第百二十二話
碧玉の村を北門から出た僕たちの前に広大な焼け野原が広がる。
「なっ? これは?
一体どれだけ火魔法を放ったらこんなことになるんだ?」
僕はクロムウェルに目配せする。
流石に見ていない僕が話すのも変だろう。
「焼け野原はセラドブラン・サーバリュー様の火魔法。
土壁はパスリム・ペルシア様、鉄柵はメイクーンが作りました。」
「たった三人でこれは……」
「メイクーンの作った鉄柵によって西門にやって来る魔物は減ったのですが、北門は結構多くの魔物が集まって来ました。
それを魔法で焼き続けたのがサーバリュー様です。
今回の集団暴走で私は三人の魔法しか見てないので、これから先、鉄柵、土壁、焼け野原は全て三人で作ったものです」
「と言うことは、鉄柵は全てメイクーン、土壁はペルシア、焼け野原はサーバリューということか?」
「はい。三人の属性がバラバラなので、その通りです」
クロムウェルがジャックバーグに説明してくれるので、僕とネグロスは走り出した。
この焼け野原でも何頭かの魔物がいる。
杏子兎は放置してもいいけど、香梅猪や藍背熊は狩った方がいいだろう。
稼ぎにもなるし。
くっ!
このレベルの魔物だとネグロスが一撃で倒して、僕が拾い集める役割になってしまう。
足の速さが違うとツライ。
五、六頭の香梅猪を狩って戻って来ると、ジャックバーグが唖然としてる。
「お前、本当にこの前ライセンスを取ったばかりか?」
「そうです。早くFランクから上に上がりたいんで今回の指名依頼で何とかなりませんか?」
「叙勲もあるし、目に見える獲物があれば何とかなるとは思うが……」
「狩りはしてても依頼を受ける機会がないから宜しくお願いします」
「あ、あぁ」
「やった、ならさっさと先に進もうぜ」
ネグロスが先頭を進んで僕たちが後に続く。
「ジャックバーグさんは魔法使えるんですか?」
ふと不思議に思ってジャックバーグに聞いてみた。
「いや、俺は使えない。
どうかしたか?」
「いえ、上級学院で鑑定を受けたんですけど、白とか緑って知ってるかなぁと思って」
「何だ、そんなことか。
白は金属性で緑は風だったか?
青が木属性で緑が風、いや雷だったか?
いやいや、確か風だったはずだ」
「ありがとうございます。
分からなくて気になってたんです」
「まぁ、それぐらいは俺でも分かるさ」
試しに聞いてみて良かった。
ネグロスに伝えて風の必殺技を考えてもらおう。
「もう少しで次の鉄柵です」
先頭のネグロスが教えてくれた後、じきに僕が作った鶴翼鉄壕が現れる。
今度は特に魔物がいない。
狩られた後らしい。残念だ。
「メイクーンはこの鉄柵を作るのにどれぐらいかかるんだ?」
「どれぐらいって言うか、一瞬ですよ。
ちょっと待っててください。
鶴翼鉄壕」
ズガンッ!
被らないように位置を調整して、一個設置してみせる。
「おうっ!
集団暴走の中で魔物を倒しながら、これを設置して回ったのか?」
「……そうですね。
どうしたら足止めできるか考えて設置したのが先ですけど、魔物を倒しながらといえば確かにそうです」
「魔物には一角獣や鷲獅子がいたと聞いたが?」
「えぇ、いましたよ」
「そいつらと戦いながら、広範囲に二十基も設置したのか?」
「はい」
「いや、すまない。
驚きすぎて受け入れるのに時間がかかりそうだ」
僕が機嫌悪そうにしたからだろう、ジャックバーグが謝ってきた。
「いえ、こちらこそすみません」
しばらくは放っておいて先に進もう。
ネグロスが新しい獲物を見つけて斬り倒しているので負けられない。
十個ほどの鶴翼鉄壕を確認して、やっと連結鉄柵の近くまでやって来た。
ここまでは討伐済みなので、いても香梅猪や藍背熊だった。
ここから先はもう少し強い魔物が現れる可能性が高い。
どうするかな?
「ジャックバーグさん、僕は装備を変えますが口外しないでください」
一方的に伝えて蒼光銀の長剣二本と銀糸のマントを装備する。
ジャックバーグが目を見開いてるが放置だ。
「ネグロス、すまないけどクロムウェルと一緒にジャックバーグさんの護衛を頼む。
特に空を飛ぶ魔物がいたらすぐに逃げるか隠れて欲しい」
「あいよ」
「ジャックバーグさんも空を飛ぶ魔物を見つけたら必ず逃げてください」
そう言って僕が先頭になって森を進むと連結鉄柵が見えて来た。
後ろにいるみんなに掌を向けて、一度止まるようにサインを出す。
僕はそのまま隠れた位置から鉄柵内の魔物の様子を伺う。
……行けるか。
すぐに判断すると、鉄柵を飛び越えて土壕の中に踏み込んだ。
近くにいた一角獣を速攻で倒して、周囲を確認する。
とりあえず端から端まで往復するか。
この土壕に嵌った魔物たちは大人しくしてるので、一気に走り抜けて斬り倒して行く。
行きに斬って、帰りに回収。
そんなイメージで深く考えずに首を斬り落として行く。
右と左に往復して十頭ほどの一角獣と何頭かの藍背熊を倒した。
ネグロスたちを確認すると茂みから出て来て、顔をキョロキョロさせている。
大丈夫そうだ。
とりあえずは指名依頼分の連結鉄柵の一角獣を退治した。
ただこの調子だと、奥の方まで見ておかないとかなり不安だ。
「ジャックバーグさん、依頼完了の確認をお願いします。
この先も見に行くつもりですが、一応倒し残しがないか確認してください」
「あぁ、問題無い。全て倒してる。
本当にまだ先に進むつもりか?」
「えぇ、一角獣より厄介な魔物もいるので僕が倒します。
流石に鷲獅子はいないと思いますが、一応確認したいです」
「そうか、それなら私も同行する。
危険だと判断したらすぐに撤退するので、すまないが殿を頼む」
「分かりました。
無茶しないでくださいね」
「あぁ、分かっている」
ジャックバーグが苦笑しながら手を上げた。
僕も手を上げてお互いに了解の意思を示すと先に進み始める。
ジャックバーグがあの調子なら大丈夫だろう。
レドリオンのジェシーと同じBランクだし、ここまで森の様子を確認して来たから危険度を判断できるはずだ。
僕は三人を巻き込まないために、一人先行して森を進んだ。
一人で先行して正解だった。
その先の鶴翼鉄壕には二角獣が二頭と天馬が一頭いた。
まぁ天馬はそんなに苦労しなかったけど、二角獣が面倒だった。
一頭ずつじゃなくて、二頭でコンビネーションを組んでやがった。
片方に攻撃しようとすると、もう片方が雷撃で邪魔をしてくる。動きが速いので雷撃をかわしてるとすぐに見失ってしまう。
足止めのために突鉄槍を何発も放って二角獣の動きを牽制して倒した。
まぁ、これで腰鞄の中に入ったままの以前の首も処分できる。
一緒にしてギルドで精算してもらおう。
全ての鶴翼鉄壕を確認して、屯している魔物を倒し終えるとジャックバーグたちが追いついて来た。
「はぁはぁ、本当に凄いペースで殲滅して行くんだな。
ついて行くだけでも大変だ」
「先手を取って倒さないと囲まれてしまうので、この方が安全なんですよ」
「それは分かるが、速過ぎる」
「それは……ありがとうございます。
褒め言葉ですよね?
それで、ここが最後ですけど、どうします?」
「今日はここまでにしよう。
時間的にも引き返した方がいいだろうし、情報を整理しないと追いつかない」
「ふふっ。分かりました。
僕たちも森の状況を確認できて助かりました。
それでは買取りしてもらいに戻りましょう」




