺もクロムウェルみたいに、キャワーってなるはずだったのになぁ」
「まぁ、静かになったし面倒ごとが減ったからいいんじゃない?」
「まぁ、いいか。
次は剣技だったか?」
「あぁ、そうだね」
「碧玉の森じゃ魔法ばかりやってたから、剣技の方はどうするかな?」
「剣を振るだけじゃなくて、魔力を纏うとか風を使う練習すればいいんじゃない?」
「……結局、魔法に行くんだな。
そう言えばジュビアーノも最初にそんなこと言ってたっけ?」
「魔法の素質のある獣人には魔法を、とか言ってたな」
「そうだった。
でも、魔力を纏うって言ってもな」
「例えば剣に魔力を込めながら振ったり、マントに魔力を流しながら動いたりしたね」
「グェッ。
お前、なにげに地道なことやってるよな」
「あぁ、魔法や魔力みたいによく分からないことは気になるんだよ。
神授工芸品は分からな過ぎて手が回らないけど……」
「そういや、ハクは迷宮に潜ったごとがあるんだよな?」
「あぁ」
「俺にも神授工芸品が見つけられるかな?」
「う〜ん。十階層までなら行けるかな。
階層主を倒せば神授工芸品が出ることもあるよ」
「ホントか?」
「うん。一人じゃ難しいけどパーティ組めば何とかなるよ」
「なら、一緒に行こうぜ」
「今度ギルドで近くに迷宮があるか聞いてみようか」
「ちなみに、今までは何で一人で行動してたんだ?」
「う〜ん。
たまたまだね。隠れて迷宮に潜ってたから一人で行動するしか無かったんだよ。
身分とか武器とか隠してたからね」
「はぁ、なんか苦労してんなぁ」
「でも一人もいいもんだよ。
神授工芸品を独り占めできるし」
ニヤリと笑うとネグロスが呆れた顔をする。
「その分危険だろ?」
「ハイリスク、ハイリターンだよ」
そろそろ授業が始まりそうになり、クロムウェルの周りに集まっていたクラスメイトたちが礼を言って演習場に広がっていく。
クロムウェルだけが不安そうな顔でこちらに近づいて来た。
「皆んな、私の作った活性水を飲んでたけど、大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫。
元気になる水だから心配するなよ」
「大丈夫だと思うけど、効能に自信が無い」
「皆んなに飲んでもらった方が色んな意見が聞けていいんじゃない?」
「ハクも無責任なことは言わないでくれよ。
何かあったら困るじゃないか」
「皆んな何も言ってこないから、大丈夫だったんだよ」
「はぁ、もうしばらくは胃が痛いよ」
「それじゃ、胃に魔力を集中して剣の練習すればいいんじゃない?」
「何の話しだよ?」
「剣を使うときに剣に魔力を纏ったり、身体や防具を強化する練習ってことだよ」
「えっ? そんなことするのか?」
「ノアスポットの剣舞だって、ハクの技だって、それをやってるみたいだぜ」
「あ、なるほど。確かにそうだな。
しかし、どうやって……?」
「それが練習なんだろ。
色々試してみようぜ。まずは胃に集中だ」
ネグロスがクロムウェルを揶揄いながら広い場所の方へと移動した。
早速試してみるようだ。
クロムウェルは腕を組んで考え込んでいるし、そのままにして僕も練習を始めるとしよう。




