第百二十五話
それからの一週間はあっという間に過ぎて上級学院に戻るのが勿体なく感じた。
もっと魔物を狩りながら魔法と剣技を磨きたかったけど、叙勲の表彰式のために上級学院に戻った。
初日ほど大量の魔物はいなかったけど、倒した魔物の買取りと三姉妹のために採取した素材でそこそこの稼ぎになった。
三姉妹に碧玉の村に移住するように言われたけど難しいと答えて、逆にメイクーン領に来ないかと伝えた。
ネグロスのコーニー領もクロムウェルのスノウレパード領も碧玉の森ほどの森がないのため、消去法でメイクーン領を伝えた。
消去法なんだけど迷宮に継続的に冒険者が入るためには薬師は必須なので、欲を言えば本当にメイクーン領に来て欲しい。
まぁ簡単に移動できる距離ではないので、ちゃんと準備しないととてもじゃないが実現できない。
上級学院での表彰式も割とすんなりと終わった。
全校生徒で千二百人。
欠席者がいたり、生徒以外にも先生たちがいたりして若干の変動があったはずだけど、スムーズに式が終わった。
……だだっ広い演習場で青空の下で表彰されたので後ろの方に声が届くのかと心配だったけど、そこは神授工芸品の力でカバーしてた。
冥界の塔で拾った拡声筒のような拡声器があって、校長のカロルノアが喋ると後方にも聞こえる。
早く終わったのでクラスメイトに囲まれる時間が増えたけど、演習場で長い間晒し者にされるよりも百倍マシだ。
「メイクーンさん、お久しぶりです。
叙勲式の後、どうされていたんですか?」
色々と声をかけられるのをやり過ごしつつ、日常生活に戻ろうとしてたらセラドブランに声をかけられた。
……何か悪いことをしたか?
背中に冷たいものが走った。
「サーバリューさん、お久しぶりです。
先日の叙勲式はありがとうございます。
恐らくサーバリューさんが色々と手を尽くしてくれたのではないですか?」
「碧玉の村を守った功績を伝えただけですので、大したことはしておりません。
それよりも、ここしばらくはどちらにおられたのですか?」
「えっと、碧玉の村の様子が気になって、碧玉の森の方で魔物を討伐してました」
「えっ?
集団暴走は収まったのでは?」
「あぁ、ゴメン。誤解しないで欲しい。
集団暴走が収まったのを確認しに行って、森の中に残ってた一角獣とかを倒してきた」
「そんな……。ありがとうございます。
私はそこまで気が回りませんでした。
村の様子はどうでしたか?」
「村は無事ですよ。
森の奥に一角獣が残ってて危険だったので、ギルドからの依頼を受けて魔物の残党狩りをして来ただけです」
どうしても言い訳がましくなってしまう。
上級学院の表彰式、いや、色んな貴族から逃げてただけなんだけどな。
「そうですか。
そう言えばギルドライセンスのランクアップについては聞かれましたか?」
「いえ、聞いていません。
何かありましたか?」
「バスティタの冒険者ギルドでランクアップの査定をすると伺ったので、今度の週末にご一緒できませんか?」
「は?」
「何か他に予定がありますか?」
「いえ、ご一緒に? ですか?」
「はい。私たちもギルドライセンスは持っていますが依頼を受けたことはないので、ご一緒して頂けると心強いのですが……、ご都合が良くないのでしたら改めます」
「あ、いえ、都合は大丈夫です。
ええ、せっかくなのでネグロスたちと一緒になりますが週末にギルドに行きましょう」
「ありがとうございます。
では、ノアスポットやパスリムにも伝えておきますね」
セラドブランは笑顔で去って行った。
ほんの一時のことなのに何故か恐ろしく神経を使った。
しかも何故か週末に一緒にギルドに行くことになるなんて、ネグロスたちに何て伝えたら分かってもらえるだろうか?
その後も他のクラスメイトたちに囲まれて集団暴走のことを説明していると、急遽午後からの訓練で受勲者が魔物との戦いで得たものを試演することになった。
ジュビアーノが話しだけじゃなくて実際に使った魔法を見てみたいと言って、脅しをかけてきたので受けざるを得なかった。
先週無理を言って学院を休ませてもらったので、これぐらいは仕方ない。
「それでは午前に叙勲者の表彰式がありましたが、せっかくですので叙勲者の皆さんに分かりやすく実演してもらおうと思います。
それでは、シャルトリさんから」
訓練場ではなく、演習場での試演だ。
訓練場ではセラドブランが魔法を放つには狭いので演習場が選ばれた。
ジュビアーノに名指しされてノアスポットが少し躊躇っている。
確か話しに聞いている感じだとクロムウェルと同じように護衛がメインで直接的な活躍は少なかったと思う。
「私は警戒が主だったので、実際は使えなかった技を見て頂こうと思います」
なるほど。上手い受け方だ。
卑下するでも謙遜するでもなく、誇張する訳でもない。
あぁ言ってもらえるとクロムウェルとネグロスも試演しやすい。
前置きした後、ノアスポットは剣舞を舞う。
以前よりも剣の光が明るく感じる。
ノアスポットは淡々と舞って試演を終えた。
この辺りも自分の功を驕るでもなくシンプルでいい。この後にセラドブランたちがいるから意図的に控えめにしてるんだろう。
「「「おおぉ!」」」
「ノアスポットさん、素晴らしいわ。
それでは次はペルシアさん」
ジュビアーノに呼ばれてパスリムが前に出ると、おもむろに何か詠唱を始めた。
「……、……、
突土槍群」
ドンッ! ドドドドドドドドンッ!
突然、演習場一面に地面から土槍が何本も突き出てきた。
ははは、洒落にならない魔法だ。
セラドブランの火魔法が目立つけど、パスリムの土魔法も一級品だ。
「「「おおぉ」」」
一部の生徒がギャップに苦しんでる。
普段は控えめだし、前回のアピールでもこんな凄い魔法は見せてなかった。
可愛い顔してるからなかなかイメージが修正できないようだ。
「素晴らしい魔法だわ。ありがとう。
次はサーバリューさんね」
「はい」
サーバリューが前に出て詠唱を呟く。
サーバリューはどの魔法を見せてくれるだろうか?
「火炎地獄」
遠くで大きな魔法陣ができて火炎が巻き起こる。
「「「おおっ!」」」
皆んなの歓声が沸き起こる。
……彼女は爆炎の余波を少なくするために魔法の威力を抑えたようだ。
それが彼女らしいと思うあたり、少し彼女の見方が変わったらしい。
「美しい魔法ね。
では続いてコーニーさん」
「はいっ」
かなり気合いの入った返事だけど、ネグロスは何をするつもりだ?
ネグロスが前の方に出て行くと、少し屈んでクラウチングスタートのような体勢をする。
「空気瞬発!」
ドンッ!
ネグロスが超スピードで加速した。
今のはつい先日使えるようになった風魔法だ。
風魔法で身体全体を押して加速させる。
遠くで風を出すのは難しいけど身体の近くなら結構な威力で出すことができると言っていた。
目の前の相手を吹き飛ばしたり、自分の身体を吹き飛ばしたりできる。
僕の射出機みたいな魔法だ。
僕の射出機は足元に台を出すけど、ネグロスの魔法の方は台がいらないので使い勝手が良さそうだ。
一瞬で三百メートルほど先に行った彼を見て、皆んな唖然としてる。
「「ぉぉ〜」」
何人かが引き気味に声を出してる。
……何で?
あんなに凄い魔法なのに?
……可哀想なネグロス。
僕は有用性が凄い分かるよ。
トボトボと歩いて帰ってくるネグロスを心の中で称賛した。
「おぉう、これまで見たことの無い魔法だが凄いな。
次はスノウレパード」
クロムウェルは静かに前に出て両手を前に出した。
「活性水」
水球がクロムウェルの両手の間に生まれた。
その緑色の小さな水球が少しずつ大きくなる。
徐々に大きくなり、クロムウェルの肩幅よりも大きくなると空中に浮いたまま止まる。
しばらくその水球を見ていたクロムウェルが両手を開くと、水球が空中で割れてバサァと地面に溢れた。
「ん?」
皆んなが疑問の声を上げようとした瞬間、地面の草がザワッと一斉に伸びる。
すると水の溢れた場所だけが背丈一メートルほどの草で覆われた。
「「「おおっ!」」」
どよめきが走って皆んなが声を上げた。
「おおっ。素晴らしい魔法だね。これも見たことが無いよ。
最後はメイクーンだ」




