第百二十四話
鉄を主体にした合金で作った長剣を持ち、連結鉄柵を構成するミニ方尖碑の一つの前に立つ。
上級学院では日本刀で斬った。
今回、新しい剣で斬れれば最低限の品質クリアだ。
斬れなければやり直し。
斬れない剣はとてもじゃないが使い物にならない。
正眼に構えて、赤熱させて、せいっ!
キンッ!
どうだ? 長剣を見ると半分に折れてる。
……ダメだった。
でも、これなら分かりやすい。
サクサクと試していこう。
次はタングステン合金。
魔力を流して赤熱させてもなかなか赤くならない。
耐熱温度が高いから、まだいけるということか……。
一応、隣の新しいミニ方尖碑の前に立って、せいっ!
キンッ!
手元を見ると、剣は折れてない。
ミニ方尖碑にも変化は無いが……、指で少し押すとズルっと滑り落ちた。
良かった。ちゃんと斬れてる。
合格だ。
三本目はコバルト合金。
何となく猫宮の世界ではこれが主流だったイメージがあるけど、どうだろう?
せいっ!
キンッ!
手元の長剣を見るまでもなくミニ方尖碑がスーッと滑って落ちた。
合格。
最後はクロム合金。
違いが分からないけど、多分、違うんだろう。
魔力を流すと微妙に表面の色が変わった。
緑から赤いメタリックカラーに変色した。
これがどう影響するか?
せいっ!
キンッ!
あ、折れた。はっきりと手応えで分かった。
不合格。
これで、合格はタングステン合金とコバルト合金の二本。
タングステン合金の方が重いし、熱に強い。
使いやすさはコバルト合金かな。
僕専用で考えると、タングステン合金だな。
熱に強い方が使いやすい。熱に弱いとどこまで無茶をしていいか不安になる。
……しばらくは二刀流で試せばいいだけか。
重さですぐに判断できるし、間違えることもないだろう。いや、念のため柄頭にタングステンのWとコバルトのCoを彫っておこう。
ついでに鞘を作っておくか。
サイズは結構ピッタリに作れるけど、薄く作るのが難しいからこんなときに練習しておかないとなかなか機会が無い。
装飾を省いて極力薄くした鞘を作っているとクロムウェルがやって来た。
「この水を飲んでみてくれないか?」
差し出されたのは二つのコップ。木の葉を使って器用に作ってある。
中身は透明な水と少し青味がかった水。
「どう違うんだい?」
言いながら透明な水を口に含んだ。
少し甘い感じがして、頭がスッキリする。
「うん。ただの水じゃないね。
体力? いや魔力が湧いてくる?」
「あぁ、そうか。
もう片方も試してくれ」
今度は少し青い水を飲むと、先ほどの水よりもハッキリと分かる。これは魔力の流れが上がってる。
「こっちの方が強いね」
「そうか……。
いや、ありがとう。
本当はただの水を作ろうとしたんだが、失敗したみたいだ」
「えっ? そうなの?」
「あぁ、さっき水を零してから気になっててな。
魔水薬風の水が作れるのはいいんだが、常に魔水薬風だと困るのでただの水を作りたいんだ」
「そんな困ることって何?」
「水を零した後に草木が活性化してしまうんだ」
「えっ?」
思わず絶句してしまった。
僕の様子を見て、クロムウェルは青水の方を少し地面に零した。
すると、しばらくしてザワッと草木が少し伸びた。
水を零した部分だけ、瞬間的に活性化したようだ。
「これは魔水薬の効果が草に影響を与えたってことかな?」
「恐らくそうだろう。
魔法で水を作れるのはいいが、攻撃には使えないんだ」
「そうか……。
普通はただの水を作れても、魔水薬のような水は作れないんだろうけど、使い道に困るな」
「だろう?
大きな水球を破裂させたら、密林になってしまう」
ぷっ。思わず吹き出してしまった。
「あ、悪い。ちょっと想像すると凄いおかしかったから。
僕も一緒に解決策を考えるから許して欲しい」
「あぁ、それぐらいはいいんだ。
ただ、早速この水をどうするかですら、悩むんだ」
「それなら、二つとも貸してよ。
ちょっと実験するから」
そう言って二つの木の葉コップをもらった。
地面に零すと草木に影響を与えるのは分かった。
なら、金属にかけるとどうなるだろう?
さっき斬り落としたミニ方尖碑の元へ行くと、上からバシャバシャとかけた。
「おいっ! 大丈夫か?」
「あぁ、何かあれば斬り倒すし大丈夫だよ」
見ててもミニ方尖碑に変化は無い。
ミニ方尖碑を伝って水が地面に広がると、その部分の草が伸びただけだ。
「金属には影響無さそうだね。
生物にだけ効果があるようだ」
「おいおい、リスキーじゃないのか?」
「ま、元々森だし何とかなるんじゃない?」
「そうなのか?」
「それにしても凄い効果だ。
何か特別なことをしてるの?」
「いや、何も分からずに水を念じたらこうなった。
パスリムが飲んでみて始めて分かったんだ」
「ふ〜ん。
不思議だけど、効果を無くすのが難しかったら、他の効果に変えてみるのもいいんじゃない?」
「他の効果?」
「例えば、飲んだら力が強くなるとか?」
魔水薬とは違うけど、強化薬、補助薬なんかもありだろう。
能力増強、能力減弱の考え方を理解してもらえると説明も楽なんだけど。
薬と毒って言う使い方もあるな。
味方には毒消し、敵には毒。
「飲んだら強くなる、……か。
継続して回復するとか応用もできそうだ。
……しかし、そんな水があるのか?」
「ん? あまり気にしなくていいんじゃない?
上手くいけばできるし、失敗しても別の物や別の方法を考えてもいいし」
「まぁ、そうだな。
効果を無くそうと頑張るよりはやりがいがあるな」
「そう言えば鶴翼鉄壕のときに気付いたけど、言葉にすると魔法の効果がはっきりとする場合もあるみたい。
セラドブランが何度も詠唱を唱えながら杖を振るって言ってたじゃないか、あれ。
こんな水が欲しい、って言葉にすると効果が出るかも」
「そう言えばみんな詠唱してるな。
だが適当な詠唱でいいのか?」
「そこも自分で自分の言葉を探すんだよ。
例えば火炎槍も何種類かの詠唱があるみたいだし。
セラドブランと別の獣人の詠唱は違ってたよ」
「おぉ、そうなのか?
知らなかった」
「まずは自分で試してみて、今度学院で調べたらそれを試して合ってる方を使えばいいんじゃない?」
「そうだな。
あそこで変な風を出そうとしてる奴もいるし、それぐらい試してみてもいいはずだな」
「あぁ、全然問題ない」
クロムウェルが言った変な風を出そうとしてる奴だが、さっきからちょっと新しい発想で練習を重ねてる。
「直風」
「旋風」
「乱風」
「細風」
「赤風」
「青風」
「赤風」
「聖風」
「砕風」
「潰風」
……掛け声を変えながら杖を振る姿は、真面目なのかふざけてるのか分からない。
掛け声もどんな基準で選んでるのか想像がつかない。
それでもたまに同じ掛け声を使ってるのはネグロスの中で何か確認したいことがあるのだろう。
「ちょっといいかな?」
後ろから近寄るとタイミングを測ってネグロスに声をかける。クロムウェルも一緒だ。
「あ? どうした?」
「いや、クロムウェルと話してて気付いたからネグロスにも伝えておこうかと思って。
僕の実験方法だけど、まずは変えてみる軸を決めるんだ。
普通の鉄、軽い鉄、重い鉄。重さを変えて何種類か作ってみる。
それで木を斬ってみて折れないかどうか確かめる。
次は重い鉄を選んだとして、重い鉄でも高温で作った鉄と低温で作った鉄を比べて斬れ味のいい方を選ぶ。
そんな風にしてある程度イメージを絞っていった方が思った結果に近づいていきやすい」
「げっ?
ハク、お前、そんな面倒なこと考えてやってたのか?」
「うん?」
「いや、てっきり魔法ってバーンって一発で凄いことが起きるんだと思ってた」
「私もハクが正しいと言っていいか分からないが、答えを知ってて魔法を使ってるのだと思ってた」
「それは違うよ。
僕の中で魔法は一つじゃないし、偶然見つけた使い勝手の良いやつを使ってるだけだよ」
「いや、でも突鉄槍とか一発で成功させてただろ?」
「学院で突鉄槍を作ろうとして方尖碑を作ったり、ジュビアーノに言われて鉄の棒を何本も作ったからできただけだよ。
鉄剣なんかは何十本と作って強度とか試したよ」
「そう、なのか?」
「それこそ日本刀は何本も折って何回も作り直してるし」
「なんだ、それならもっと早く言ってくれよ。
オレには才能が無いのかと思った」
「何だよそれ?」
「ハクにしろクロムウェルにしろ、いきなり凄いことやり過ぎなんだよ!」




